お話を運んだ馬 (岩波少年文庫 43)

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  • / ISBN・EAN: 9784001140439

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル賞作家アイザック・バシュビス・シンガーによる、8編の短編集。
    このところ読んだ本にイディッシュ語についての記述が多く、より詳しく知ろうと英語から和訳した本を手に取った。

    東ヨーロッパに多く分布していたユダヤ人の言語は、ヒトラーの設けた強制収容所で人々の命と共に滅びかけた。
    1935年ポーランドからニューヨークに渡っていたシンガーは、死した同胞たちのためにイディッシュ語で作品を著し、1978年ノーベル文学賞受賞。
    本書の岩波での初版は1981年だ。
    言葉の向こうに見えるイディッシュ文化とユダヤ教の習慣。
    読みながら、私もまた「お話」の大切さをしみじみと思うことになった。

    1.お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語
    2.ダルフンカ――金持ちが永遠に生きる町
    3.ランツフ
    4.ワルシャワのハヌカ前夜
    5.ヘルムのとんちきとまぬけな鯉
    6.レメルとツィパ
    7.自分はネコだと思っていた犬と自分は犬だと思っていた猫
    8.おとなになっていくこと

    ひとつめの話が表題作。お話を運ぶ馬は、今でいう「移動図書館」の役目だ。
    ナフタリは決して鞭を使わず、会話をするように馬を大切にし、本を買えない子にはしばしばそのまま与えている。彼はお話の名手でもある。
    主人公の生き方がシンガー自身の夢でもあったというが、私の果てない夢でもある。
    豊かな余韻を残す、非常に美しい話だ。

    2と4は、「ヘルム」という町に住むちょっぴりおバカさんたちの話。
    思わず笑った後で考えさせられる、なかなか深い内容だ。
    6は同じ「ヘルム」の話で、泣けて仕方がなかった。
    それはそれは「ぼんやりした夫婦」が出てくる。
    お金の数え方はおろか文字も読めず、狡い人間に騙されてばかり。
    ところが、どんなに頭の良いひとたちに比べても、愛する心だけはいっぱいに持ち合わせていたふたりは、末永く幸せに暮らしたという。
    いいなぁ、こういうお話。賢さだけでは乗り越えられないのが人生なのかも。

    4と8は、シンガー自身の少年時代の話らしい。
    当時のワルシャワの様子や、どんな家族とどんな子ども時代を過ごしたのか、生き生きと語られている。想像力と好奇心いっぱいの日々をおくる少年。
    聖書とカバラだけではとても満足できなかっただろうことはすぐ分かる。
    大きくなったら本格的な小説を書き上げようと思ったのは11歳の時らしい。

    もう少し昔だったらシンガーも「お話を運ぶ馬」に乗って村々をまわっただろう。
    もっとも、大戦時にアメリカ在住だったからノーベル賞作家になれたとも言えるけど。
    言葉がある日、誰にも通じなくなるなんて日がないように、あふれるほどの愛が詰まったシンガー作品を、皆さんも読んでみてね。
    そして7番目の話は私の素話のネタ。
    朗読すると14分かかる。面白いからお子たちに読んでみてね。

    • nejidonさん
      猫丸さん。
      ふふ、じゃ私も真似しようかな。
      読むとね、どうしても欲しくなります。どうしても。
      先ほど「やぎと少年」のレビューをあげまし...
      猫丸さん。
      ふふ、じゃ私も真似しようかな。
      読むとね、どうしても欲しくなります。どうしても。
      先ほど「やぎと少年」のレビューをあげました。
      ああ、とても良い読書をすることが出来ました。感謝です!
      2021/01/23
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      ノーベル賞云々は「やぎと少年」の訳者あとがきでしたね、、、ん十年振りに読んで気付きました。
      nejidonさん
      ノーベル賞云々は「やぎと少年」の訳者あとがきでしたね、、、ん十年振りに読んで気付きました。
      2021/02/03
    • nejidonさん
      猫丸さん(^^♪
      わざわざありがとうございます!
      そうなの、後書きにありました。
      ポーランドと言う国が好きなだけに、複雑な思いです。
      ...
      猫丸さん(^^♪
      わざわざありがとうございます!
      そうなの、後書きにありました。
      ポーランドと言う国が好きなだけに、複雑な思いです。
      他国から見るのとは違う事情があるのでしょうね。
      2021/02/03
  • なんと緻密な文章と、ユーモアと、愛の詰まったお話しだことー!!! 「お話の名手ナフタリンと愛馬スウスの物語」の後に、まるでそのナフタリが話して聞かせたかのような、素敵なおかしなお話がいくつか続いていく。

    「ダルフンカ」「ヘルムのとんちきとまぬけな鯉」「レメルとツィパ」は、ヘルムという、ポーランドでは、とんま(おかしな人たち)ばかりが暮らすという町での、おかしなお話をつづったもの。「ヤギと少年」でも、こんな話がたくさんあって、とっても面白い。こどもが喜びそう。でも、ちゃんと愛がある。

    「ランツフ」
    伯母さんが子どもたちにお話を聞かせる。
    自分の子供時代に不思議な存在だった妖精、小鬼のランツフが、家を去る夜に、姉さんのおでこにキスをして去っていった。すると、ひざ掛けの上に子どもたちが大好きな、焼きたてのアーモンドケーキがおいてあった。。
    お話はそこから始まる。
    ある、つましい教師の家で暮らす母と娘。主の教師が急に亡くなってしまい、働き手がなくなり、皆が施設に入るのだろうと思っていた。ところが、働き手の無いはずのこの家で、母娘は暮らしている。ついに母も死に、盲目の娘だけが残る。娘いわく、親切な誰かが、いつも私たちの暮らしを助けてくれていたと。
    そらは、どうやらランツフの仕業だったんだね。
    と。

    「ワルシャワのハヌカ前夜」
    素晴らしく美しい描写に満ちたお話し。これもシンガーの子供時代そのもの。学校に馴染めない、そして、母の世話焼きが恥ずかしいと思い始める少年時代。大好きなユダヤの祝祭日である、ハヌカの思い出。
    先生に送ってもらわず、初めて1人で帰る夕方、物思いにふけり、ぼうっとショーウィンドウを眺めていたせいで、
    大雪になってしまう。雪の中転びながら走っている。道に迷ったのだが、迷ったということを家族や先生に知られたくない、そんな少年の思いが生き生きと描かれている。助けてもらった男の人に嘘をついたりした挙句、母に見つかり、母だけには「お前、まいごになったんだろ」とバレバレwそれでもそんな馬鹿な子が愛おしいんだという、愛に充ちたおはなし。

    「自分はネコだと思っていた犬と…」
    これが私は一番大好き。
    貧しいヤン・スキバ一家に鏡がやって来て、その鏡のせいで一家が大変なことになる。三人娘はお互いにそれぞれの器量の悪さを褒めあっていたのに、やれ自分の鼻が気に入らないだの、前歯がないだのと、自分の容姿がきにいらない。仲良しだった犬とネコも、自分はお互い相手と同じだと思っていたのに、鏡には見たことも無い自分が写っていて、取っ組み合いの大喧嘩に…

    そこでスキバの父さんが言うセリフが素晴らしく、うっとりしてしまいました。
    「自分を見たから何だというのだ」
    「見るものはいくらでもあるじゃないか。空や太陽、月や星がある。大地がある、森も草原も川も木や草花もある」

    いいなぁ。

    それにしても、こんなポーランドのお話し、今の子たちには馴染みがないだろうなぁ。こんなの読める子、凄いよなぁ。

  • 愚かな夫婦の話に泣きました。こういう生き方はできないもんか。それにしても、現代は、こすっからい人間ばかりが幅を利かして嫌な世の中だ。

  • ワルシャワ在住ユダヤ人著者による短編集。不思議でゆかいなお話が多く、「ダルフンカ」は思わず笑う。自伝的な話がいくつかあり、語り口は優しいけれど宗教的要素も強いのでちょっと難しめ。やはり高学年向け。

  • 最初のナフタリの話しに泣けてしまう。物語に生涯をかけるなんて。それが報われるなんて。

    全体的にしみじみと心に染みてくる。こんな素朴な短編集は初めてだ。機知に富むとはこういう物語たちを言うのではないだろうか。

    鏡の話も深い。自分ばかりを見つめて何になろう。


  • _いちにちが終わると、もう、そこにそれはない。いったい、なにが残る。話のほかには残らんのだ_

    『お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語』の中で、本屋レブ・ツェブルンは言います。お話が語られたり本が書かれたりしなければ、人間はその日その日のためだけに動物のように生きることになる・・・

    幼い頃からお話を聞くのが大好きだったナフタリは、お話を、書くことや語ることで人々に届けることに生涯を捧げ、スウスはそんな彼と寄り添って幸せな一生を送ります。ほんとうに、最後まで。いいえ、永遠に。なんて深くて、静かで、大きな愛と信頼。

    ほかにも、ユダヤの素朴な暮らしと旧約聖書の世界観が満載のエキゾチックなおはなしなど全部で8篇。パーフェクトに面白い短編集でした。

    ポーランド移民としてアメリカに暮らしたシンガーが、東欧のユダヤの言語イディシ語にて小説を書き始めた背景にも胸がふるえます。1945年なのです。

  • 愛馬とともに、村や町をめぐってお話を子どもたちに届けるナフタリは作者の姿そのものなんですね。読んでいて胸が熱くなりました。
    ヘルムのとんちとまぬけな鯉、レメルとツィパは間抜けな人々が主人公なんだけど、読み終わった後笑いもあるけど心も温かくなう気がして、とても好きなお話です。
    かたい規律で暮らしてきたユダヤの人たちの様子が少し垣間見れる気持ちになります。

  • 著者は、ワルシャワ在住のユダヤ人。ユダヤの慣習や昔話などを織り交ぜている。

  • 「ぼんやりさん」っていい表現ですね。

    ぼんやりさんには、ぼんやりさんが良く似合う。
    周りはすごく大変そうだけど、でも憎めなくて、癒される。
    とても幸せそうなぼんやりさん夫婦。
    すごく素敵です。

    わたしも、お話を語れるような人間になれたらいいなぁ。
    でも、語れなくても、図書館という場を通じて、皆さんにお話を、本を、お届けできることを、とても幸せに感じています。

  • 【お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語】
    「いちにちが終わると、もう、それはそこにはない。いったい、なにが残る。話のほかには残らんのだ。もしも話が語られたり、本が書かれたりしなければ、人間は動物のように生きることになる、その日その日のためだけにな」
    「きょう、わたしたちは生きている、しかしあしたになったら、きょうという日は物語に変わる。世界ぜんたいが、人間の世界のすべてが、ひとつの長い物語なのさ」

    人が、おかねのためだけではなく、愛の心から自分の仕事をするとき、その人は他人からも愛を引き出すものである。

    世界はいろいろなふしぎに満ちている。ナフタリは、そのことについて話を描き、すべての都会や町や村に、その話をひろげたいという気持ちにかられた。

    それにしても、すべてがおかねで計ることができるものだろうか。
    お話を聞きたがるこどもたち、それどころか、おとなたちだって、方々にいるではないか、それなら、これまでに聞いたことを残らず話してあげよう、ナフタリはそう心に決めた。

    【ダルフンカ】
    ヘルムのダルフンカ(ヘルムじゅうの貧乏人とこじきの住む町)の話
    金持ちが永遠にいきることができる町?

    【ランツフ】
    小鬼 自分の居ついた先の家の人たちに精いっぱい役立とうとする

    【ワルシャワのハヌカ前夜】
    ラビの息子がまいごになる話

    【ヘルムのとんちきとまぬけな鯉】

    【レメルとツィパ】
    きだてのよいぼんやりはいいな~

    【自分はネコだと思っていた犬と自分は犬だと思っていたネコのお話】

    【おとなになっていくこと】
    11歳になったぼくの出版計画と

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