国家論のクリティーク

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000228664

作品紹介・あらすじ

現在、国家の退場が語られる一方で、私たちは「退場後」の政治秩序を明確には想像することができない。国家という概念と、それが過去一世紀に被った変化の検討を通して、これまでの国家をめぐる思考の陥穽を明らかにし、国家とその権威とを従来の政治的批判の呪縛から解き放つ。政治的なものに関する問いを再政治化する試み。

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  • 国家についての根源的な問いかけ。人間社会にとって国家は必要不可欠のように感じられるが、本当にそうか?歴史地図を見れば分かる通り、国家の領域として色付けされていない場所は数多くある。国家のある所には統治があり、そこには政治があって権力闘争が付きまとう。国家のない社会は果たしてどうか?

  • コペンハーゲン大学の政治学部(国際関係論)、イェンス・バーテルソン教授による、国家論の本。訳は非常に難解だが、議論の内容はシンプルなので、意味はとりやすい。
    国際関係論の教授が、そのフィールドの前提とする国家自体に疑問を投げかけることは非常に珍しい。教授は、国家というものについて19世紀から投げかけられた批判をひとつずつ検証していき、それぞれの理論の説明が、何に成功し、何に失敗したのかを丹念に読み解いていく。
    政治学が国家というものを前提にすることで成立しているのに対して、歴史学は、今の国家が偶然的なものであり、必然ではないことを歴史的文脈の中で説明している。そのため、両者は基本的に相いれない。
    19世紀に入り、国家という概念に対して、2つの派が疑問を投げかけた。多元主義者とマルクス主義者だ。多元主義者は、国家は社会の様々な構成物のうちのひとつにすぎないという主張で、国家に対して政治学がもつ特殊な意味合いをはぎ取ろうとした。しかし、多元なものがどう秩序づけられているのかを説明できなかった。
    マルクス主義者は、国家は中立的な秩序創造体ではなく、資本主義による支配階級の利益誘導体として国家をとらえた。しかし、階級がわかれている中で、なぜ国家という一体性が保持され続けているのかを説明できなかった。
    教授は、最終的には国家論を批判しきれずにいることを認めているが、国家と市民社会という対立構造については強く否定し、国家と市民社会というものは、国家という概念を成立させるための裏と表の関係で、市民社会という概念もまた、国家統治機能のために政治学が作り出した概念であるととらえる。同時に、国際関係論が国家を境目にして、国際政治と国内政治に分化することについても非難し、国家というものを正確に定義できずに、両者を区分けし、いたずらに科学的アプローチをもって国際関係を論じることの限界(さらにはナンセンスさ)を論じている。
    国家なき統治についてのイメージは依然はっきりしないが、国家という概念を絶対視しない態度の可能性を大いに意識させてくれる本だ。国際関係論、政治学、社会学、行政学を修める方には、ぜひ読んでみてほしい一冊。

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