若い芸術家の肖像 (岩波文庫 赤 255-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (499ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003225523

作品紹介・あらすじ

若さゆえの道化ぶりを随所で演じてみせる主人公。ジョイスは一人の若者の成長過程を、幼年期から青年期にいたる感情と意識の移ろいに合わせ、巧みに文体をあやつって描いた。閉塞状況からの脱却と芸術家としての出発-この作品には時として音楽が流れ、『ユリシーズ』等につながる喜劇的精神が息づいている。新訳。

感想・レビュー・書評

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  • 古書店にて。『ダブリナーズ』『フィネガンズ・ウェイク』に続きジョイスを読むのは3作目なのだが、プルーストのあれと並び称せられる20世紀文学の頂点たる『ユリシーズ』を最後に残してしまったのはどうしたものか。『ダブリナーズ』において早くも示された透徹したリアリズムは、自伝的エッセイを改訂する過程に持ち込まれ、1人の青年の幼年期から芸術家を志し故郷を後にする前日までを時にはあざといほど滑稽に、時には息詰まるほど真摯に描き出していく。宗教談話の暑苦しさや芸術論の青臭さも、後の傑作群を産み出す布石としては悪くない。

  • 『ユリシーズ』や『フェネガンズ・ウェイク』が強烈な印象を持つジョイスだが、本作はスティーブンの成長過程を描いた19世紀的教養小説としての体裁を成している。ピカソもそうであったが、伝統を更新する者はまず伝統的技法を完成させてしまうものだ。その上で文体の変化によって成長過程を表したり、主観客観を交差させる手法は次の時代の萌芽を感じさせる。スコラ哲学を踏まえた情熱的な芸術談義は圧巻だが、これを喜劇とするならそれはアイルランドの歴史に対する痛烈なアイロニーと化し、ジョイスの故郷に対する愛憎一体の感情を表現する。

  • 読みにくい…。1回ではあまり理解できない。

  • この小説は、ジョイスの生い立ちとアイルランド出奔前夜までが描かれているものと読めるだろうし、僕もそう読んだ。
    もちろん、小説だから書かれているとおりではないとしても、主人公のスティーブンをジョイスの思いを体現している存在として読んだ。/


    【ーーぐうたらで、なまけぐせのついた、のらくらものめ!と生徒監は叫んだ。眼鏡をこわした、だと!生徒がよくやる小細工だ!さあ、さっさと手を出すんだ!
    スティーブンは目をつむり、ふるえる片手を、てのひらを上にしてまえにさしだした。生徒監の手が、一瞬、指にさわり、てのひらがまっすぐにのばされるのを感じたと思うと、革帯をふりかざす法衣の袖のさらさらというきぬずれがきこえた。つえが大きな音をたてて折れるときのようなびしっと鋭い一撃の焼けるように熱く、刺すようにひりつく痛みが、わななくてのひらを火のなかの木の葉のようにちぢみあがらせる。その音と痛みから、目には焼けるほど熱い涙がにじみだす。】/

    スティーブンが鞭打たれるこのシーンは極めて強い印象を残す。
    ジョイスにとって、「痛み」は重要なテーマだったのではないか?/


    息が詰まりそうなイエズス会の教えや聖職への道と訣別して、スティーブンは大学進学を選ぶ。

    【咽喉が疼く。いま大声で叫びたい、天翔る鷹か鷲の叫びを、風に向かって鋭く叫びたい、ぼくはついに解放された、と。これは自分の魂に呼びかける生命の声なんだ。義務と絶望の世界からの鈍重粗大な声でもなければ、祭壇への蒼白い奉仕をすすめたあの非人間的な声でもない。一瞬の荒々しい飛翔が彼を解放し、勝利の叫びは唇にせきとめられて彼の脳をつんざいた。

    ー中略ー

    今やすべては死体から剥ぎとった屍衣にすぎない
    (略)
    ぼくの魂は少年期の墓場から立ちあがり、みずからの屍衣を脱ぎ捨てたのだ。そうだ!そうだ!そうなのだ!魂のこの自由と力とからぼくは誇らかに創造しよう、同じ名をもつ偉大な工匠のように、生けるものを、新しく天翔る美しいもの、精妙にして不滅なものを。】/

    一度は同じ風を肌で感じながら、その気流に乗ることに失敗したかつての日を悔やむ者の目には、何という眩しい言葉だろう!/


    また、第4章に登場する渚に佇む少女は、『ユリシーズ』第13挿話に登場するガーティ・マクダウエルの姿を彷彿とさせる。/


    この作品のおかげで、『ユリシーズ』で描かれていたスティーブンの人物像に、陰翳を加え、立体的なものにすることができた。
    本作でのジョイスは、描写は細やかで的確だが、『ユリシーズ』の変幻自在な描写に比べると、いささか面白味に欠けることは否めない。
    『ユリシーズ』に特徴的な「軽さ」、「明るさ」などもここにはあまり見られない。
    テイクオフはもう少し先なのだ。/


    どうやら、ジョイスの策略に、ものの見事にはめられてしまったようだ。
    謎があるから、読み続けてしまう。
    謎が解けないから、また手に取ってしまう。
    次は、柳瀬尚紀訳の『ユリシーズ 1-12』に挑戦したい。

  • ビルドゥングスロマン。

    いつの時代も若い芸術家は自国に対し苛立ち言葉を尽くしてこれを罵倒する。本作のスティーヴンもまたしかり。「アイルランドは生み落とした仔をむさぼり食らう年老いた雌豚だ」「神に見捨てられたこの惨めな島国」云々。そういう尖った言葉、個人的には読む分にけっこう楽しい。

  • 散文的というか,主語がはっきりしない。そこがすごいのかもしれないが。
    ユリシーズ読んだ後に読むべきだったのかな。

  • スティーブン・ディーダラス学生ver. の、失意以前の物語。
    ジョイスの書く人物って駄目男であっても天才肌であっても、皮肉屋、酔っぱらい、娼婦、死人、エトセトラ、とにかく誰でも好感が持ててしまう。
    肖像でのスティーブンは青い。でユリシーズで失意しててもやっぱりちょっと青い。みんながそれぞれに青くって、魅力がある。
    ユリシーズの後、スティーブンはどうなったのか。翼を発明して島から出られたのか、それともやはり?

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