ホーソーン短篇小説集 (岩波文庫)

制作 : 坂下 昇 
  • 岩波書店
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003230435

作品紹介・あらすじ

ホーソーンは『緋文字』によって一躍人気作家となるが、それに先きだつ20年間に約100篇の短篇小説を書いていた。そのうちからよく知られた『ヤング・グッドマン・ブラウン』など物語性に優れた12篇を厳選し、さらに処女作群中の重要作品『アリス・ドーンの訴え』を加えた。「永遠に生きる」作家ホーソーンの清新なアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • ホーソーンはウン十年前に『緋文字』を読んだきりだったのだけど、ボルヘスの『続審問』で「ナサニエル・ホーソン」を読んだら俄然「ウェークフィールド」が気になってしまったので、収録されているこちらをようやく。

    短編集だから読み易いだろうと思っていたら意外にも手間取ってしまったのですが、原因は時代背景に馴染みがない=私がアメリカの歴史を意外と把握していなかったこと。アメリカ文学はやっぱり最近の作品を読むことのほうが圧倒的に多くて、ヨーロッパの小説を読むときほど歴史を意識しないのだけど、ホーソーンはアメリカ文学ではもはや古典の領域なのかも。

    なので読みながら自分のために調べた周辺知識をまず整理しておくと、作品の舞台は大半がホーソーン自身の出身地であるニューイングランド地方、マサチューセッツ州、セーラム。ニューイングランドとはその名の通り、英国からの移民が住んだ植民地で、とくに英国で国教会から分離したピューリタン(清教徒)が多く住んだ地域。

    セーラムは、1692年に起こった「セイラム魔女裁判」が有名な土地、たぶんアメリカで最大最悪のこの魔女狩り騒動の裁判の判事を務めたのはなんとホーソーンのご先祖ジョン・ホーソーン。Wikiによると「200名近い村人が魔女として告発され、19名が処刑、1名が拷問中に圧死、2人の乳児を含む5名が獄死した」そうです。こわ!

    アメリカ合衆国の独立が1776年。ナサニエル・ホーソーンの誕生は1804年で、独立から30年も経っていない。ちなみに同時代の作家はエドガー・アラン・ポー(1809年 - 1849年)ハーマン・メルヴィル(1819年 - 1891年)ちょっと先輩ワシントン・アーヴィング(1783年 - 1859年)あたり。ちなみにいつもの個人的な趣味でひとこと書き添えるなら、ホーソーンが亡くなった1864年は日本では幕末、池田屋事件のあった年。以上前置き終わり。

    『緋文字』が宗教的な話だった印象なので(うろおぼえ)短編もそうかと思いきや、意外にもゴシックホラー系の話がいくつかあり大変嬉しい誤算でした。とくに印象に残ったのは上述セーラムの魔女裁判に題材をとった「ヤング・グッドマン・ブラウン」ホーソーン自身を思わせる若者が魔女たちの集会の夜に迷い込んでしまう悪夢のような一夜。

    「アリス・ドーンの訴え」も魔女裁判後の処刑が行われた絞首台の丘が舞台になっている。『緋文字』のモチーフにもなったと思われる、ホーソーンの母方のご先祖の近親相姦事件(アメリカで成功した青年が二人の姉を英国から呼び寄せるが、この姉二人と近親相姦だと現地妻から訴えられ、姉二人はIncest(近親相姦)の「I」の文字を縫い付けられて鞭打ち刑、姉の一人は妊娠していた)がベースになっており、複雑な構成だが幻想的。

    ボルヘスお気に入りの「ウェークフィールド」は、妻に数日外出すると言って出かけた男がそれきり帰らず隣町に住み、20年間妻をこっそり観察、ある日ふらっと帰ってくるという、人間の心理の不条理について考えさせられてしまう話。現実的に考えるとそのあいだの生活費どうしてたのかとか気になっちゃうし、どちらかが再婚するとか死んじゃうとかの可能性もあるはすなのだけど、着眼点はそこではない。

    ポーが激賞したという「白の老嬢」は、いかにもポー好みのゴシックホラー。ひらたくいうと三角関係の話。男性は何かの理由で亡くなってしまうのだけど、ライバル同志だった女性が、男性の遺体の前で「いつか白黒つけたるわ(※意訳)」と再会を約束、老嬢になってから約束通り再会し・・・でも結局二人のあいだにどんな諍いがあり、結果がどうだったのか読者は断片的な描写から想像するしかない。スッキリはしないんだけど雰囲気を楽しむべし。

    「フェザートップ」は魔女が箒やひしゃくで造ったボロボロのカカシにパイプの煙で魂を吹き込みフェザートップと名付ける。パイプをふかしている間は他の人間にはイケメンに見えるので、早速町の有力者の娘を口説きにでかけるが、魔法の常で鏡に映った姿はカカシのまま。普通は相手の女性がそれに気づいて・・・となるところだけど、繊細なフェザートップは自身の本当の姿に傷ついてしまう。コミカルだけど切ない。

    「雪少女」は民話によくある「雪娘」系。無邪気な幼い姉弟が雪で造った女の子が本当に動き出す子供むけファンタジー風に始まり、お約束で最後は溶けてなくなっちゃうわけですが、親切めかしたお父さんが子供が止めるのも聞かず無理やり雪少女を暖炉の前に連れていくくだりが結構胸くそなので、実際には大人向けのシニカルな印象に。どれも面白かったけど、翻訳がちょっと古いような印象を受けた。ホーソーンは他にも沢山の短編があるそうなので、古典新訳文庫あたりで出してくれないかしら。

    ※収録
    僕の親戚、メイジャ・モリヌー/ヒギンボザム氏の意外な破局/ヤング・グッドマン・ブラウン/ウェークフィールド/白の老嬢/牧師の黒のベール/石の心の男/デーヴィッド・スワン/ドゥラウンの木像/雪少女/大いなる岩の顔/フェザートップ/アリス・ドーンの訴え

  • 19世紀のアメリカ文学というなじみがうすいジャンルであり、訳も古めかしく、読み終えるのにだいぶ時間がかかった。やはり、ピューリタン的精神世界の理解が不可欠か。とはいえ、前半に収められた初期作品群の幻想性、後半に収められた寓意に富んだ作品群、どちらも味がある。柴田元幸さんのアンソロジーですでに読んでいた「ウエークフィールド」がやはり出色。処女作といわれる「アリス・ドーンの訴え」の完成度に驚く。作家の才能に唸ることしきり。

  • 『雪少女 こどもじみた奇跡』を、さかたきよこが画を添えたフランス語版絵本『La petite fille de neige : Conte d'hiver』と併せて読む。
    ある冬の日の午後、〈菫〉と〈牡丹〉と呼ばれる愛らしい姉弟は、雪で人形を作ることを思いつく。雪少女の命の源は胸元に収められた純白の雪。彼女をより一層、生き生きと見せるのは、自然の豊かな色彩。菫と牡丹の妹、遊び仲間。冬の間はずっと一緒に過ごせたら楽しいのに。奇跡は終わり、透明な水の温もりと寂しさが残されて。白銀の純真さで世界を見渡す瞳がほしい。

  • 不気味な話、変な話が多い中で、『雪少女』がファンタジー要素多めで可愛かったな。『僕の親戚、メイジャー・モリヌー』『ヤング・グッドマンブラウン』も印象的。『ウェイクフィールド』はほかの訳で何度も読んでいるが、やはり出色のデキだなあ。

  • 新書文庫

  • ボルヘスの『続審問』を読んで興味が湧いた。サリンジャーすら古典とされる今日日、1800年代に活躍した作家ともなれば、当時の社会規範に基づく価値観の相違や宗教観等、現代人にとって決して親しみやすいものではないはず。それが読まれにくい要因だと思う。
    つまり、それでも『ウェークフィールド』を読んでみたいと思わせたボルヘスが凄いということで(笑)

    さておき、本短編集、予想外に楽しめた。宗教的な色が濃いのでは(それだけでもギブの対象になり得る)という懸念も思ったほどではなく、時代を感じさせる部分も含め、ファンタジックに展開される物語の数々は、マルケスの短編集を読む楽しさと同等かもしれない。
    『白い老嬢』を読んでいて、昔読んだフォークナーのホラー短編『エミリーに薔薇を』が脳裏に甦ったのだが、案外影響受けていたりして。

    ホーソーンといえば、有名なのは『緋文字』である。これまでに三回映画化されているようだが、私は、1972年のヴィム・ヴェンンダース監督作をだいぶ前にTV視聴した(劇場未公開)。
    宗教色が強く、現代に通ずる普遍的テーマとも言い難い内容で、重いわぁとしか思わなかった。原作を読んでみたいと思わせる要素は皆無だった。
    本書を読んで、あらたに『緋文字』を読んでみたいと思ったかというとそんなことはなく(笑)、新しいアンソロジーが出版されるようなことがあれば、またそのとき会いましょうという感じだ。ボルヘスも『緋文字』より『ウェークフィールド』って言ってるしね。

    ちなみに、ググったら「日本ナサニエル・ホーソーン協会」というのがあったんだけど、細々ながらしっかり活動しているようで、何というか日本のディープな読書界をかいま見た気がした(ちょっとだけ)

  • 「ウェークフィールド」読みたさに購入。

  • あちこちで褒めちぎられていたので読んでみたが、
    今一つピンと来なかった。
    自分の頭が悪いせいか(´Д⊂ヽ

  • 一個一個が短くて隙間時間にちょうど良いです。

    ただ・・・なんだろうな。
    緋文字の時も思ったけど
    この人の作品に出てくる人は、さびしい。
    たぶん、現実の人間がこれより素晴らしいってことでは
    ないけれど、さびしい。
    孤独だとか、そういう意味じゃなくてね。
    人の心の弱さが、
    善良な愚かさが、さみしい。

    大いなる岩の顔が一番好きだけど
    やっぱり彼だってなんだかさみしい。


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