ベルリン1945 はじめての春(下) (岩波少年文庫 626)

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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001146264

作品紹介・あらすじ

繰り返される空襲とその後の市街戦により、街は容赦なく破壊された。生き残った人びとは新しい生き方を模索するが、長く続いたナチの支配と戦争は、街にも人の心にも深い傷を残しており……。ドイツの敗戦とその後の混乱を、ナチ体制下で育った少女エンネの目線でつづり、それぞれの人生の変転を描く。大河群像劇完結編。

感想・レビュー・書評

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  • イギリス人作家マイケル・モーパーゴの作品を読み、ドイツ人作家は大戦をどう書いているのか知りたくなって読んだ。
    1919年、1933年、1945年のベルリンを舞台とした「ベルリン3部作」全6巻。ゲープハルト一家が3代にわたって各巻の主人公として描かれる。
    政党名も覚えられず、登場人物の名前も何度も確認しながら、それでもシンプルに「なぜ人をたくさん殺す状況が起こったのか」を知りたかった。単純にナチスは悪い、ヒトラーは酷い、で片付けるのではなくて。なぜそうなったか。

    全6巻を読んで、まだその答えを持てない。本文中、各登場人物はそれぞれの考えを言っていた。ナチスなら貧しさから逃れられると信じたとか、ヒトラーの掲げる他民族排斥がまさか本気だとは思っていなかったとか、共産主義よりはナチスの方がましと資本家が傾いたとか。

    まだまだ理解できていないことがたくさんある。とりあえずのものであっても、自分の考えを持つにはもう少し、複数の文献にあたらないと。

    当初からナチスに反対し続けていたゲープハルト家の父親が、ナチスを信じたのは間抜けだったと謝罪する人たちへ向けた言葉。
    「おまえたちが間抜けだったのは、間抜けでありたいと思っていたからじゃないか!」 p.251

  • 読み終わってしまった・・・ベルリンロスで呆然としています。
    この3部で、またハンスに会えることを期待して「実はハンスが生きていた」っていう展開を願っていたのだけど。ずっしりとした喪失感を味わいました。
    激動の中、ぶれることなく信じることを守った人。大勢の中に呑まれ、力あるものを信じ込まされた人。戦争が終わって、価値観がひっくり返る様は日本の戦後も一緒だと思いました。

    一生本棚に置いておきたい本に出会ってしまった。

  • クラウス・コルドンの「ベルリン」三部作の第三作。
    一作目の1919ではゲープハルト家の長男ヘレ少年の目から第一次大戦の敗戦と王政の崩壊を、二作目の1935ではヘレの弟ハンスの目からナチスの台頭を描いた。そして第三作はヘレの娘である少女エンネの目線でソ連軍の前に崩壊していくナチス、ベルリンの街を描く。
    ヒトラーとナチスの栄光が翳りを見せ、敗戦の色濃いベルリンの街。人々は毎晩空襲を恐れ、一夜明けるごとに街は瓦礫と化していく。
    そんな中、それでもナチスを信じる人々、ナチ党に入党し、その手先となって働いてきたにも関わらずベルリンに押し寄せてきたソ連兵からの迫害を恐れてその過去を隠そうとする人々。そして、ナチスの時代も、ソ連の占領下でも暴力の被害者となる女性、老人、子ども。
    戦争は勝者も敗者も矛盾を抱える。
    ソ連兵がベルリン市民に乱暴を働く。それを非難する人々にソ連兵が答える、ドイツ兵がスターリングラードに攻めてきた時、やはり同じように市民に乱暴を働いたのだと。
    ナチスに協力し、同じベルリン市民を密告した人たちを裏切り者と呼ぶ一方で、自分たちはなぜナチスの暴走を止められなかったのか?と自問する。
    そして、コミュニストの理想の国であるはずのソビエトではスターリンが独裁をし、粛清されて多くの人が命を失っている。スターリンはヒトラーの再来ではないのかと。
    戦争のない世界がないという事実と同じく、この物語にも終わりはない。
    ただ主人公のエンネが生まれて初めて戦争をしていない春を迎えるところでこの物語は終わる。
    エンネが二度目、三度目を迎えられるのかどうかは読者がどう考えるかにかかっている。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/769671

  • _それでも人生はつづく。逃げ隠れしようとしても無理だ_

    転換期三部作、ついに完結です。

    小説を読んでいて、目を覆いたくなるような、というのもおかしな表現だけど、実際に、一瞬瞼を閉じてしまうことが幾度もあった。

    ゲープハルト一家との付き合いも30年近くに及んできたので?感情移入しないでは読めない。
    可愛かったあの子が、、、
    えっ、あの人が?そんなばかな、、、
    と序盤からさまざまな衝撃の連続。

    敗戦の色濃くなってきた1945年のベルリン。米英軍からの爆撃は普通の市民を容赦なく巻き込みます。
    終戦を迎えても、瓦礫の街で生き延びるのは容易なことではなく、ヒトラーを信じた自分を責め続ける人、自由になっても、収容所での地獄の日々から本当の意味で解放されない人、ソ連兵の襲撃に怯えて暮らす人…
    簡単に平和は訪れません。

    今作は、第1部で主人公だったヘレの娘エンネの目線で語られます。
    前作『〜1933』にて反抗勢力として両親が投獄され、祖父母の元で育った彼女は12歳。父母との再会は果たされるのか。再会しても、その溝を埋めていけるのか…。

    あとがきにもありますが、ドイツはこの後、ベルリンの壁の時代を迎えるのですよね。

    ほんやり生きている自分について、考えすぎてぼんやりしています。
    わたし、これからどうやって生きて行ったらいいんだろう。
    ってほどに。

  • 943-K-3-2
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著者プロフィール

著者 クラウス・コルドン(1943~)
ドイツのベルリン生まれ。旧東ドイツの東ベルリンで育つ。大学で経済学を学び、貿易商としてアフリカやアジア(特にインド)をよく訪れた。1972年、亡命を試みて失敗し、拘留される。73年に西ドイツ政府によって釈放され、その後、西ベルリンに移住。1977年、作家としてデビューし、児童書やYA作品を数多く手がける。本書でドイツ児童文学賞を受賞。代表作に『ベルリン1919 赤い水兵』『ベルリン1933 壁を背にして』『ベルリン1945 はじめての春』の〈ベルリン3部作〉などがある。

「2022年 『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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