リルケ詩抄 (岩波文庫 緑 179-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003117910

作品紹介・あらすじ

一九二七(昭和二)年、リルケが没した翌年、本書は刊行された。本書により、リルケの詩は初めて纏まった形でわが国に紹介された。茅野蕭々(一八八三‐一九四六)は、奇をてらうようなことはせず、口語を用いて訳し、素朴で木訥とした味わいを生み出すことに成功した。

感想・レビュー・書評

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  • これは私が自分を見出す時間だ。
    うす暗く牧場は風の中にゆれ、
    凡ての白樺の樹皮は輝いて、
    夕暮がその上に来る。

    私はその沈黙の中に生ひ育つて、
    多くの枝で花咲きたい、
    それもただ総てのものと一緒に
    一つの調和に踊り入る為め…


    誰だ。楽しい生命を捨てる程、
    私を愛するのは誰だ。
    若し一人が私の為めに海で溺れると、
    私は再び石から解かれて、
    生命に、生命に帰るのだ。

    私はそれ程鳴り巡る血にあこがれる。
    石はほんたうに静かだ。
    私は生命を夢みる、
    生命は好ましい。
    私をば蘇生させる
    勇気を誰も持たないか。
    あらゆる最美なものを与へる
    生命さへ私が得れば―

    さうしたら私はひとり、
    泣くだろう。石に焦れて泣くだらう。
    葡萄酒のやうに熟すとも、私の血が何の役に立たう。
    私を最も愛したその一人を
    海から呼戻すことは出来ない



    それで再た私の深い生命は一層高く音たてる。
    より広い岸の中を行くやうに。
    物は愈々私に近しくなり、
    すべての景象はいよいよ明かになって、
    私は名のないものに愈々親しいのを感ずる。
    鳥のやうに私の感覚を飛ばして、
    私は樹から風立つた天に達し、
    また池の千ぎれた日の中へ、
    魚に乗つてるやうに沈む私の感情



    時間は傾いて、明るい
    金属の響きで私に触れ、
    私の感官は慄へる。私は感ずる、私は出来る―
    そして私は彫望的な日をつかむ。

    私の見なかった中は、何も完成してゐなかつた。
    総ての生成は止まつてゐた。
    私の眼は熟してゐる。そして花嫁のやうに
    誰にでもその思ふものが来るのだ。

    何でも私に小さ過ぎはしない。私は小さくても愛する、
    そして金地へ大きくそれを画いて
    高く捧げる。誰にかは知らないが
    それは魂を解きほぐす…



    私の生活は、私が急いでゐる
    この嶮しい時間ではない
    私は私の背景の前の一本の樹、
    私の沢山の口のただ一つ、
    而も一番早く閉ざされるあの口だ。

    私は、死の音が高まらうとするので―
    拙いながら互に馴れ合ふ
    二音の間の休息だ。

    しかし暗いこの間隔の中に、
    慄へながら二つの音は和解する。
    そして歌は美しい



    しかし私は全歩行で
    いつもあなたを指指してゆく。
    我々が互に解らないのなら、
    私は誰で、あなたは又誰でせう。



    私の眼を消せ、私はお前を見ることが出来る。
    私の耳を塞げ、私はお前を聞くことが出来る。
    そして足は無くてもお前の処へゆくことが出来る。
    口がなくともお前に誓ふことが出来る。
    私の腕を折れ、私は手でするやうに
    私の心のでお前をつかむ。
    心臓を止めよ、私の額が脈打つだらう。
    私の額へ火事を投げれば、
    私は私の血でお前を担ふだろう



    私に二つの声を伴はし給へ。
    私を再び都会と心配の中へ蒔き散ら給へ。
    彼らと共に私は時代の怒の中にゐませう。
    私の歌の響であなたの寝床を作りませう。
    あなたが望む到処に。



    ああ、お前を知つてから私の体は
    総ての脈管から匂い高く花咲く。
    ご覧、私は一層細つて、一層真直ぐに歩く。
    それにお前は唯々待ってゐる。-お前は一体誰なのだ。

    ご覧、私は自分を遠ざけ、古いものを
    一葉一葉に失ふのを感じてゐる。
    ただお前の微笑が星空のやうだ、
    お前の上に、また直ぐに私の上にも。

    私が子供だった年頃、未だ名もなく
    水のやうに輝いている総てのものに、
    私はお前の名をつけよう、聖壇で。
    お前の髪で灯ともされ、軽く、
    お前の乳房で花輪をつける聖壇で



     

  • リルケを初めて日本で訳した本、ということらしいので多少旧文語というか、云い回しが難しく感じる。
    でも新潮文庫の方と比べると個人的にはこちらの方が好みかな。

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