- Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000924917
感想・レビュー・書評
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このシリーズの中古本には「月報」が付いています。村上春樹、吉本隆明、山折哲雄、遠藤周作、梅原猛、鶴見俊輔、小沢俊夫、白洲正子、中井久夫、養老孟司、吉田敦彦、山田太一(敬称略)などなどが全集の出版のお祝いの言葉を述べています。これは河合さんにエールを送る短い文章なんですが、なかなかおもしろいです。
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『コンプレックス』(岩波新書)、『無意識の構造』(中公新書)のほか、論考2編を収録しています。
フロイトはコンプレックスを、自我が受け入れることのできない抑圧されたものと考えました。彼は、コンプレックスの表出をあくまでも病的な現象とみなしており、そのような立場を固守しつづけました。これに対してユングは、意識的な自我に隣接する無意識の領域にある、通常の意識現象を妨害するような心的内容の集まりが「コンプレックス」だと規定します。彼はこうした理解に基づいて、コンプレックスの表出にはたしかにマイナスの側面が存在するが、他方でコンプレックスと正しく向きあうことによって人格的な発展を遂げる可能性があるということに着目しました。
『コンプレックス』では、著者自身がかかわった症例のほか、自我の「影」であるドッペルゲンガーをあつかった文学作品などを例にとりあげ、自我の一面性を補償するものとしてコンプレックスが大きな役割を果たしていることが説明されています。
『無意識の構造』も、ユング心理学の立場から無意識についての親切な解説がなされています。ユング心理学では、「自我」は私たちの意識の統一点にすぎません。意識の背後にある広大な無意識の領域を含む、意識の全体において中心点となるのが「自己」だと考えられます。著者はこうした考え方に、西洋以上に東洋的な発想に通じるものを認め、日本人にとってユングの考えは受け入れやすいのではないかと述べています。さらに著者は、ユング心理学の「元型」について、さまざまな夢の例を引きながら説明しています。
著者には『ユング心理学入門』(培風館)という著作もありますが、本書に収められた2つの本も、それぞれ異なる視点からユング心理学をわかりやすく解き明かしており、優れた入門書といえるように思います。