- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003109045
感想・レビュー・書評
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最低な男である。いつも人の顔色を伺っているくせに、自分に好意的な人の気持ちは踏みにじる。他人が自分を受け入れてくれないと傷つくのに、自分は他人を受け入れようとはしない。自分から社会に背を向けておいて、社会から拒否されたと言って嘆く。自分の感情にばかり気をとられて、他人の感情を思いやるゆとりがない。自分のことしか考えられない、情死の相手の名前すら覚えていない、そんな男。
そんな男の告白を、他人事だと切り捨てることができないのは何故だろう。実在したらとても付き合いきれないはずのこの男に、惹かれてしまうのは何故だろう。一人の弱い男が転落していくだけの話なのに、そこに祈りを見てしまうのは何故だろう。
私の中にも、彼の持つ「非合法」な何かがあるからだろうか? それとも、私は所詮「合法」の人間で、彼――というより、作者・太宰の、血を吐くようなお道化のサーヴィスを、憐れむふりをして楽しんでいるだけなのだろうか? 安全地帯から彼を見下ろして、こんな駄目人間でなくて良かったと、胸をなでおろしているにすぎないのだろうか? そもそも、この告白はどれが事実でどれが創作なのか、どこまでが本心でどこからが演技なのか?
とにかく無数の「?」が頭に浮かび上がる。ある場面では主人公の駄目っぷりにイライラさせられながら、別の場面では「その通りだ!」と一緒に叫びたくなってしまう。読んでいて、こんなに心を掻き乱される小説は、そう多くない。しかも、どうしようもなく泥沼な心理状態を描いているのに、文章としては圧倒的に美しいのだから不思議だ。
さらに、肝要な点が語られていないのも不思議だ。なぜ主人公がかくも執拗な対人恐怖に苛まれることになったのか、父との確執や幼少時の性的虐待に鍵がありそうなのだが、それらについては不自然なほど僅かにしか語られていない。書かなかったのか、書けなかったのか。赤裸々に告白しているようでいて、核心に触れることは決して許さない、そんなミステリアスな所にも惹かれてしまう理由があるのかもしれない。
物語の終盤に主人公が達した、「ただ、一さいは過ぎて行きます」という心境は、絶望なのか、それとも救済なのか。それは読者が自分で判断するしかない。この作品は太宰の事実上の遺稿だというが、ここまで人生を捧げなければ人々の心を震わせる傑作は書けないのだとしたら、文学とはなんと激しく凄まじいものなんだろうと改めて思う。それはともかくこの作品は、極めて技巧的な優れた小説でありながら、小説という枠を超えた特殊な代物であるように、私には感じられた。詳細をみるコメント3件をすべて表示 -
『人間失格』
文体も展開も分かっているのに、この人間臭さに惹かれるようにふと手に取ってしまう。もはや喜劇。
『グッドバイ』
未完の絶筆。主人公・田島は妻子を持ちながらも酒と女に溺れ、愛人を10人近く持つ。ある日気持ちに変化が生じ、愛人一人一人と縁を切り、真面目に生きる決心する。『人間失格』が陰ならば、こちらは完全に陽。田島のダメ男っぷりが光ります。舞台にしたくなるほどのテンポの良さ。絶筆が悔やまれる。 -
中学生の頃、デスノートの絵柄の表紙に騙されて読み始め、当時ピュアだった私は人の堕落した末路にビビり途中でBOOKOFFへ返納した。
年齢だけは大人といえるくらい時が経ち、改めて読み返すと恐怖より共感するようになっていた。
他人の表情、考えてること等が分からない事が恐怖を生み、恐怖から逃げるためにお酒やタバコ等快楽へ向かうのは、しょうがないよなぁーっと思ってしまう。
これほどまでにないにしろ、振り返れば自意識過剰に自責して周りを理解しようとせず、理解されようと尽くさず勝手に絶望してたことがあった。
皆さんはどれくらい本書に共感で?私は人間失格率35%というとこでした。 -
太宰治は1948年6月13日に、玉川上水にて山崎富栄と入水自殺しました。
本作収録の3作は、太宰治の死後発表された作品です。
三作品それぞれ内容は大きく異なっているのですが、何れにせよ"死を前にして書いた"というには、あまりにもいつもどおりであると感じました。
晩年の芥川龍之介のような、読み手に作者の不安定さが伝わるような作品ではなく、一作品として楽しめる3作です。
そもそも太宰治の入水にも色々憶測があり、遺書も見つかっていることから自殺には違いないと思われますが、その死の間際の思いは不明、というかわかりようがないです。
愛人と入水しましたが、遺書には「小説を書くのがいやになつたから死ぬのです」とあり、本当に死ぬつもりだったのか、と思います。
各作品の感想は以下の通りです。
・人間失格 ...
1948年5月12日脱稿。
連載中に太宰治の入水死があり、最終回は死後の掲載となりました。
そのため、太宰治の遺書として捉えて読まれることも多いです。
私、という第三者が、京橋のスタンドバーで、小説のネタとして3枚の手記と3枚の奇妙な写真を渡される場面から始まります。
気味の悪い笑みを浮かべる少年の写真、恐ろしい美貌を持つが生きている感じを受けない青年、表情がなく座ったまま死んでいるような男、それらの写真はすべて「大庭葉蔵」という男のもので、以降、彼の手記の内容について書かれ始めます。
「恥の多い生涯を送って来ました。」という有名な書き出しで始まるその手記は、自分を誰にもさらけ出すことができず道化を演じ続けてきたその男の半生が書かれています。
太宰治自身の生涯に重なる部分もあるのですが、彼が太宰治自身を重ねた人物であるかは特に言及はなく、創作小説であるという見解が一般的です。
どこか強く惹かれるところのある作品だと思います。
本当の自分を決して表面化させないようにして道化として生きる葉蔵的な部分は皆必ずあって、共感するところがあるのではと思います。
ただ、葉蔵を知るバーのマダムは、葉蔵は「とても素直で、よく気がきいて」「神様みたいないい子」と評します。
それは表面だけのことなのか、表面としてもそれは葉蔵の一部ではないのか、擬態に成功した喜ばしいことなのか、否か、色々考えさせる一作と思いました。
・グッド・バイ ...
連載中に太宰治が亡くなり、絶筆となった作品です。
状況的に悲壮に感じるタイトルですが、内容は陽気で軽いので、読むと本当に人間失格と同時期に書かれたのかと驚きます。
主人公「田島周二」は、終戦で妻と娘を妻の実家に預け、東京で一人暮らしをしています。
闇商売で儲け、愛人を10人も囲っている色男ですが、気持ちに変化が出てきて、女房子供を呼び寄せて闇商売から足を洗い、雑誌編集の仕事に専念しようと思います。
その手始めとして愛人ひとりひとりにお別れを告げようというストーリーです。
とても読みやすく気楽な文体で、本作執筆中に自殺するとは思えない内容です。
最後はまさかの女房からグッド・バイされるというオチを考えていたそうで、おもしろくなりそうなのですが未完となってしまい、とても残念に思いました。
・如是我聞 ...
本作は小説ではなく随筆です。
冒頭にて、「この十年間、腹が立っても、抑えに抑えていたことを」書く旨、書き出しがあり、自分の作品に対する批判や、志賀直哉氏に対する強烈な抗議と批判が認められています。
書かれているのは"怒り"と読んでいいエネルギーで、本作も自殺直前の作品とは思えない勢いを感じました。
自分の作品に対する批判に対する回答が主ですが、正直なところ怒りが全面に出て回答になっておらず、感情的すぎて読みづらいです。
書きたいことを書きなぐった感じがあり、当時、太宰治が志賀直哉をどう思っていたかがよく分かる書だと思います。
ただ、本書も未完となっています。
本書の(3)と(4)は、太宰の死後に掲載されており、死んでからも批判し続けていたと思うと、志賀直哉も拳の落とし所に困っただろうなと思いました。 -
#みな失格太宰に言わせりゃ我々は愛撫するくせ愛はない奴
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主人公、「女達者」で「卑猥で不名誉な雰囲気」を漂わせているので、出会う女全てモノにしていくのだが、後半はもう女と出逢ったら過程とかすっ飛ばしてページめくったら同棲してるの面白すぎる
読者を死に誘うような魔力は感じられなかった -
グッド・バイが読みたくて
ついでに何故か避けてきた人間失格も
やっぱ文章が上手いんよなぁ〜
斜陽も読み返したくなった -
文豪、太宰治を代表する作品は何といってもこの『人間失格』だろう。
「恥の多い生涯を送って来ました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです」
の文章からこの物語は始まる。
大庭葉蔵の手記の形を借りて、太宰は自己の生涯を極限までに作品に昇華させた。なぜ太宰は破滅的な人生を送ってきたのか、なぜ始まりのような文章から始まる物語を紡ぐに至ったのか、彼の眼には一体何が映っていたのかがとても読みやすい文章で事細かに綴られている。
中央館2F : 図書 913.6//D49
OPAC:https://opac.lib.niigata-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BN02188975