長いこと自宅の本棚にあった
読むのに覚悟がいるというより、ユダヤ人の知識があまりにもない状態で読むのは失礼ではないかと思い、機を待っていた
「ユダヤ人の歴史」も読んだので、そろそろ読む資格があるのでは…
しかしながらそんなものは必要なかった
なぜならこれは人間が人類が知る必要のある「生きる」とはどういうことか、問いかけてくる内容であった
もっと早く読むべきだったと後悔している
「夜と霧」は
ウィーンのユダヤ人精神分析学者が極めて冷静な視点からみずからのナチス強制収容所体験をつづった書である
本書にもあるが、著者はここでの経験を心理学の立場から解明してみると述べ、被収容者の心の変化を「施設に収容される段階」、「収容所生活そのものの段階」、「収容所からの出所ないし解放の段階」の三段階に分けて記している
時間の経過とともに被収容者の心理的変化、身体的衰えなどを交え、収容所で実際何が起きていたのか、どう彼らは生活していたのかを非常に生々しい体験を元に刻々と記している
これらについて目を背けたくなる内容が多いことは重々承知の上であるし、本書以外でも知ることは過去にも何度でもあったが、やはり同じ人間として起きた真実を直視する必要性を改めて実感した
栄養失調、睡眠不足、凍傷、シラミだらけの不衛生な収容所で流行る発疹チフス
肉体的かつ精神的暴力による統制
過酷な労働と環境による衰弱し切った身体
感情は死に心は麻痺し、無感覚になっていくこの極限の精神状態の中、生命維持だけが最期の砦だ
しかしその状況下において著者は様々な気付きを得る
〜愛する妻を想うとき、人は内に秘めた愛する人のまなざしや面影を精神的に呼び出すことにより満たされることができる〜
彼女が生きているかどうかは関係なく、精神的な存在に深く関わっている
〜労働で死ぬほど疲れていても
太陽が沈む夕日の美しさを見るために皆が集まり、その美しい自然の情景を心に焼き付ける〜
〜生そのものに意味があるとすれば、苦しむことにも意味があるはずだ
苦しむこともまた生きることの一部なら、運命も死ぬことも生きることの一部なのだろう
苦悩と、そして死があってこそ、人間と言う存在は初めて完全なものになるのだ〜
〜生きる意味についての問いを180度方向転換することだ
私たちが生きることから何かを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることが私たちから何を期待しているかが問題なのだということを学ぶ
〜
〜人間とはガス室を発明した存在でもあり、ガス室に入っても毅然として祈りの言葉を口にする存在でもある〜
と語られる
それを選ぶのは自分自身なのだ
宗教書のようでも哲学書のようでもあった
最初にもっと早く読むべきだった…としたが、実際若い頃だったら理解できなかったかもしれない
そんな精神論は理想論じゃないか…と
やはり然るべき時に読むタイミングが来るのかもしれない
心が弱っているときは大いなる勇気をもらえるだろう
平常心の時は自分を戒める書になるだろう
生きる意味に著者が気づく描写は、心が震え感動した
生きる意味を履き違えていないか…
非常に深く考えさせられる一冊であった
生きていくこの先、誰しもが多くの出来事があるだろう
信じられないような絶望や、二度と立ち直れないくらい打ちのめされることや、愛する者たちとの数々の別れ、長い間じっとりと張り付いて離れない深く暗い哀しみ、生きる気力を奪われるほどの出来事…
逆に大したことさえ起きないかもしれない
そうだからこそ
どんな場所であろうとも、どんな環境であろうとも、いつ何時でも自分が生きる意味を見出して、選択することができるのだ
そう自分が見出して選択したことが生きる意味なのだ
そして、その人自身の知恵や知識、精神の自由は誰にも絶対に奪えない
心に強く刻んでおきたい
そしていつまでも手元に置いて、何度となく確かめながら再読していきたい
- 感想投稿日 : 2021年1月4日
- 読了日 : 2021年1月4日
- 本棚登録日 : 2021年1月4日
みんなの感想をみる