精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 21
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000236850

感想・レビュー・書評

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  • 臭い物に蓋をする。異物を隔離して無かったことにする。
    そんなおかたづけを、治療などとは呼べない。
    理解できない(する気もない)狂人を見えない場所にしまっておくだけの治療効果の無い「治療」は、矯正効果も意味も無い規律を強いる監獄に似ている。

    イタリアでは1998年までに精神病院を全廃したという。
    それが有効な手段になるのは、患者の人生をサポートする体制を整えてこその話。
    家族に丸投げするのでも病院に閉じ込めるのでもなく、社会の中で生きていけるように社会が支援する。
    医療という社会活動。病気を見張る場所から生活を助けるシステムへの転換。

    患者をただ追い出すだけでは路頭に迷う。
    病院を半端に残しては、重篤な病人が病院に取り残される。
    この政策は、病院を完全に廃止し、すべての人が利用できるサポート体制を整えることで、はじめて真価を発揮する。


    福祉関係は北欧がダントツでイタリアはどちらかといえばダメなほうというイメージがあったけれど、こと精神医療に関してはイタリアこそが世界の先を行くらしい。
    とはいえ南北格差があったり、相性抜群の保守とネオリベがおててつないで逆風を吹かせたりで順風満帆とはいかない。
    その辺もふくめて、変えようとする勢いや力に勇気付けられる。
    バザーリアはなんだかハーヴィ・ミルクとイメージが重なる。

    ひるがえって日本は半世紀遅れの(しかも逆方向の)変化を推進しようとしているらしく、知った現状にも知らなかったという事実にも滅入るばかりだ。
    日本で精神医療やカウンセリングの敷居が高いのは偏見や国民性以前にシステムがお粗末すぎるってのがあるんだろうな。

    滅入るエピソードはあるけれど、本自体の印象は全体にポジティブ方向に導いてくれる。
    人に勧めたくなる。知って欲しい。

  • 精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本
    (和書)2010年08月27日 16:31
    大熊 一夫 岩波書店 2009年10月7日


    柄谷行人さんの書評で読むことにしました。

    とても面白いです。

    何が面白いかっていうと、取り組む姿勢によって全く別物に変わっていくイタリアの精神医療の現場というものが現実に存在しているということに衝撃を感じる。

    日本の精神病院はなんなんだろうか?イタリアは精神病院をなくしている。その徹底性に、一切の諸関係を覆せという無条件的命令をもって終わる(マルクス)をみてしまう。人間と「宗教の批判」。宗教と精神医療というところが、なかなか明確に描かれていて面白いです。

  • 無意識のうちに無知のうちに、弱い立場に置かれた人を、踏みにじり抑圧している側に自身もいることにはっとさせられる。゛常識゛を疑うこと。多数の゛平穏゛のために、少数を踏みにじって痛みを感じない社会の底の浅さを思った。

著者プロフィール

ジャーナリスト、東大(科学史科学哲学)卒、元朝日新聞記者、元大阪大学大学院教授(日本の国立大学初の福祉系講座の初代教授)。1970年に都内の私立精神病院にアルコール依存症を装って入院、『ルポ・精神病棟』を朝日新聞に連載。鉄格子の内側の虐待を白日のもとに。『ルポ・精神病棟』(朝日新聞社)、『精神病院を捨てたイタリア捨てない日本』(岩波書店)など著書多数。2008年フランコ・バザーリア財団からバザーリア賞を授与。


「2016年 『精神病院はいらない!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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