スプートニクの恋人 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2001年4月13日発売)
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もう十年以上も昔のことである。とあるホテルに泊まったときの話だ。
フロントでキーを受け取って、自分の部屋へ行くためにエレベーターに乗り込んだ。乗客は僕ひとりだった。扉が開いて、何も考えずに降りた瞬間、体が固まった。辺りがあまりにも暗いのだ。真っ暗と言ってもいい。
とっさに考えたことは、間違えた階に来てしまったということだ。たぶんボタンを押し間違えて、従業員専用のフロアにでも降りてしまったとか。
それにしても暗い。暗すぎる。いくらここがスタッフ・オンリーの場所だとしても、これでは何も見えない。何かがおかしい。ココハナニカガオカシイ……。
そこまで考えるのに、一秒とかからなかった。僕は怖くなり、もう一度エレベーターのボタンを押した。幸い扉はすぐに開き、僕は中に飛び乗った。もう一回フロントまで降りて、今度は注意深くボタンを確かめながら押した。ドキドキしながら扉が開くと、何の変哲も無い客室の廊下が現れた。あの不気味な場所につながることはなかった。僕は心から安堵した。
あのとき僕は間違いなく「あちら側」の扉を開けてしまったのだと思う。この小説にも「あちら側」に行って帰ってこない少女が描かれているが、そのような世界は本当に存在するんじゃないだろうか。
あのとき、妙な好奇心を起こして先へ進んでいたらどうなっていただろう。この本の少女のように、僕は神隠しに遭ったように消えてしまったかもしれない。だから、この物語は僕にとってフィクションではないのである。ばかばかしいと言われようが、あの夜の体験は、僕の脳裡にまざまざと刻みつけられている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年3月1日
読了日 : 2019年3月1日
本棚登録日 : 2019年3月1日

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