どん底の人びと―ロンドン1902 (岩波文庫)

制作 : 行方 昭夫 
  • 岩波書店
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レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003231524

作品紹介・あらすじ

1902年夏、エドワード七世の戴冠式でにぎわうロンドンのイースト・エンドの貧民街に潜入したジャック・ロンドンが、「心と涙」で書き上げたルポルタージュ(1903)。救世軍の給食所での不衛生な食事、小さな靴工場の悲惨な労働環境-苛酷な世界に生きる人びとの姿が迫真の筆致で描かれる。著者撮影の写真数点を収録。

感想・レビュー・書評

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  • ジャック・ロンドンの作品はその描写が見事で、人間性や感受性がじつに豊かで面白い。机上で学んでも決して得ることのできない天性のセンスが備わっている人なのですよね~♪ そのような持ち前の才気で、イギリスのロンドン東・イーストエンド(貧困地区)に決死の潜入を試みています。一文なしのアメリカ人水夫(浮浪者)に身をやつした6週間のルポルタージュにハラハラして目が離せません!

    金も仕事もなく、腹をすかせて朝から並んでも入れない救貧院、警察に追われながら――街中で寝ると蠅のように追い払われる――貧民街を夜通し彷徨い続けるジャック・ロンドン。やっとの思いでそこに入ると、獣の巣窟のような暗くて不衛生な場所に、ひどく餓えた人間がぎゅう詰め……あまりにも粗末な食べ物に胃も心も萎えます。ホップ摘みの日雇人夫として働いても、哀しいかな一日の食事代にもならずまたしても宿無し。やせ衰えた子どもたちや小さな靴工場の悲惨な労働環境に言葉を失ってしまうロンドン……どこをみても完璧などん底!

    「一夜の宿を求めて貧困者用の収容所に入れてもらおうと、寒く薄暗い午後にじっと待っている男女の姿はこの上なく物悲しい。私はもう少しで勇気がくじけそうになった。歯医者の入り口までやって来た少年と同じで、私は他の用事をあれこれ思い出した……」

    「……そこで私は彼のシャツの下に手を入れて触ってみた。皮膚は骨の上に羊皮紙のように張りついていて、触った感じは洗濯板の上を手でなでるのにそっくりだった」

    普通の人々や富裕層が住むロンドンの西、ウエストエンドの平均寿命は55歳、5歳までの死亡率は18%。他方イーストエンドの平均寿命は30歳、5歳までの死亡率は55%。衝撃的な数字にびっくりします。
    ふと思い浮かぶのは、下層階級の世界を見事に描きだした、イギリスのディケンズの作品たち。少年少女らが食うや食わずの生活をし、悲惨な煙突掃除(その憐れさをイギリスの詩人ウイリアム・ブレイクもせつせつと吟じていて切ない…)をしたり奴隷のような仕事をし、救貧施設から逃げ出して盗賊の巣窟に入り込んでしまう『オリバー・ツイスト』は、とりわけ泣けちゃいます。

    この本は1903年に出版されて反響をよんだそう。アメリカを贔屓目にしているような指摘もあって思わず苦笑しますが、それでも彼の観察眼と大胆な指摘に目をみはります。
    それから100年あまりたったいま、考えてみれば、戦争・内戦、野放しの市場原理、労働力の搾取や自然破壊、稚拙な社会システムやその管理不備などの様々な要因から、いまだ地球の半分の人間が餓えているという状況にあらためて気づかせてくれる感慨深い作品でした。
     
    余談ですが、これに霊感を受けた『1984年』作者のジョージ・オーウェル。くしくもこの本が出版された年に誕生した彼は、その後『パリ・ロンドン放浪記』というルポルタージュを書いています。良書は良書を連れてくる! これも読んでみたいな♪

  • アメリカのジャーナリストがロンドンの貧民街に侵入ルポ!
    21世紀の極東じゃあ、もはやなんでもアリですが、階級社会のヴィクトリアン英国では(London1902と表紙にあるので正確には違います)こういうのって、素性がバレたらシャレにならないのでは・・・ってそっちが気になって(期待して?)ドキドキしながら読んじゃいました。うーん我ながら外道・・・

    しかしまー、なんか江戸の庶民風俗とノリがそっくりなんですよね・・・・

  • ・古本市でこれも30円で購入。
    ・「野生の呼び声」と「白い牙」の動物もの(どっちも大好き)で知られるジャック・ロンドンのノンフィクション。こういうのも書く作家だったんだな、とイメージ一新。
    ・簡単に言うと、100年前の「ニッケル・アンド・ダイムド」。著者がロンドンにあるイースト・エンドというスラムに身分を隠し変装して潜入したルポ。
    ・前半はホントに面白い。日英同盟締結のころのイギリスがこんなに歪んだ国だったのかと。価値ある内容。体当たりの取材が凄い。
    ・もちろん現代とは価値観が違うと思うのだけど、著者も当たり前のように貧困層を蔑視しているのに驚く。平気で「顔立ちも体付きも良いのに」などと書かれていて、貧困層は顔立ちすら悪いとされた時代なのかと。
    ・夜の街で立ち止まったり、ベンチで横になったりするだけで警官に追い払われる社会って、ちょっと想像が出来ない。
    ・後半は資料から数字を拾って論ずる内容になっちゃってて、かなり残念。著者は取材中も途中で身分を明かしたり、隠した金を使ったりと耐えられない様子をみせていたけど、後半は潜入取材やめちゃってるよ、と。
    ・いちいち垣間見えるのは、アメリカ人のイギリスに対するコンプレックスと優越感のないまぜになったような感情。かなり興味深い。

  • 社会主義派の作家による、貧民街潜入レポ。気が滅入るような1900年代初頭のロンドンの様子。著者の差別意識も垣間見られるが労働者たちがどのような状態にあるのか、その生活を具体的に描いている。やや同じ内容の繰り返しが多い。

    これを読んだ後に飯を食うと食べ物のありがたみが増し、なんでもうまく感じる。

  •  世界に覇を唱えていた大英帝国の影の部分がこれでもかと描写されており、かなりえげつない。産業革命の闇である。アメリカでも、オーストラリアでも、このようなことはないと著者は述べている。

    裕福な人々や警官、裁判官は彼らを怠惰と呼んでいる。しかし、彼らは仕事がある限り働いている。朝早く起き夜遅くまで劣悪な環境と僅かな賃金で働いているのだ。そして小さな家――ではなく、部屋――あるいはその一角を週払い――あるいは日払いにて住んでいる。それでも彼らの中で安定した仕事が出来る人はまだ幸せかもしれない。一度失業して仕事にあぶれれば、たちまちどん底が待っている。少ない仕事口に大量の労働者が集まる。そこで雇われるのはまだ屈強な若者たちか、熟練の者である。そうでない者は、たちまち蓄えを食いつぶし、やがて宿を追われ、劣悪な食事さえ満足にできず、ますます衰えていく。そうなれば救貧院の世話になるしかない。その救貧院も、数日の劣悪な宿と食料を、また劣悪な労働を対価にして与えられる場所なのだ。それも入れるのは何時間も並んだ僅かな人だけ。当然仕事を探す時間もない。仕事にありつけなければ宿には入れないし、救貧院には何時間も並ばないと入れない。どちらにもあぶれれば残るは野宿である。と言っても、夜もいたるところに警官が巡回し、眠ろうとすると叩き起こされ、巡回地域の外に追い出される。そこもまた別の警官の巡回地域なのだ。野宿や宿無しは法律違反だからだ。夜は公園は閉鎖され、朝に開く。となると、朝の公園にはベンチや芝生は夜通し歩き続けた"怠惰"達が疲労困憊して眠る姿があふれることになるのだ。そして昼になると、また空腹を抱えながら救貧院に並ぶか、仕事と食料を探しに行くのである。彼らはゆるやかに死んでいくが、また田舎からは農家の次男三男がロンドンに職を求めてやってくる。何年かはその屈強な体を生かして何とか働けるが、一度過酷な労働で怪我をしたり、劣悪な居住環境で体を壊せば、あっという間に"どん底"である。そしてイースト・エンドには次々と若者が入ってくる。これでも彼らのことを"怠惰"と呼べるだろうか。

     前半はジャック・ロンドンが実際にイースト・エンドで最下層の暮らしをして得た体験談と、"どん底"の人々の話で構成されている。後半は彼が図書館などで探した資料に基づき、数字によって説得力を与えている。しかし、前半の体験談に勝る説得力はないだろう。

  • 1902年といえば、夏目漱石はロンドンに留学していたのだ。ここに書かれているエドワード7世の戴冠式を見学したのだ。漱石はイースト・エンドの貧民街には訪れてはいないだろう。漱石も日英の貨幣価値の違いから、生活は困窮を極め、それが原因ではないであろうが、発狂したと噂されたのだが、産業革命を起こし多くの植民地を擁する大英帝国の繁栄の影で、極貧の生活を強いられた人々が多数いたことやその人たちを救済する福祉政策やインフラ整備が不十分であったことに驚かされる。

  • 海軍の軍法会議で渡された判決をくやしいのでしっかり暗記した、という老人の話はすごみを感じさせる。
    解説にもある通り、前半はイーストエンドに飛びこむといった行動に積極的だったが、後半は資料に頼りぎみになっている。だが、やはりこの本は壮絶な環境をよく描写していると言える。

  • ロンドンの東側にある貧しい労働者階級地区の現状をさぐるべく筆者が実際にその土地に暮らしてみた記録。
    最初は紳士のみなりをして、その街にあわず、店や馬車にのるときも、人の対応がすごい丁寧だったが、筆者がボロい服に着替えたらまわりの人もいきなり蔑んでいたのが興味深いしおもしろかった。
    ただ一つ物足りなかったのが、筆者がその土地での暮らしをしていて、あまりの環境の悪さに元の綺麗な環境へ避難してしまったのが残念。

  • ルポというよりは物語として読んだほうがよい。
    (自分が何故こんなに「どん底日記」モノが好きなのかがイマイチわかってません。)

  • 2009年12月23日購入
    描かれているのは酷い生活なのだが、
    まあこんなもんなのかなという気もする。

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プロフィール

Jack London 1876年、サンフランシスコで降霊術師を母として生まれたが、巡回占星術師であった父に認知されることはなかった。91年には缶詰工場で働く一方、養殖牡蠣の密漁にかかわったりする。94年、「ホーボー」の仲間入りをし、アメリカ北部とカナダの各地を放浪(『ジャック・ロンドン放浪記』)。96年、カリフォルニア大学バークレー校に入学するが、一学期で退学。ほとんど独学で当時の新しい思想を吸収した。97~98年クロンダイク・ゴールド・ラッシュに加わり、冬のユーコン河の流域で過ごす。広く読まれている『荒野の呼び声』や『白い牙』など極北の自然を舞台にした作品はこのときの経験がもとになっている。1907~09年、帆船でハワイや南太平洋の諸島を巡るが、途中で断念。以後、尿毒症、腎炎などを患い療養のためハワイで過ごすことが多くなる。1916年歿。

ジャック・ロンドンの作品

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