悪の華(ボオドレール) (岩波文庫 赤 537-1)

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  • / ISBN・EAN: 9784003253717

感想・レビュー・書評

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  • ボオドレール読みやすい!笑
    バタイユの『エロティシズム』に出てきたフレーズが『人工楽園』にあるそうなので、その前にさすがにこちらを読む。

    好きだった詩
    「交感」
    自然は神の宮にして、生ある柱
    時おりに 捉えがたなき言葉を洩らす。
    人、象徴の森を經て 此處を過ぎ行き、
    森、なつかしき眼相に 人を眺む。

    長き反響の 遠方に混らふに似て、
    奥深き 暗き ひとつの統一の
    夜のごと光明のごと 廣大無邊の中に
    馨と 色と 物の音と かたみに答ふ

    幼童の肉のごと新鮮に、木笛のごと
    なごやかに、草原のごと緑なる、薫あり。
    —あるは、腐れし、豐なる また ほこりかの、

    無限のものの姿にひろがりて、
    龍涎、麝香、安息香、焼香のごと、
    精神と官學(にく)の法悦を歌へる、薫

    「不遇」

    「人と海」
    自由の人よ、お前は海を 永久に愛するだらう。
    海は お前の鏡。お前は自分の霊魂を、大濤の巻き返しては
    繰り展げる うねりの無限の反復に じつと眺める。
    そしてお前の精神も 海に劣らぬ苦い深淵だ。

    お前は 自分の姿のままの海の懐に 好んで浸る。
    眼で、腕で、お前は海を抱き緊める、また時をりは、
    暴れ狂ふ野生の海の嘆きの聲に
    お前の心は 心臓のときめきを紛らはして放心する。

    海もお前も二人とも 暗黒であり 隠密だ。
    人よ、お前の深淵の底を 誰も測らなかつた。
    海よ、お前の水底に蔵した富は 識る者もない。
    かくまで二人は汲々と秘密を守るに餘念がない

    そしてその間、数知れぬ世紀を経たが、
    憐憫も悔恨もなく、海と人とは、格闘する。
    それほどまでに 二人とも 殺戮と死を好んでゐる。
    おお 永遠の闘士たち、おお 宿怨の兄弟よ。

    「理想」
    …それともお前だ、巨人族の接吻に丁度似合ひの
    魅力を、奇怪な娼態の中で、悠々とくねらせてゐる、
    ミケランジェロの腕から生れた娘、巨大な夜よ。
    ミケランジェロの夜!好きです!!となった

    「美の賛歌」

    「腐れ肉」
    あの爽やかな夏の朝、わが戀人よ、ぼく達が
    見たもの 思ひ出して御覧。
    とある小径の曲がり角で、敷かれた砂利を寝床とし、
    醜怪な腐れかかった獣の死骸が…で始まるこの詩、ぐっと引き込まれた。
    特に好きだったのは、

    ーだがしかし、わが戀人よ、わが天使、わが情熱よ、
    きみだつて、この汚穢に、この恐しい
    腐爛の臭気に 似た姿と いつかは成らう、
    わが眼には星と輝き、わが本性には太陽のきみよ。…からなる最後の三連!
    醜いものを語っていながら美しくある、三島みも感じるわけで。

    「虚無の味」
    …もう諦めろ、わが心よ。獣の眠りを眠れ。

    …愛すべき春はもうその薫を失つた。

    そして時間は 刻一刻と 俺を嚥む、
    まるで 凍えた肉體の上に 大雪が降り積るやうだ。
    俺は 天の高みから 地球の圓さを眺めるが、
    地球に荒屋一軒の身の隠れ家も 求めない。

    雪崩よ、お前の雪崩の中に 俺を攫つて行かないか。

    「時計」
    凶兆あつて、恐しい、無感覚の神、時計。
    その指先が 俺たちを脅迫しながら告げるのだ。『思ひ出せ。
    恐怖に満ちた心臓に、顫へてゐる苦痛が やがて
    標的を射る矢のやうに 突き立つだらう。

    …一時間ごとに三千六百囘、秒が 囁く、
    思ひ出せ、と。ー昆蟲のやうな その聲で、
    早口に 現在が言ふ、俺は 過去だよ、穢らしい
    吸口の管から お前の生命を 吸ひ取つたのだ、と。

    …そのうち 時が鳴るだらう。それを合圖に 神聖な
    偶然も、まだ處女である花嫁の 尊い美徳も、
    悔恨さへも(ああ、これが最後の宿だ)、あらゆるものが
    お前に言はう、死ね、老耄の卑怯者、遅すぎるぞ、と。』

    最近とみに年を取ること、時間が過ぎることに対する恐怖というかきつさを感じているのでささりまくる二篇でした…。

  • 人生とは、病人の一人一人が寝台を変えたいという欲望に取り憑かれている一個の病院である。ボードレール『パリの憂愁』
    ※象徴主義。自然主義への反発。

    孤独でいかに暮らすかを知らない者は、忙しい群集の中でいかに忙しく暮らすかも知らない。ボードレール『散文詩』

    ヘロデは王である兄を殺して王位を奪い、兄の妻を自分の王妃とした。預言者ヨハネが「兄を殺して王位に就いたのは違法」だとヘロデを糾弾。怒ったヘロデは預言者ヨハネを地下の井戸に閉じ込める。王女サロメ(ヘロデ兄の娘16歳)は、地下の井戸に閉じ込めらているヨハネに興味を持ち、兵士に命じてヨハネを地下の井戸から出させる。ヨハネに会い、恋に落ちたサロメは、ヨハネにキスを求めるが、ヨハネは拒否して井戸の中に帰ってしまう。サロメ「わたしのキスを断るなんて許せない」。城では宴会中。ヘロデ王がサロメに踊るように命じる。渋るサロメ。ヘロデ王「なんでも願いを叶えてやるから踊れ」。サロメは踊り終って言う「ヨハネの首をここに持ってきてください」。サロメは銀の皿にのせられたヨハネの首にキスをする。▼人は恋だけを一途に想うておればよいものを。オスカー・ワイルド『サロメ』 ※ビアズリー挿絵。

    男は女の初恋の人になろうとする。女は男の最後のロマンスになろうとする。▼義務はひとが他人から期待するものである。オスカー・ワイルド『何でもない女』

    愛情のまったくない結婚よりも悪い結婚は、愛情があっても片方だけの結婚である。オスカー・ワイルド『理想の夫』

    女が再婚するのは先夫を嫌っていたからであり、男が再婚するのは先妻を熱愛していたからである。女は運を試し、男は運を賭ける。オスカー・ワイルド『ドリアン・グレーの肖像』

    人生は真剣に議論するには重要すぎる。オスカー・ワイルド『ウィンダミア卿夫人の扇』

    楽観主義者はドーナツを見る。悲観主義者はドーナツの穴を見る。▼噂をされるより悪いことが一つだけある。噂すらされないことだ。▼経験とは、自分の失敗に対して与える名前のことである。オスカー・ワイルド

    ※耽美主義。退廃。写実・自然を批判。芸術が自然に追随してしまっている。むしろ自然が芸術を模倣するのだ。

  • 「忘却」とは死と近接した観念としてしばしば、とくにロマン派の詩人によく取り上げられるところだが、これに注目して『悪の華』の詩作を追っていくと「忘却の河」(レテ)にまつわる描写が多く飛び出し、さらに「陽気な死者」という詩編では「忘却の中に眠ろう」とある。
    一貫した忘却へのこだわりと、その中での眠りを得る者が「陽気」であるというのは、ボオドレエルが紡ぐ死の甘美さをそのまま伝えてくれるだろう。

  •  

     
    (20141231)
     

  • DIME 2012/10/02号

  • グチャグチャとした重苦しい詩でした。
    当時の時代背景などいれるとさらに読みやすいと思います。

  • いろんな方の訳した悪の華を手にとってきましたが、好みだった訳がどなたの手によるものなのか忘れてしまいました。
    「行きずりの女に」(ある行きずりの女に?)という詩の
    「まなかいひとつ あとは闇」
    「行ってしまった 遠くの方へ ~
    二度と会う日はまたあるまい」
    こんな感じの訳をご存知の方、訳者の方のお名前を教えてください…。

  • ランボーよりボードレールなんだよなぁ。鈴木信太郎の訳も素晴らしい。名訳だと思う。
    ここで追い求めている物とはフィッツジェラルドの「華麗なるギャッツビー」でギャッツビーが溺れていた物なのかな…。

    三島由紀夫の『仮面の告白』と併せて読むと面白いかも。

  • こちらは岩波文庫版。
    新潮のとは訳者が違うので、比べてみると面白い。

  • 冒涜的、退廃的な詩の中に、洗練された美を感じます。世紀末の美術からインスピレーションを受けた詩や、有名な『魔王連祷』など。古風な文体、翻訳が19世紀末の雰囲気を感じさせるように思いました。

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