茂吉 幻の歌集『萬軍』――戦争と斎藤茂吉

著者 :
制作 : 秋葉 四郎 
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000253116

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  • かしこみて勇みだちける十二月八日の朝を永久【とは】にさだめつ    斎藤茂吉

     太平洋戦争開戦の日、「十二月八日」。その1年後、1942年の歌である。これらを収めた歌集「萬軍【ばんぐん】」は、45年夏に「決戦歌集」として刊行するべく準備されていた。
     ところが直後に敗戦。歌の内容が時勢にそぐわず、刊行は見送られた。そのため、「萬軍」は「幻の歌集」となった。
    自筆原稿は弟子の佐藤佐太郎が預かっていたが、いつしか不思議な動きが起こる。どのような経緯か、ガリ版刷りの「萬軍」が古書店に出回り、高値で売られるようになったのだ。ミステリアスなその間の事情は、秋葉四郎の近著に詳しい。流布本と、原本との異同も確かめ、自筆原稿を写真版で収めた貴重な編著書である。
     それにしても、「萬軍」はほぼ戦意高揚にかかわる歌群である。茂吉はなぜ、そのような戦争詠を量産したのだろうか。
     1882年(明治15年)生まれの茂吉は、日露戦争はじめ、大きな戦争の世紀を生きた世代。しかも、第1次世界大戦の敗戦国ドイツに留学した体験が、「敗戦」を極度に恐れる戦争観の源となり、「武装」した短歌の量産につながったという。
     還暦を超え、歌壇的には大家という立場にあった茂吉は、新聞やラジオ放送で公的な歌を依頼されることも多かった。それらを「ユニフォーム歌」と語り、役割期待に応えた側面もあった。
     現在、集英社から「戦争×文学」という全20巻のアンソロジーが刊行中であり、敗戦後の茂吉の歌も収録されている。

     (2012年12月2日掲載分)

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著者プロフィール

1937年生まれ。千葉県出身。千葉大学教育学部卒。茂吉直系の弟子、佐藤佐太郎に師事。短歌結社「歩道」編集長、日本歌人クラブ顧問(前会長)。主な著書『完本 歌人佐藤佐太郎』角川学芸出版『茂吉 幻の歌集「萬軍」』岩波書店『茂吉入門―歌人茂吉・人間茂吉』飯塚書店など。

「2018年 『『赤光』入門 斎藤茂吉を愛唱する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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