ゆき

  • あすなろ書房 (1998年11月1日発売)
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本棚登録 : 541
感想 : 71
5

理屈じゃなく、気持ちをそのまま感じることの大切さ。

心を癒やしてくれる冬の1冊。

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街に降る雪。

「雪が降ってる!」

窓から空をみた男の子は、にこにこと叫びます。

でもオトナたちは、すました顔でこういうのです。
「こんなくらいじゃ、降ってるとは言えない」
「すぐ、なくなってしまうわ」

でもそんなオトナたちを後目に、雪はどんどんどんどん、降り積もっていき…

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この絵本を読んだのは、まだうつの症状がまだらにある頃でした。

「オトナだから、こうあるべき」
「常識から考えて、それはおかしい」

そんな考えがわたしの頭の半分以上を占めていて、働いていない自分、休んでいる自分にわだかまりを抱えていました。

「もっと世界には、わたしよりも苦しんでいる人がいる」
「うつくらいで、しんどいなんて言ってたら、申し訳ない」

見えない“誰か”と自分を比べ、自分が感じているしんどさは感じてはいけないことなんだ、と日々思っていました。

そんなときに読んだのが、「ゆき」という絵本でした。

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わたしたちは科学を発展させ、地球の王さまのように振る舞っています。

けれど、未だに天気は操れないし、病気をすべて根絶することもできません。
科学がいくら発達しようとも、人間にできることなんて、ほんのわずかなことです。

それなのに、自然のことや地球のことは何もかもわかったような顔をして、雪でさえも「こんな雪はすぐ止む」「たいしたことない」なんて、上から目線でしか言えない“オトナ”たち…

なんだかその姿が滑稽に思え、また理屈や常識、外聞にとらわれている自分もまた、この絵本のオトナたちとおなじではないか、と思いました。

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雪が降ると面倒だ。
雪はうんざりだ。

けれど小雪になると「冬っぽくない」などと、騒ぐ人間という生き物。

そんな中にあって、ただひとりだけ、「雪が降ってる!」とにこにこ空を見上げて、犬と喜ぶ男の子。

大雪に備えることはもちろん大切だけれど、雪が降るそのワクワク感を手離したら、人間は人間でなくなってしまうように思います。

わたしもまた、常識や外聞、理屈というもので自分を固めすぎ、気持ちを素直に感じとることを、長く忘れていました。

「雪はうんざりだ。」
そう思う人も居ていいけれど、
「雪が降って楽しい、うれしい」
そんな風に感じる人も、居ていいんだ。

自分の感情を、きもちを、ありのまま受け止めて、楽しんだりおもしろがったり、哀しんだりしていいんだ。

わたしは泣きました。
この絵本を読んで泣きました。


今年も雪を眺めながら、この絵本とともに、「ちらちら おどって、くるくる まわって、」(引用)雪をたのしんでいます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本・児童書
感想投稿日 : 2021年1月3日
読了日 : 2019年6月26日
本棚登録日 : 2019年6月26日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2021/08/21

こゆきうさぎ@148センチの日常さん
こんにちは。

これ、文も絵もいい絵本ですよねえ(しみじみ)
こゆきうさぎさんのレビューも素敵です。
「けれども雪はテレビを見ません。ラジオも聞きません」の言葉は、雪を通して自分の感性のことを言っているように感じました。

「ちらちらおどって くるくるまわって」
本当に素敵です。

こゆきうさぎ148さんのコメント
2021/08/22

淳水堂さん

感想読んでいただき、ありがとうございます(o^^o)

わたしも久しぶりに自分の感想を読みなおしてみて、自分の文章なのにぐっときてしまいました(汗)
この絵本には、本当に助けられました。

雪はテレビを見ない
雪はラジオも聞かない

雪だけでなく、著者もそうだったのでしょうかね。
雪自身のように著者もまた、他者の言葉ではなく、自分の五感を通して受けとったものを一番大切にされていたのかも。
だから、こんなに心に染みる絵本を描けたのかなと思いました。

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