- Amazon.co.jp ・本 (44ページ)
- / ISBN・EAN: 9784001105537
感想・レビュー・書評
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原書は1942年となる、バージニア・リー・バートンという名前を知らなくても、この絵本は知っているという人の多さも肯ける上に、普遍的な人気絵本だということも、読んで思い切り痛感させられた本書は、今の時代にも通じる大切なことを教えてくれた。
物語は、田舎の静かなところにある、ちいさいおうちを主観としながら、時が移ろうに連れて、その周りの様子が変わっていくのを、淡々と冷静に描くといった、まるで、ちいさいおうちという家の歴史を見るような展開には、以前読んだ、『百年の家』を思い出したが、あちらが、家とそこに住む人間との関係性を描いていたのに対して、こちらは、家と周りの環境との関係性である点が、大きく異なっており、それは見返しを見ても分かるように、上から下へと、産業の発展や人間の出来ることが増えていくに連れて、何故か失うものも増えていったという、皮肉な様相である。
それから、淡々と冷静に描くと上記したものの、最初は、ちいさいおうちの建つ丘から眺めることの出来る、素朴で爽やかな田舎の美しい風景を、太陽や月に見守られる様子に、ちいさいおうちは満足しており、それは、『昨日と今日とはいつでも少しずつ違ったが、ちいさいおうちだけはいつも同じ』といった、おうち自身が満たされた気持ちでいたのは全く変わりないことからも分かる、そんなおうちの楽しい気持ちは、石井桃子さん訳の文章にもよく表れている。
その中でも、特に序盤の四季を描いた場面では、バートンの優しくもきめ細かい水彩の絵が加わることで、それぞれの良さを瑞々しく描いており、それは、春の桜、夏のひなぎく、秋の紅葉と渡り鳥、冬の真っ白な銀世界と、目にも鮮やかな描写に、四季の存在のありがたみを感じさせてくれる上に、四季を通じ、りんごの木の変遷も同時に見られるのが、なんとも嬉しくて、この景色を素晴らしいと思えば思うほど、この後の光景に対する思いとの対照性もより際立つのが、なんとも皮肉的で切なくなるが、そこには伝え方としての上手さもあるのが、バートンの素晴らしい点だと思う。
そして、そのきっかけは、それまでの空には無かった、真っ黒な雲が現れ出したことであり、ちいさいおうちの周りの美しい景色を縦断するように、一本の道路が通されたのをきっかけに、どんどん開発は進んでいき、気が付いたら、ちいさいおうちの周りにはアパートや公団住宅ばかりとなり、その人や車の往来の激しさのせいで、夜になっても静かにならず、そんな様変わりした光景に、ちいさいおうちは、『ひなぎくの花も咲いていないし、月夜にダンスをするりんごの木も無い』と嘆き、ここでのダンスをするりんごの木という表現からも肯けるように、ちいさいおうちにとって、町とは生命の脈動の無い場所ということであり、悲しいことに、この状況に於いては、人間が含まれていないのである。
おそらく、それはちいさいおうちに住人が居ないこともあるのだろうが、それ以上に印象的だったのが、ちいさいおうちから見た、町の人間とは、ちいさいおうちに全く見向きもしないくらい、とても忙しそうに駆け歩いている印象しか抱かせない、個性も何も無い記号化した存在なのであって、それは、町に電車が通り、高架線や地下鉄も出来て、タワーマンションが出来ることで、更に強調されて、人間である私が、その絵を見て痛感させられることによって、ようやく客観視出来るといった、この感じ、発表は本書より後になるが、ミヒャエル・エンデの『モモ』を思い起こさせるものがある。
だからといって、言い訳するつもりはないのだけれど、人間も好きで、そんなせかせかしているわけでは無いんだよとも思う。そもそも、そうせざるを得ないのも自分の生活がかかっているわけだし、時には周りに余裕だって持てるものなら持ちたい。でも、持てない時だってある。しかし、こうした光景が当たり前だとも思いたくない。やはり、何かが違うと思うのもそうであるし、私の中で、それが確立されたのは、本書にあった『季節感がない』という、その不自然さであり、文字通り、自然の存在を近くに感じないのは私も嫌だから、わざわざ自転車で駅まで約20分かかるような賃貸に住んでいても、鳥や虫、花の存在を感じられる幸せはあるのだと思う。それでも辛いことは勿論あるけどね。
そんな四季や自然の素晴らしさを、バートンも実感していたのだろう。ちいさいおうちの末路は、決して悲しいものではなく、その『しっかりじょうぶにたてられていた』ことが幸いしたのと、それを見つけた人は、この家を建てた人の、孫の孫のそのまた孫にあたることから、ある意味、この家を建てた人の予言通りとなったわけだ。
そして、そんな予言通りとなることには、きっと人間の環境破壊に対する、見えないものの眼差しもあるのだと思い、人間が生きていくのは大変だけれど、それでも傲慢になってはいけないということを改めて教えてくれたような、そんなバートンのメッセージには、ちょうど、ちいさいおうちが車に載せられて移動していくのを、たくさんの自動車や通行人が見送っている場面が、まるで渋滞を引き起こしているような風刺画にも見えてくるし、ちいさいおうちの心境の移り変わりが、人間のそれに擬えているように思われたのも印象深い。
また、バートンのメッセージは皮肉ばかりではなく、明るい未来への思いも込められていて、それは花言葉が『希望』である、ひなぎくの花の環の中を蝶が飛んでいる絵や、裏表紙のひなぎくと太陽が合わさった、そのとびきりの笑顔の絵からも感じさせられ、その花だけとか太陽だけとかではない、それらがそれぞれに繋がり合って形成される、大いなるひとつの自然の流れを絶やさないことが大切なのだと、私には感じられたのである。 -
小さな田舎に建てられた”ちいさいおうち”。田舎はどんどん開発され、町になり、ちいさなおうちは騒々しい街の中にある汚くてみすぼらしいお家になってしまいます。
家を主人公にした絵本。定点で場面に大きな動きがないことや、メッセージが大人向けだったので、幼児には難しそうでした。
主論とずれますが、街が作られていく工程がわかりやすくて面白かったです。 -
名作絵本。
1954年4月15日(66年前です!)に第1刷、手許にあるのは第68刷。ロングセラーが多い児童書の中でも横綱級の定番です。改めて見ると訳は石井桃子先生なんですね。すんなり読める訳なので今の今まで意識しませんでした。
妊娠が判明して舞い上がっていた時期に、よく考えずに「自分が知っている絵本だから」と「きかんしゃやえもん」や「ぐりとぐら」と一緒に買ってきた一冊です。
でも「自分が知っている本」ってことは、記憶に残るくらいの年齢で読んだ本だということで、つまり赤ちゃん向きではないということ。新生児期、乳児期は当然ながら全く興味を示さず、読み聞かせを聞いてくれるようになったのはほぼ5年後でした。恥ずかしながら今から考えれば当たり前です。
最近になってようやく、本棚に並んでいるのを見つけて、これなあに、読んで?と言って持ってきてくれるようになりました。
自分が子供だったときに好きで読んでいた本だよ、って教えたら、それ以来、本棚から持ってくるときに「はい、好きな本」って言うようになりました。
本人的にはそれほど好きな本ではないようです。郷愁とか、悲哀とかについて書かれた本を読んで楽しむにはやっぱりまだまだ早いようです。でも「読み聞かせてくれる人が好きな本」を持ってきてくれるようになったのは間違いなく成長ですね。
ところで、子供にそんなことを言われたのをきっかけに、自分が子供だった頃、この本が好きだったかどうか、思い出してみたら自信がなくなってきました。絵にもお話にも覚えがありますが、振り返って考えてみると自分が好きだったのは絵を眺めることだったようです。
判型が小さい絵本なので絵も小さいのですが、でもきちんと隅々まで描きこまれていて、季節ごとにちゃんとひなぎくが咲きリンゴがなり、子供は川で泳いだりそりで滑ったりしています。そんな美しい田舎の丘の間を一直線に切り裂く道路工事が始まってショッキングだったり、ちいさいおうちがだんだんしょんぼりしてくるのがかわいそうだったり。
でもいったん町が発展しだしたら路面電車ができ、高架鉄道ができ、地下鉄ができる様子が克明に描かれているのが興味深かったり。
絵本の感想なんだからそれでいいよね。
でもこの本の「感想」を言語化しようと思うと「ちいさいおうちは引越しできてよかったねえ」って月並みなものの他、「家をトレーラーに載せて引越しするのって嘘っぽい」「せっかく田舎に引っ越しても、引っ越した先がまた街になったらどうするんだろう」なんて身も蓋もないものになってしまいそうです。
だって、ストーリーについて何かを感じなければいけないと思っていたから。本なんだから、絵はおまけ、お話について面白く感じなければいけないと思っていたから。
この本の感想文を書いたわけではありませんが、でも小学生になって、「読書感想文」を書かなくてはならなくて、自分の思いをどう原稿用紙に書いたらいいのかわからなかった頃の気持ちまでまざまざと思い出してしまいました。
今振り返ってみると、地方都市の郊外という都会でもなければ田舎でもない中途半端な環境に住んでいた当時の自分にとって、ひなぎくが咲き、夜になればリンゴの木がダンスをする田舎の素晴らしさも、昼間ほんの少ししか太陽を見ることができない都会の喧騒も、実感することができないものだし、かと言って「絵が好きだから好き」「路面電車と高架鉄道と地下鉄がお家の前を走っていたら毎日電車が見えてうれしい」なんて感想を書いてはいけないと言われていたし。好きな本なのにその本の好きなところを封印しなければいけなかったあの頃の自分ってかわいそうだったんだなあと思います。
最近は、一人の時間に、お話はいったん横に置いて絵だけをのんびりじっくり眺めながら、粗筋と引用で一生懸命真っ白な原稿用紙を埋めようとしていた当時の自分の頭を撫でてやってます。
今度子供が本棚から持ってきてくれたら、2人でゆっくり絵を見ようと思います。 -
大好きな絵本と訊かれれば、色々挙げる中でいつも残る一冊。。。
2019年11月に改版が出ている。何が変わったんだろう?
ちいさいおうち - 岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b254677.html-
☆ベルガモット☆さん
> 英語表記だったのですが、
え~~
と思ったら、別の出版社から出ていたんだ。
ちょっと聴いてみたいな
...☆ベルガモット☆さん
> 英語表記だったのですが、
え~~
と思ったら、別の出版社から出ていたんだ。
ちょっと聴いてみたいな
不朽の名作が英日CD付英語絵本で登場!『ちいさいおうち THE LITTLE HOUSE』 | 絵本ナビスタイル
https://style.ehonnavi.net/ehon/pub_pr/2018/12/17_083.html2023/12/11 -
猫丸さん、こんばんは☆
なるほど出版社が違うんですね!
英語の勉強になるような気がします。
猫丸さん、こんばんは☆
なるほど出版社が違うんですね!
英語の勉強になるような気がします。
2023/12/13 -
☆ベルガモット☆さん
> 英語の勉強になるような
そうですね!
原文を石井桃子の訳と比較したら、訳し方の妙が判るかも。。。☆ベルガモット☆さん
> 英語の勉強になるような
そうですね!
原文を石井桃子の訳と比較したら、訳し方の妙が判るかも。。。2023/12/15
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のどかな村に建てられて、都会に憧れていた「ちいさいおうち」。行ってみるまでもなく、都会の方からやって来て、「ちいさいおうち」は呑み込まれてしまう…その様子に心が痛みます。なまじしっかり作られているから、寂しさにじっと耐えるしかなかった…。「まごのまご」が救い出してくれて、本当によかった!
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今更なのですが初めて読みました。
なんとなく展開が予想できたのは途中までで、中盤からは「ええっ?!」「そこまで?!?!」と息子(小5)と目を白黒。予想以上でした。
都市化していく様がよくわかったのと、だんだん寂しくなってきたのと。
ラストにホッとしました。
名作と言われるのわかるな。既に読み返したい気持ち。 -
いなかのしずかなところに建っている「ちいさいおうち」。はるなつあきふゆと、ちいさいおうちは季節を感じながらいつもそこに建っていました。でもやがて、取り巻く環境が少しづづ変化して、大きなビルが立ち並ぶ都会にぽつんと取り残されてしまいます。
ある日通りかかった人に気に入られ、ちいさいおうちは引っ越することになりました。またいなかの丘の上に落ち着いて、人が住むようになり、読み手の心にもパッとあかりがともったような気持ちになるでしょう。
「ちいさいおうち」のとまどいや喜びを読み手も共有することができる絵本です。 -
のどかな田舎に建てられた小さな家。穏やかに時が流れるうちに、小さな家は開発の波に飲み込まれ、ビルの谷間に忘れ去られてしまう。昔の田舎を懐かしく思い出す小さな家に、ある時気付いた人が……!
図書館本。
『坂の上の図書館』の作中に出てきたので読んでみた。とても穏やかな絵本。
穏やかで温かい絵が特徴的。話も穏やかでハッピーエンド。
本当に簡単な漢字しか使われておらず、それにも読み仮名付き。ただ、結構文章量があるので、4歳くらいだと大変そうな?
岩波書店はやっぱり小学生以上向けかねえ。
ちょっと気になったのが、文章にくっついて移動するノンブル。絵に囲まれた文章にまでくっついて来て、ノンブルだろうなとはわかっていても「この数字は何じゃ?」となってしまう。
いっそのこと振らない方が良いのでは?
星3にしているが、4~5が妥当なところかと思う。
こういうごくごく穏やかな話、私にはいまいち合わないんだよ……。グリーン・ノウとかね。 -
一つの家を中心に周りの景色が移り変わっていく。
四季、時の流れ、環境の変化。
世の中に変わらないものはないけど、その中で変わらないものもある。
子どもも大人も楽しめる本です。
> 等身大の眼差しを感じました。
乗り物の絵本が幾つかあって、子どもと愉しんでいるだろうところが、とても良く判りますよね。。。...
> 等身大の眼差しを感じました。
乗り物の絵本が幾つかあって、子どもと愉しんでいるだろうところが、とても良く判りますよね。。。
仔猫の頃は何故『ちゅうちゅう』と思っていました。
↓此れは別の『ちゅうちゅう』
Tchou-tchou (English Version) by Co Hoedeman - NFB
https://www.nfb.ca/film/tchou-tchou_en/
『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』ですよね。
他にも、「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」など、確かに乗り物の絵本が多い点...
『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』ですよね。
他にも、「マイク・マリガンとスチーム・ショベル」など、確かに乗り物の絵本が多い点には、子どもたちへの温かい眼差しを感じられそうで、どんな話なのか、私も読んでみたくなりました。
> 『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』ですよね。
そうでーす。
> 『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』ですよね。
そうでーす。