黒猫の三角 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2002年7月16日発売)
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本棚登録 : 5970
感想 : 522
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これまでいわゆる「S&Mシリーズ」、つまり森氏のいわば代表作しか読んだことがなかったが、このたび、かなり久々に、しかもS&Mシリーズではない作品を読んだ。まるで「めぞん一刻」を想起させるような、古そうなアパートとその大家でもある豪邸に住む人たちの間に起きる事件についての物語である。
S&Mシリーズの主人公たちは「品行方正な変人」だったが、こちら(Vシリーズというらしい)の主人公は、直截な胡散臭さを備えている。
紹介文に「一年に一度決まったルールの元で起こる殺人」とあるが、そこには森氏らしい数字遊びが盛り込まれている。といっても、難しい数理や公式などが出てくるわけではないので、(私のような)文系人間でも抵抗なく読むことができる。むしろそうした数字遊び的な要素は、事件の本質を撹乱する要素でもあるかもしれない。
S&Mシリーズとの対比ということになるが、本シリーズはより登場人物が(主人公のみならず)個性的で、繰り広げられる会話も軽妙洒脱である。このシリーズの一作目ゆえ、おそらく、今後このシリーズにレギュラーメンバーとして登場するであろう人物の紹介も書かれている。ともあれ、軽妙でテンポよく進む物語の中に、巧みにプロットを忍ばせる森氏のテクニックにはまたも舌を巻いた。
凝ったトリックを好む向きには、敬遠される要素もあるかもしれない。幸い、私はミステリー小説を読むときも、血眼になって犯人探しや動機解明をしたりしないタイプである。何気なく読み進め、漠然とした憶測は持つけれど、それが裏切られることに心地よさを覚える。本作はそうしたタイプの読者には、抵抗感はないだろう。
胡散臭い個性あふれる登場人物たちを忘れないうちに、次作も読んでみようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(ミステリー)
感想投稿日 : 2019年8月19日
読了日 : 2019年8月12日
本棚登録日 : 2019年5月14日

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