- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000614405
作品紹介・あらすじ
小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は——。
装丁:鈴木成一
■ 推薦のことば
筒井康隆
これはただの不条理文学ではない。
文学論や作家論や大衆社会論を内包した
現代のリアリズム小説である。
国家が正義を振りかざして蹂躙する表現の自由。
その恐ろしさに、読むことを中断するのは絶対に不可能だ。
荻上チキ
息苦しいのに、読み進めずにはいられない。
桐野作品の読後には、いつも鈍い目眩が残ると知っていても——。
自粛によって表現を奪い、相互監視を強める隔離施設。
絶巧の文章が、作中世界と現実とを架橋する。
石内 都
個人的な価値観、個人的な言葉、個人的な行動をもとにして作品を創る。
それは自由への具体的な希求であり表現だ。
その基本がいつの間にか奪われ拘束される。
『日没』は桐野夏生でさえ越えられない身のすくむ現実がすぐそこにあることを告げる
武田砂鉄
絶望の中でも光を探すことができる、と教わってきた。
だが、この物語にそういう常識は通用しない。
読みながら思う。今、この社会は、常識が壊れている。
どこに向かっているのだろう。もしかして絶望だろうか。
■ 著者のことば
私の中の「書かなくてはならない仕事」でした。
桐野夏生
■『日没』Twitterアカウント
☞ @nichibotsu2020
感想・レビュー・書評
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とてつもない衝撃・・・おそるべきサスペンス小説!
ポルノ小説に定評のある中年女性作家。マッツ夢井(ペンネーム)。
彼女に<総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会>を称する組織から、突如 召喚状が届く。
向かった先は茨城にある<七福神浜療養所>なる謎の施設。それは断崖絶壁に囲まれた、脱出不可能な場所にあった。
そこでは「思想に偏向がある」とみなされた作家が<治療>と称して、事実上監禁されていた。
看守のような職員はみな非人道的で、収監者からは自殺者が多発している。彼らの対応が酷すぎて、憤りを通り越して恐怖をおぼえる。
戦中の特攻警察や、アウシュビッツ、某ロ○アや某中○を連想させるディストピアが描かれるが、過去、いや現在に至っても、このような行為が行われている(だろう)現実が、ひたすらにおそろしい。
コンプライアンス、ポリティカル・コレクトネスが、言葉狩り、ひいては思想狩りにつながっていく可能性。
自由と尊厳を奪われながらも、意思の力で思想の矯正に抗い、助かる道を探るマッツ夢井。彼女の強さを心から応援してしまう。
怪しげな職員たちに信用できる人間はいるのか?
この地獄から彼女は脱出できるのか?
はたしてマッツ夢井は魂の尊敬を守れるのか。
息もつかせぬ展開に一気に読み終えてしまう。
おそろしいストーリーもさることながら、この結末はぜひ読んでいただきたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いや〜、怖い…
「文化文芸倫理向上委員会」なるから届いた召喚状。出頭したエンタメ作家のマッツ夢井が連れて行かれたのは、絶対に逃げ出すことのできない「収容所」だった…
マッツは、社会的に「正しい」とはいえない作品を書いてきたから「更生」させるというのが名分で収容される。
そして、作品を告発したのは、検閲機関ではなく読者のメールだという。
とかくコンプラ的正しさを要求される風潮が現実のこの社会にないともいえない。だから、とてもリアルに感じた。近未来を描いた話なんだけど、確実にこの国はそっちの方向に向かっている気がした。
でも、ありとあらゆる人の苦しみを描くのが小説なのだ。
ー 善意の正論は世界中に蔓延していて、実に息苦しかった。だから、私は作家になったー(P151)
ー 作品は自由だよ。人の心は自由だからだ。何を表現してもいいはずだ。国家権力がそれを禁じてはいけない。それをやったら検閲だ。ファシズムだ。(P295)
このマトモな言葉が通用する世の中が続いてほしい、と願わずにはいられない。
そして、ラスト15行は校了間際に加筆したものなのだという。
この15行があるかないかで全く結末が異なる。
最後の最後に大混乱して終わる。 -
衝撃度高しの一冊。
明るさとは無縁だと思っていたが案の定衝撃度高し。
小説家の元に届いた、政府からの一通の召喚状。
わけもわからず療養所という名の収容所へ主人公と共に収監された気分。
これは心まで鎖に繋がれた監禁。
言葉、自由を奪われるということは心を喪いやがて自分自身も喪われること。
その中での理不尽な要求に誰が通常精神で耐えられるというのだろう。
言葉が出ず、一筋の光を、願わくば夜明けを求めてただ文字を追うしかなかった、追わされた。
光さえも暗闇に変わる衝撃。
心が空っぽになった瞬間。
これはある意味忘れられない作品。 -
わぁとても正月に読む本ではない。
いや、現状を認識すれば、この本に比べれば
パラダイス、天国、極楽だ。
まず自由がある。食するものが山のようにある。食べたいものを食べたいだけ、自分の意思で、口で手で食べられる。
だから正月こそ読んでよかったのかもしれない。
1月6日期限だったから優先順位なく読んだ。
とにかく恐ろしかった、不気味だった、気分悪くなった。
しかしあり得ないとは言えない。
召喚、ーこんな恐ろしい言葉ある?
召喚され、何処かに隔離されたらどうなる?
言論統制?
クリエイターではないから、現状を把握できてないがこんな危機が押し寄せてる?
本文よりー
どうやら未来への希望が生まれると、人は過去を反芻するようにできているらしい。
経験則が
来るべき未来への、心の準備を整わせるのだろうか。ー納得してるわけではない。けどそうなの?
悪人しか出てこない。
いかに自分が甘ちゃんか「知ってるけど」骨の髄まで知らされる。
最後に希望はと読み進める、
希望は
希望がない
絶望感しかない。悪しかない。怖れしかない。
うーなんだろう
怖い怖い怖い。
作者の意図は?
誰か教えて。 -
桐野夏生さんの作品を読むのは、初めて。
どのような方か、ウィキペディアで見てみましょう。
桐野 夏生(きりの なつお、1951年10月7日 -)は、日本の小説家。石川県金沢市生まれ。別のペンネーム野原 野枝実(のばら のえみ)や桐野 夏子の名でロマンス小説、ジュニア小説のほか、森園みるくのレディースコミック原作も手がけていた。
2015年に紫綬褒章を受章。2021年5月25日より日本ペンクラブ第18代会長に選出され、女性初の会長となった。
で、本作の内容は、次のとおり。(コピペです)
小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は——。
まあ、行く末は、読めばわかるのですが、多くの読者の期待を裏切る結末だと思います。
しかし、これが今の世の中の現実なのかもしれません。 -
小説家の主人公のもとに、「文化文芸向上委員会」から召喚状が届く。出頭した彼女は、「療養所」に軟禁される。軟禁されたのは、彼女が反社会的な小説を書いたから。「療養所」は、それを矯正・更生するための施設だった。彼女は抵抗するが、その抵抗は全く意味のないものであった。
悪夢のようなというか、ある意味で、最も恐ろしいシチュエーションを描いている。
人知れず、外部と連絡のとれない施設に軟禁される。抵抗しても、外部の人間に届かないので、何の意味もない。そのうちに、薬でコントロールされ、更には拘束衣を着せられる。生殺与奪の権利を第三者に持たれ、自分の出来ることは何もないままにこの世から消えていく可能性が高い。やれることは、何もない。絶望的だ。イメージとしては、北朝鮮で思想犯として捉えられたような感じ。
私はほとんど恐怖小説として読んだが、作家である桐野夏生の小説執筆の動機は、もちろん、別のところにあるはずだ。作家というのは、言論あるいは表現の自由に最も敏感な存在であるはずである。その桐野夏生が、このような小説を書くということは、作家である彼女が、言論・表現にかかる危機をリアルに感じているということなのだろう。あるいは、私が鈍すぎるのか。 -
桐野夏生さんの小説、初めて読みました。
長年にわたって人気作家として活躍されていることは知っていました。
いや、さすがだと思いました。
面白くてどんどん読んでしまいました。
途中読めない漢字に何度もぶち当たっても
調べることなく「そんなの気にしない」
ハードルを倒しながら走るみたいに
だって、先が気になって気になって。
感動したとか、勉強になったとか
生きていく上で大事なことを教えてもらったとか
そんなの全然ないけど
最後の最後まで楽しかったので
読んで良かったです。 -
小説家に届いた一通の手紙。
それは、政府組織からの召喚状。
出頭先は、断崖に建つ療養所…そこからこれは、普通ではないと感じる。
TVも無くスマホも使えず粗末なご飯。
もう、どうにかなるのでは…と読むのに苦痛すら覚える。
国家が正義を振りかざして人を思うがままに操ってるようで不快だとすら感じる。
それでも、読み続けたら救われるのか…と思ったが。
とても重い小説だった。