幻の朱い実 上: 石井 桃子コレクシヨン 1 (岩波現代文庫 文芸 252)
- 岩波書店 (1994年2月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000021456
感想・レビュー・書評
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・石井桃子の自伝的小説。
・服は自分で仕立てるもの、通信は手紙で行うもの。戦後すぐの時代の生活の雰囲気はこんなものだったかと思う。
・文章、特に会話のリズムが良い。明子と蕗子の、しばしば助詞を略する話し方が特徴的。「あの頃、毎日喧嘩してた。だって、先生のところで、ただでいられる部屋と職業、棒にふっちゃったんだもの。知らない、新しいことにとびついて、へんな小説かくほか、わるいひとでもないと思ってたんだけど…(p94)」歯切れのいい東京アクセントの、活発で知的な女性の会話という印象が文章から立ち上ってくる。そういえば石井桃子は、児童文学においても音読の価値を重視していた人らしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
感想は下巻
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2014.7.30市立図書館
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日本の児童文学の第一人者、石井桃子さんが晩年に発表し、読売文学賞を受賞した大長編。
舞台は昭和初期。女子大時代の先輩後輩である蕗子と明子の友情を綴ったこの作品、正直読み始めるまでは、敷居が高いような気がしていた。でも、たくさんの児童文学作品を発表してきた石井さんの文章は、格調高く且つ読みやすく、かつて絵本などで親しんできた石井さんエッセンスを文の端々に感じることが出来た。上品なユーモア。昭和初期のモダンな雰囲気を味わえる描写。読んでいてわくわくした。
つくづく感じたのは、時代は違えど、若い女性の感性は現在とそう変わらないのだということ。主人公の明子は、両親を亡くし、女子大卒業後は就職して自立、女子アパートにひとり暮らししている。小母からの「結婚しなさい」プレッシャーをのらりくらりとかわし、当分は蕗子との付き合いを楽しみながらこの自由を謳歌したいと思っていた。今でこそ「そりゃそうでしょう」と思えるこの状況も、昭和初期という時代を考えると少数派だったであろう。
オクテだった明子にも恋の予感が訪れるが、どうにも頭でっかちで結婚に踏み出す勇気がない。(この辺の迷いもよくわかる!)明子が自分の心に芽生えた恋の感情を自覚するシーンは初々しくて、読む方もかなりときめいた。結婚後、不器用故に根詰めすぎて、体調を崩し自分を見失う明子。結婚したといっても、自分の足で立ちたい…そんな明子の気持ちがなかなか通じない夫。この辺りも、今の女性が大いに共感できること間違いなし。だからこそちょっと切なくなった。
上巻は、明子と蕗子の友情、そして明子の恋など、爽やかな青春シーンが多いのだが、ずっとこのままではいられないであろうことはそこはかとなくわかる。蕗子は結核を煩っている。そして、いずれ戦争の色は濃くなっていく。下巻がどんな展開になるのか…が気になって気になって。晩年にこんな素晴らしい作品を発表した石井先生のすごさを改めて感じております。 -
昨年亡くなった石井桃子氏の長編小説。 彼女の訳書は、小さい頃からかなりたくさん読んだし、『ノンちゃん雲に乗る』なども読みましたが、こんな大人の長編小説を書いていらっしゃったとは知りませんでした。 明子と蕗子のユーモアに満ちたやりとりが気持ちよくて、夜更かしして一気に読んでしまいました。
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2007年11月 癖のない語り口。女性二人の濃密な友情の話。濃密さがうらやましくてほほえましい。夫等の理不尽さに憤りを感じる部分もあるけど、全体的に穏やかで読んでやさしい気持ちになった。時間軸が長い小説を読んだことがなかったので新鮮だった。昔ほど結婚や介護にがんじがらめにされない現代に生まれてよかった、とも思った。
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2007年3月30日(金)、読了。
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上下巻。女学生気分、女友達。