Pachinko: The New York Times Bestseller
- Apollo (2017年8月3日発売)
- Amazon.co.jp ・洋書 (560ページ)
- / ISBN・EAN: 9781786691378
感想・レビュー・書評
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英語圏の読者にこの一冊が幅広く読まれていて、日本の在日韓国朝鮮人への扱いのイメージがこの本によって成り立っていることを、多くの日本人知識層は認識した方がいいと思う。
色んな人に「あの本読んだ?」と聞かれる本がたまにある。それは昔でいうとカズオ・イシグロの「Never Let Me Go」だったり、もっと最近だと「ホモデウス」だったりする。2018年頃くらいから、本書がその仲間入りをした感覚がある。様々な国籍の英語が読める知識層から、「あの本読んだ?日本から来ているあなたの感想が聞きたい」と言われるようになった。
やっと読めたこの一冊は圧巻だった。ワイルド・スワンを熱烈に推薦していた私に、友人たちが逆推薦した意味もよくわかる。在日韓国朝鮮人の一家の生き抜く姿を通じて、日本の朝鮮植民地支配から、日本の敗戦、朝鮮戦争、そしてバブル経済期の近代日本の時系列を辿る。
本の重点はあくまで時代を生き抜く主人公たちで、歴史への断罪ではない。淡々と信教に対する迫害、貧困、差別、帰郷する土地すら失うこと、そしてそれを受容し耐え抜く一家を描く。次から次へと降りかかる悲劇に心が痛んでページをめくれなくなる瞬間は多々あったけど、物語は平然と何もなかったかのように次に展開されていく。あくまでそれが日常だというように。
あとがきを見ると作者はこの物語を紡ぐのに30年かかったと言っている。色んな断片の物語を書いては違うと破棄し、結局アメリカにいる間に構想はまとまらず、夫の赴任で日本に住んで、無数の在日韓国朝鮮人に取材してやっと納得のいく物語ができた。それが本書だ。その努力の甲斐あって、本書は実に多面的で、様々な立場の人間の心情を立体的に浮かび上がらせている。一家の孫はアメリカのコロンビア大学に入学して、韓国系アメリカ人の恋人をつれて、イギリス資本の投資銀行の職につく。韓国系アメリカ人の彼女は日本社会の在日韓国朝鮮人の扱いを不平に思い、日本人という集団を嫌いになる。しかし、実際に日本で生まれ育ち差別を体感している本人は、一面的な悪い日本人像を拒絶し、差別される・見下されると知りながらも日本に残る選択をする。同じ状況に置かれながらも、様々な人間が異なる感情を持ち異なる選択をする。根本として、人間の多様性を暖かに見つめ、そして自由選択する個人をどこまでも賛美する本だと感じる。
あまりにも多くの思いや、多くの掘り下げるべき描写がある。登場人物の誰もが脇役ではなく、強烈な存在感を放つ。その一人一人の人生における選択肢を尊敬し、できるだけ理解し、寄り添える人間になりたいと私は思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
在日コリアンSunjaとその家族を軸に、翻弄されながらもその中で続いていく多くの人生をめぐる。
著者がフェアであることを心がけたと言うように、良い日本人もいれば悪い日本人もいるという姿勢は全編に貫かれているけれど、やはり日本人として胸が苦しくなる。
自分の母国が他国に支配され、名前すら奪われるということ、生きるために日本に渡った後に祖国が分断し帰れなくなること、選択肢のないまま何世代も「在日」として生きるしかないこと。
とにかく今までこういうことを、頭でわかったつもりになっていただけで、自分事としては全く理解していなかったことに気付いた。
それをSunja達を通して、自分の問題だと思えた。本の力を感じる。
だいたい、読む前に思った「パチンコっていうタイトルはどうか」という感性自体が、この物語に出てくる日本人の典型で、無意識の偏見、人間をラベル付けして切り捨てるような感性から来てたんじゃないだろうか。
人が作った台の上で、プレーヤーは球がどう動くか操作できない。球は一瞬煌めいて落ちていく。ほとんどが負けるけど、ごく少数は勝つこともある。同じゲームでも、絶望にもなれば希望にもなる。
人生も同じなのだろうと思った。
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Kindle 英語版について
セール?で300円だったので英語で読んだ。長いので根気はいるけれど、Word Wiseがあるし、舞台が日本なので想像がつくことも多く、結構なんとかなる。
",right?"の替わりに",nee?"が使われてたり、”girlfriend-o"という書き方とか、日本語ってこう聞こえるんだなというのもわかり面白い。 -
1910年代日本の占領下にあった朝鮮半島から80年代の横浜まで4代に渡る在日コリアンの家族を描いた力作。若くして不義の子を身ごもったSunjaは、それを知りながら夫となるIsakに伴って大阪に来る。在日コリアンとして家族は様々な壁にぶつかる。物語の語り口は淡々としていて悲惨な状況も突き放して描かれている。Sunjaの或る種の諦めがこの語り口に象徴されているようにも見える。同じ在日でも個々の日本社会との関わりは様々なのだが、共通して言えるのは日本社会には受け入れらないということ。
在日三世にあたるSolomonは、私と同世代。奇しくも物語の終わりは、私が日本を出た頃と重なる。日本に住んでいた頃は在日の歴史など殆ど知らずにいたが、自分が移民となって外に出たときにほんのわずかだけど彼らの存在と移民としての自分に共通項ができた。しかし、ホスト国であるオーストラリアと自分の関係の複雑さは、日本と在日コリアンたちとの関係には遠く及ばない。 -
休み休み2年かけて読了。コリアン家族4世代のクロニクルだが、扇情的ではなくて淡々と記述されていて、行間を読ませるので、意味がわかった瞬間に「どっと」涙と嗚咽が溢れてしまう場面が何回かあった。
人生の悲惨の中にも人間の強さがあり、その強さがそのまま希望になっているような読後感でした。 -
2月の旧正月休みにメルボルンに遊びに行った時、立ち寄った本屋で見かけてずっと気になってた本。やっと読めた。
第二次世界大戦前から戦後にかけて、韓国から日本に渡って来た家族4世代にまつわるストーリー。戦時中の生活の過酷さはもちろん、日本に住む韓国人として受ける理不尽な扱いを、非日本人の視点から見てじっくり読んで体験するのは初めてだった。どんなに日本語を完璧に話せて、見た目だけでは非日本人じゃないことがわからなくても、やっぱり島国で育った日本人からしてみれば、生粋の日本人じゃない=外国人ってレッテルを貼ってしまうもの。特に戦時中や戦後直後だと、今みたいに普通に街中で外国人を見かけることはそんなに頻繁になかったし、外国人に対する排他的な態度はあからさまだったと思う。そんな中で、世間に揉まれながらも、たくましく生きていこうとする家族。親も自分も日本で生まれたのに、日本人じゃない。恋人には、自分の人間性どうこうよりも、『韓国人』とゆうベールを通してしか見られない。配偶者に、自分が韓国人だと知られたくないが為に、家族との連絡を断ってしまう。…なんて、在日韓国人が通ってきたであろう色んな事実がフィクションとして描かれてます。悲しくなることが描かれてる割合が多いけど、読んで良かった。
そして思ったのが、グローバル化が進む現代でも、まだまだ日本は排他的で、外国人に対して消極的な態度を取る国だよなぁ、とゆうこと。なんなんだろうか、これは。ふと考えてみると、自分は海外生活も通算7年目に突入していて、毎日英語を使ってる生活だけど、日本語ってほんとに特殊な言語だよな、と。英語を喋る人は世界中に溢れるほどいて、みんなそれぞれ色んなアクセントで喋ってる。そして、どんなアクセントがあっても、英語が第一言語である人にとっては、それが母国語。でも日本語は、方言の違いはあれど、日本語が母国語でない人が日本語を喋ったら、すぐにわかっちゃう。日本での滞在期間が何十年の外国人でも、イントネーションや文法がちょっとおかしいと、たちまち「あ、やっぱり外国の人にとっては、日本語を完璧にマスターするのは難しいよね」なんて思ってしまう。それも、日本人が非日本人に対して、日本人同士の時とは違う態度を取ってしまう理由の1つなのかなぁ…とか、ふと考えてしまった。この本に出てくる人物達に関しては、日本で生まれたキャラクターは韓国語よりも日本語のほうが得意ってゆう設定だけども。でも、長男が代々家を継ぐとか、血の繋がりを重んじる日本人は、やっぱり喋る言語や見た目よりも、体にどんな血が流れているかにこだわるのかな。日本は島国で、大陸で隣の国と繋がってるわけじゃないし、その分非日本人に対して未だに免疫力が低いとゆうか、なんとゆうか…。日本人の英語力の低さも問題だしな…でも、日本にずっと住んでたら、英語なんか一切喋れなくても全く困ることないしな…。
この本を読み終えて、なんか色々ぐるぐると考えてしまった。 -
長かったーー。紙の本にしたら752ページらしい。。。
1900年代はじめの日本統治下の韓国から日本に渡った韓国人一族の四世代の年代記。渡辺由香里さんの洋書ブログで知って、わたしはこういう大河小説的な年代記みたいなのが好きなのと、最近、「移民」の話に興味があるので読んでみた。あと、「パチンコ」店て韓国人経営が多いっていうのをまったく知らなかったので、それにもなんだか興味をひかれたし。(結局、パチンコ店経営に至る具体的な話とかはなかったんだけど。要するに、ギャンブルだし、立派な仕事とはみなされないので日本人はやりたがらず、そこにしか韓国人が入り込める商売はなかった、っていうことらしい。そういったことも知ることができてでもよかった、これまで考えたこともなかったので)。
とにかく長くて読み終わらないかと思ったくらいだけど、年代もかわるし、語り手がかわって雰囲気もかわるせいかまったく飽きずに読めた。日本に渡ってきた韓国の人々の苦しみには、日本人としてもうなんとも言葉がない感じ。満足な仕事も得られずに貧しかった一世代目の苦労ははかりしれないし、二世、三世は日本で生まれて日本語を話して日本人と変わりないのに、日本人と認められずに差別されるという。。。
戦争中、戦後、高度成長期、バブル時代という日本の歴史を客観的にみられる感じもしたし、外からみた日本人像みたいなものがうかがえるのも興味深かった。日本人、とにかく人と違うことを嫌う、みんな同じでないと気がすまない。なんでも「しょうがない」って言ってあきらめる。この「しょうがない」ってすぐ言う、っていうのは本当に!と共感した。なんか、「しょうがない」って流すのがかっこいいみたいに思ってないか、日本人?って思うときがあるくらい。そうやって流して知らんふりするか、そもそも気づいてもいないのか、日本人って自分のことながらものすごく冷たい感じがする……。
悲劇も多く描かれていて、でもなにか声高に主張するとかそういうふうではなく、なにかが解決するわけでも、未来に希望がみえるというわけでもないのだけれど、淡々と人々の生と死を描いた感じが好きだった。韓国の人々、違うルーツをもつ人々の気持ちがわかったとかいうのはおこがましいけれど、読むことで、知ることで、いろいろ考えさせられてよかったと思った。 -
在日韓国人4世代にわたる大河小説。"Women's lot is to suffer"という言葉が出てくるが、女も男も苦しみ、もがきながら生きている。登場人物が丁寧に描かれていて、共感し、応援したくなる。筆者の筆がやさしくて、悲惨な物語だがラストは希望も感じさせる。
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とても強烈な小説。在日韓国人4世代の人生を描いた骨太なストーリー。とても分厚い小説ではあるものの、その内容にくぎ付けになり、あっという間に読み終えた。
英語で書かれた本書だが、日本人からすればとても想像しやすい内容であり、情景が浮かびやすいシーンも多いので非常に読みやすかった。これまで、在日韓国人との接点がほとんどなかった日本人にとっては、ある種日本の社会を改めて考えさせられるきっかけにもなると思う。
マイノリティに対して時として暴力的に不寛容になることがある社会はいたるところに存在している。だからこそ、国籍を超えて多くの人に突き刺さる小説になっているのだと思う。
決して楽しく痛快な物語ではない。むしろ、切なく心が締め付けられる小説ではあるが、読んでよかったと心から思える本。 -
目を背けられない、韓国人に対する、日本の差別の歴史。
A women’s lot is to suffer.