前著「桶川ストーカー殺人事件」は19歳の時に読んで衝撃を受け、いまでも生涯ベスト5に入るほど思い入れのある作品です。あの清水潔さんが久しぶりに新刊を出すということで、迷わず購入し、あっという間に読み切ってしまいました。読み終えてから気づいたのですが、清水さんが本を出すのは「桶スト」以来なんですね。
「桶スト」以来…清水さんが本を出すというのは、きっとそれが“最終手段”のときなのだと思います。「桶スト」がつまびらかにしたのは警察組織の腐敗と、それを追求できないマスコミとの関係性でした。犯人は明らかだ。しかし、それを分かっていても警察は組織の都合、動こうとしない。だからこそ清水さんはそれをあえて世間に公表し、警察が動かざるを得ない状況を作ろうとしたのです。
本作も基本的な構造はそれと同じです。清水さんも本文で言っている通り、菅谷さんのえん罪をはらすのは通過点でしかなく、あくまでも真犯人を追い、それを世間に公表することを主眼にしています(だから第6章以降が加速度的に面白いです)。ときに警察・検察に、ときに国会へと場所を移し、真実を明らかにするように訴えるのですが、組織の様々な事情が物事をすんなりと運ばせない。
一読者の僕ですら、警察・検察組織のちんたら具合にイライラするのですから、当事者である清水さんの心中はいかほどだったでしょう。少女5人を殺した犯人はそこにいる、でも捕まえられない。これは惨い。詳しくは本文で書かれているので割愛しますが、もう二進も三進もいかない状態です。これは世の中に訴えるしかない、世論を動かすことで霞ヶ関を包囲するしかない、清水さんはそう考えたのではないかと思います。
清水さんの本を読んでいると、「警察は正しいものの味方」という僕たちが当たり前のように持っている感覚に疑問符を抱かざるを得ません。人間が動かす組織だから、ある程度の脱線は仕方のないことでしょう。しかし、桶ストにしろ、この事件にしろ、警察は常に身内の味方しかしていないのです。警察神話を信じている市民、そして何より被害者家族にとってこれほど恐ろしいことはありません。菅谷さんの再審判定に関する毛髪鑑定の下りなど思わず笑ってしまいました。
犯人へむけた最後のメッセージは強烈でした。この本を読んで、真犯人は一体どう思うのでしょうか。警察関係者は何を感じるのでしょうか。被害者家族の痛々しい様子を目の当たりにするにつれ、本作がきっかけでこの連続殺人の真実が明らかになることを願います。
年の瀬に出会った2013年のベスト本です。
- 感想投稿日 : 2013年12月28日
- 読了日 : 2013年12月28日
- 本棚登録日 : 2013年12月25日
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