家族八景 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1975年3月3日発売)
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感想 : 640
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まず驚いたのが、1972年発表の作品(単行本にて)だということ!
なんとなんとの50年前…!!(2022年現在)
今もなお読める50年前の作品が、果たしていくつくあるだろうか…??
刊行されても数えきれない作品が消えていってしまう本の世界で、これだけの年月を経ても読める、未だに増刷されているというのは、本当にすごいことだとおもう。

ちなみにわたしが手にしたのは図書館で借りた「平成2年」の版だったのだが、定価が320円で安くて涙が出た…
つい最近、書店でおなじ本を見たときは、確か600円台たったので、文庫を手に取るハードルが本当にあがっていることをしみじみ感じた。
中身を比べてみると、平成2年版は字も小さく詰まった感じがあり、最近の本を読み慣れているとやはり違和感があった。しかしとても薄く、持ち運びしやすさは抜群。
一方、現代版をパラパラめくってみると、フォントがとても大きく、老眼でも読めるかも?!とおもうくらいだった。その分、厚みはあったけれど…

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というわけで、ようやく本の中身の感想である。
(前置き長っ)

この「家族八景」は七瀬3部作の第1作。
七瀬シリーズといえば、「七瀬ふたたび」という水野真紀さん主演のドラマを見た覚えがある。
調べたら「木曜の怪談」(めちゃ懐かしい!タッキー目当てで見てた)という番組内でドラマ化されてたらしい。
そりゃ見てるはずだ。
しかし、ドラマの内容はなんかサイキックな話だったような…程度にしか覚えておらず。でもドラマがおもしろかった印象だけは残っていて、ならばここで3部作という原作小説を読んでみようじゃないか…!ということで、第1作の「家族八景」を手にしてみた。

七瀬というのは、テレパシー能力を持つこのシリーズの主人公の女性である。フルネームは火田七瀬。
その能力が故に、一所に長くとどまれない七瀬は、高校を卒業後、住み込みの家政婦として短期間に雇い主を変え、家を転々としていく。
本書はその、七瀬の雇い主となった8つの家族について書かれた連作短編集だ。

はっきり言ってこの「家族八景」では、ものすごい大事件は起こらない。
家族関係もパッとしないように見えるし、特に前半はかなり地味な展開だ。
でも一見、平凡に見える家族も、よくよく観察していくとおもてには見えない面がポトポトと落ちている。
さらに七瀬はテレパシーをもっていて、人の心が読めてしまうため、言動はなんの問題もなさそうな人の闇というか、内面が見えてしまい、そこに物語が生まれていくのだ。
平凡でつまらなく見えることも、よくよく観察して見方をかえていくと、おもしろさが潜んでいる…ということを、教えてくれている気がした。

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また、読み進めていくと、主人公七瀬の外見や内面も、少しずつ「変化」していることがわかる。
はじめはオドオドしていて、目立たないように生きている感じの少女だったが、後半に住み込んだ家(「日曜画家」あたり)では、七瀬のほうから家族に対してしかけていく様子が見られる。
また、最後の短編「亡母渴仰」(ぼうぼかつごう)は、亡母による怨念が振りまかれた状態でプツッと、唐突にテレビが消されたような感じでラストを迎え、衝撃からなかなか抜け出せなかった。

「家族八景」は、好みがわかれる作品だとおもう。
ドラマ「七瀬ふたたび」のおぼろげなサイキックな印象をもって「家族八景」を読み始めたので、全然雰囲気がちがって面食らったのが正直なところだ。
しかし小説第2作目の「七瀬ふたたび」からは、ちゃんと(?)サイキックなお話になるようなので、それをたのしみに読んでみたいとおもう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年11月17日
読了日 : 2022年11月7日
本棚登録日 : 2022年11月5日

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