- Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003210253
感想・レビュー・書評
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帰還したオデュッセウス、求婚者達を討ってめでたしめでたし...良い求婚者まで殺されたのはすっきりしないもののまあいいか。
英雄譚ではあるがオデュッセウスは滑稽なほど人間臭い。せっかく厚意で故国まで送り届けてもらいながら、勝手に勘違いして逆恨みしかけたり、忠実な部下の気持ちを試してみたり、素性の知れない相手にはとりあえず出まかせの経歴を語ったり、投降した求婚者を容赦しなかったり、聖人君子ではなくどちらかというと悪人に近いが、そんな人物だからこそ、聞き手は親近感を抱くのだろう。
全体の構成は、悪者の無法な振る舞いと、それに耐える主人公、計画のあらまし説明と準備、伏線としての予兆、運命的な決行日の決定、動き出す作戦、チャンス、ハプニング、決着と大団円...と現代でも通じる要素が見事に盛り込まれている。
日本版「百合若大臣」のように、世界各地に同じモチーフの
話が伝わっているというのも納得。 -
英雄の帰還、そして復讐。劇的に描かれる、悪漢勢の醜態と家族や家臣との絆は、数千年の古さを感じさせない。
主に冒険譚だった上巻から一転、主要人物が故郷イタケに集結し、本作の悪役となっている求婚者たちと対決するお話になっていく。ほとんどの舞台がオデュッセウスの自宅である屋敷となり、本来の主人自らが正体を隠して悪人成敗の計略をめぐらせる、というのが面白さの軸。エンターテイメントとしてシンプルな構成ながらも、人間味あふれるキャラクターと勢いのある筋書きは、紀元前の作品ということを忘れるほど、現代の我々にも魅力的なものであるといえる。「イリアス」上・下巻から順に読んできて本巻が一番面白かったので、途中で挫折せずによかったと思った。
終盤で見えてくる、アガメムノンの妻(またはヘレネ)とオデュッセウスの妻という対比は、そのまま「イリアス」と「オデュッセイア」との対比ともいえるかもしれない。裏切りと憤怒、そして貞節と高潔さといったところか。しかし20年ぶりでも超絶美女なオデュッセウスの妻の魅力とは……。 -
ホメロスの『オデュッセイア』は壮大な冒険譚だ。
そんな前口上を聞いていた私は、オデュッセウスに次はどんな危難が襲ってくるんだろう?とドキドキしながら、上巻の最終ページを静かに閉じた。
そして下巻に突入。
ところが下巻は、オデュッセウスがイタケ国に帰還するところからスタートした。すでに冒険は終わりで、今からは美しき妻に近づく求婚者たちへの復讐劇へと進むのであった。
こうしてみると、壮大な冒険譚というよりは、オデュッセイアは冒険と復讐の物語と言ったほうが良いかもしれない。
とはいえ、後半の復讐劇も冒険部分に劣らず面白い。
オデュッセウスが身汚い老人に身をやつし、徐々に自らがオデュッセウスであることを明かしながら、求婚者たちをドカーン!とやっつける様は、きびきびとした文体で緊迫感に満ちた展開となっている。息もつかせぬ展開とはまさにこのことだ。悪辣極まる求婚者たちを木っ端微塵に倒す様は、さすが、知略縦横たる神のごときオデュッセウス。
彼は、全編を通じて、知略縦横で豪快かつ素晴らしいキャラクターとして描かれる反面、とても人間臭い人物としても描かれている。イタケに帰ってきて、身をやつしているときに、相手によっては「実は俺はオデュッセウスだ」とはっきり言えばいいものを、「もしも、オデュッセウスが帰ってきたらどうする?」とか焦らすし、カリュプソのもとで囚われているときは故郷を思ってメソメソ泣いているし。それでいて案外、自分勝手に振る舞うところもあるし。一方では神々しく強い姿を描きながら、他方で描かれるこうした彼の人間臭い魅力がおよそ2800年を経てもなお愛読される理由のひとつかもしれない。
ところで、「オデュッセイア」という言葉は、いまや「オデッセイ」などとも書かれ、自動車の名前にもなったりして、冒険をイメージする言葉となっているようである。確かにどこかカッコいい響きはある。しかし、この『オデュッセイア』本文によれば、「オデュッセウス」あるいは「オデュッセイア」は、憎まれ者(オデュッサメノス)を意味するらしいのだ(第19歌参照)。街に走る車が「愛される者」ならばまだしも「憎まれ者」と名付けられているのは、皮肉だとも思ったのである。 -
下巻は一気読み。
故国を発ってから20年後にやっとのことで帰還。
息子との再会はなんと豚小屋でした。
しかし乞食の姿のまま、息子や忠実な下僕の豚飼い・牛飼い以外には自身の素性を明かさずに情報収集開始。
オデュッセウス家の財産を食い潰したり、妻に言い寄っている求婚者どもにどう報復するかについて息子と作戦を練り、ついに自分の屋敷で血祭りに上げる。
女中たちの裏切りに対しても容赦しないあたり若干引き気味。
イリアスから始まり各上下巻ということでしばらく積読でしたが、読み始めると弩級のエンターテイメントで有意義な読書体験でした。
2千年以上に渡り読み継がれていることも納得です。 -
「ホメロス オデュッセイア(下)」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1994.09.16
366p ¥693 C0198 (2022.12.21読了)(2016.09.16購入)(1998.07.24/7刷)
【目次】
凡 例
第十三歌 オデュッセウス、パイエケス人の国を発ち、イタケに帰還
第十四歌 オデュッセウス、豚飼のエウマイオスに会う
第十五歌 テレマコス、エウマイオスを訪れる
第十六歌 テレマコス、乞食(オデュッセウス)の正体を知る
第十七歌 テレマコスの帰館
第十八歌 オデュッセウス、イロスと格闘す
第十九歌 オデュッセウスとペネロペイアの出会い、足洗いの場
第二十歌 求婚者誅殺前夜のこと
第二十一歌 弓の引き競べ
第二十二歌 求婚者誅殺
第二十三歌 ペネロペイア、乞食(オデュッセウス)の正体を知る
第二十四歌 再び冥府の物語。和解
訳 注
人名・地名索引
☆関連図書(既読)
「イリアス〈上〉」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1992.09.16
「イリアス〈下〉」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1992.09.16
「オデュッセイア(上)」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1994.09.16
「ホメロス物語」森進一著、岩波ジュニア新書、1984.08.20
「ギリシャ神話」山室靜著、現代教養文庫、1963.07.30
「古代への情熱」シュリーマン著・村田数之亮訳、岩波文庫、1954.11.25
「オイディプス王」ソポクレス著・藤沢令夫訳、岩波文庫、1967.09.16
「コロノスのオイディプス」ソポクレス著・高津春繁訳、岩波文庫、1973.04.16
「アンティゴネー」ソポクレース著・呉茂一訳、岩波文庫、1961.09.05
「ソポクレス『オイディプス王』」島田雅彦著、NHK出版、2015.06.01
「アガメムノン」アイスキュロス著・呉茂一訳、岩波文庫、1951.07.05
「テーバイ攻めの七将」アイスキュロス著・高津春繁訳、岩波文庫、1973.06.18
「縛られたプロメーテウス」アイスキュロス著・呉茂一訳、岩波文庫、1974.09.17
「ギリシア悲劇入門」中村善也著、岩波新書、1974.01.21
「古代エーゲ・ギリシアの謎」田名部昭著、光文社文庫、1987.08.20
「驚異の世界史 古代地中海血ぬられた神話」森本哲郎編著、文春文庫、1988.01.10
「古代ギリシアの旅」高野義郎著、岩波新書、2002.04.19
「カラー版 ギリシャを巡る」萩野矢慶記著、中公新書、2004.05.25
(「BOOK」データベースより)amazon
(下)には第一三歌から第二四歌を収める。怪物たちとの戦いや冥界訪問など、オデュツセウス自身の語る奇怪な漂流冒険譚は終わりを告げて、物語はいよいよ、オデュツセウスの帰国、そして復讐というクライマックスへと突き進んでゆく。 -
物語の大切な要素が散りばめられている。
困難に負けない。
容易に信じない。
悪事はバレる。
いわれなき報復は避ける。
低い身分こそ試金石。 -
ホメロス 「 オデュッセイア 」2/2
訳が もう少し 現代的なら 自分史上 海外小説の中で ナンバー1だった
ギリシア神話や魔女の幻想的な物語、父探しの旅と家族の感動的再会、英雄の転落、ロビンソンクルーソー的な冒険、モンテクリスト伯のような復讐劇、イリアスの英雄再登場 など 面白要素 盛り沢山
戦争の英雄オデュッセウスとその家族の 戦後の波乱人生記、冒険記といったところ。ギリシアの神の意見の対立が オデュッセウスとその家族の波乱人生の原因
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気高さとはこういうものなのだという一つのイメージが得られた気がする。昔の人々はこういう物語を通して目指すべき偉大な人物像を学んでいたのだろうということが窺える。礼儀を弁えて相手を立てながら自分の品位も一切落とさずに言いたいことを伝える弁術はぜひ見習いたいものだと思った。因果不明のあらゆることを神々の仕業として解するのは明快で清々しさすらあった。物語としては空想的要素のある前半の漂流記の方が面白かったかな。まあでも全体として楽しめた。英雄叙事詩、初めてだったけど結構いいものですな。