夜と霧 新版

  • みすず書房 (2002年11月6日発売)
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本棚登録 : 21290
感想 : 1806
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長いこと自宅の本棚にあった
読むのに覚悟がいるというより、ユダヤ人の知識があまりにもない状態で読むのは失礼ではないかと思い、機を待っていた
「ユダヤ人の歴史」も読んだので、そろそろ読む資格があるのでは…

しかしながらそんなものは必要なかった
なぜならこれは人間が人類が知る必要のある「生きる」とはどういうことか、問いかけてくる内容であった
もっと早く読むべきだったと後悔している


「夜と霧」は
ウィーンのユダヤ人精神分析学者が極めて冷静な視点からみずからのナチス強制収容所体験をつづった書である
本書にもあるが、著者はここでの経験を心理学の立場から解明してみると述べ、被収容者の心の変化を「施設に収容される段階」、「収容所生活そのものの段階」、「収容所からの出所ないし解放の段階」の三段階に分けて記している
時間の経過とともに被収容者の心理的変化、身体的衰えなどを交え、収容所で実際何が起きていたのか、どう彼らは生活していたのかを非常に生々しい体験を元に刻々と記している
これらについて目を背けたくなる内容が多いことは重々承知の上であるし、本書以外でも知ることは過去にも何度でもあったが、やはり同じ人間として起きた真実を直視する必要性を改めて実感した


栄養失調、睡眠不足、凍傷、シラミだらけの不衛生な収容所で流行る発疹チフス
肉体的かつ精神的暴力による統制
過酷な労働と環境による衰弱し切った身体
感情は死に心は麻痺し、無感覚になっていくこの極限の精神状態の中、生命維持だけが最期の砦だ

しかしその状況下において著者は様々な気付きを得る

〜愛する妻を想うとき、人は内に秘めた愛する人のまなざしや面影を精神的に呼び出すことにより満たされることができる〜
彼女が生きているかどうかは関係なく、精神的な存在に深く関わっている

〜労働で死ぬほど疲れていても
太陽が沈む夕日の美しさを見るために皆が集まり、その美しい自然の情景を心に焼き付ける〜

〜生そのものに意味があるとすれば、苦しむことにも意味があるはずだ
苦しむこともまた生きることの一部なら、運命も死ぬことも生きることの一部なのだろう
苦悩と、そして死があってこそ、人間と言う存在は初めて完全なものになるのだ〜

〜生きる意味についての問いを180度方向転換することだ
私たちが生きることから何かを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることが私たちから何を期待しているかが問題なのだということを学ぶ


〜人間とはガス室を発明した存在でもあり、ガス室に入っても毅然として祈りの言葉を口にする存在でもある〜
と語られる
それを選ぶのは自分自身なのだ

宗教書のようでも哲学書のようでもあった
最初にもっと早く読むべきだった…としたが、実際若い頃だったら理解できなかったかもしれない
そんな精神論は理想論じゃないか…と
やはり然るべき時に読むタイミングが来るのかもしれない

心が弱っているときは大いなる勇気をもらえるだろう
平常心の時は自分を戒める書になるだろう
生きる意味に著者が気づく描写は、心が震え感動した
生きる意味を履き違えていないか…
非常に深く考えさせられる一冊であった
生きていくこの先、誰しもが多くの出来事があるだろう
信じられないような絶望や、二度と立ち直れないくらい打ちのめされることや、愛する者たちとの数々の別れ、長い間じっとりと張り付いて離れない深く暗い哀しみ、生きる気力を奪われるほどの出来事…
逆に大したことさえ起きないかもしれない
そうだからこそ
どんな場所であろうとも、どんな環境であろうとも、いつ何時でも自分が生きる意味を見出して、選択することができるのだ
そう自分が見出して選択したことが生きる意味なのだ
そして、その人自身の知恵や知識、精神の自由は誰にも絶対に奪えない
心に強く刻んでおきたい
そしていつまでも手元に置いて、何度となく確かめながら再読していきたい

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年1月4日
読了日 : 2021年1月4日
本棚登録日 : 2021年1月4日

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コメント 4件

nejidonさんのコメント
2021/01/04

ハイジさん、こんばんは(^^♪
平常心で読むことが出来ました?
私は20歳の頃読んで、前半部分で吐いてしまいました。今読んでも同じかもしれません。
レビュー後半にある引用部分は、私が読んだばかりの「行く先はいつも・・」の中でも採り上げられていました。
自分がしたいことではなく、自分に何が求められているのかを考えると、迷うこともぐっと減りますね。
話は変わりますが世界中の民話を読んで思うことがあります。
ユダヤの民話が、一番意味不明だということ。
ただただ残虐で、その目的も分からない。もちろん教訓など皆無。笑いさえない。
母国語さえもたない民族ですから、民話の収集も相当大変だったと思うのですが、とにかくカオスそのものでした。参考までに。
レビューから外れたコメントですみません((+_+))

ハイジさんのコメント
2021/01/05

nejidonさん
コメントありがとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
さすがの冷血の私でも平常心では読めませんでした。
ただ「生きる」とは…というテーマ性が強かった内容と感じ、
読み手の自分もそのテーマを深く考えながら読むスタイルになりました。
そのため私自身の読み方が少し異なったかもしれません。
民話のお話しありがとうございます。
民話ってその地域のアイデンティティを象徴するものだと思っております。
ユダヤ民話やはり少し変わっているようですね…。
読んだことはないですが何か感じることがあるかもしれません。
今後もイスラエルとユダヤ人を追求したいという思いがありますので、
機会をみつけ、読んでみようと思います。
いつも参考になるコメントをありがとうございます!

りまのさんのコメント
2021/01/16

ハイジさん
フォローに答えて頂き、ありがとうございます!
この本は、少女時代に読んだマンガの中に、引用されており、(極限状態の中で、夕日が綺麗だ、というシーン)
そこだけ覚えています。図書館で見つけたら、今度読んでみようと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

ハイジさんのコメント
2021/01/16

りまのさん
こちらこそフォローいただきましてありがとうございます!
こちらの本は生きる意味を心底考えさせられます
ぜひ読んでみてください!

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