- Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003261866
感想・レビュー・書評
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ついにトルストイの最高傑作の一つ『戦争と平和』を読破した。文庫本6冊で約3000ページ。長かったが、そう長さは感じなかった。
物語はナポレオン戦争で翻弄されるロシアとロシアの3つの貴族家であるベズーホフ伯爵家、ボルコンスキー公爵家、ロストフ伯爵家の人々を中心に描かれている。
その内容は、大きく分けるとナポレオン軍との戦闘シーン、貴族達の恋愛模様、そしてトルストイ自身の歴史観や世界観の3つが交互に織り交ぜられており、それぞれ興味深い。
なぜ約150年も前に書かれたこの小説がこれほど世界中の人々に時代を超えて愛されているのだろうか。「歴史的価値」と「人生における価値」の二つの点から考察してみたい。
第1点目は、本書は歴史的な価値が極めて高いからだろう。
当時のロシアはヨーロッパの中で『田舎者』的な立場であった。実際にトルストイは作中で登場するナポレオンにモスクワのことを「アジアの都市」と呼ばせている。
当時のロシアの上流階級の人々は、最先端の教育を自分の子供に受けさせる為(当時のロシアの初等教育システムはほとんど機能していなかった)、当時ヨーロッパ中心であったフランスからフランス人の家庭教師を雇い、自分の子供にフランス語で教育を行っていた。
その為、当時のロシアの上流階級の人達は日常会話でもフランス語を使用していたのだ。
そのような『田舎者』国家であったロシアが当時ヨーロッパの英雄であったナポレオンを打ち破ったことは、ロシア国民にとって、とてつもなく大きな出来事だった。
このように『戦争と平和』では、1800年代当時のロシアの状況が生き生きと描かれ、読者は時空を超えてトルストイの描くロシアの美しくも激しい情景を素晴らしい臨場感をもって味わうことができるのだ。
そして第2点目の理由は『戦争と平和』の500人を超える登場人物がそれぞれ我々読者の分身となってくれるという点だ。つまり、誰が読んでも『戦争と平和』に出てくるそれぞれの登場人物に自分を重ね合わせることができるのだ。
十代の男女から青年、中年、壮年、そして老人まで読者の誰もが「これ私のことだ!」とか「このキャラクターは俺の若い頃にそっくりだな」なんてことを思うはずだ。
さらに『戦争と平和』は、物語のなかで数十年間という長い年月が流れる。
最初は少年だったキャラクターが青年となり、少女は美しい女性に成長する。そして、年老いて死ぬ者もいれば、戦争で命を散らす人物もいる。
読者は『戦争と平和』を読みながら、多くの登場人物の生涯を追体験し、自分と重ね合わせ、自分のこととして理解することができる。
自分はいわゆる自己啓発本やビジネス本をよく読む方だが、この『戦争と平和』を読んで本書がそのような本の10倍、20倍の価値を持っていると確信した。
いわゆる自己啓発本やビジネス本は「その場ですぐ役に立つ」ことが書かれており、そういった本を読むと、その時は「分かった気分になる」が、そういった知識が役に立つ期間は短く、また、忘れてしまうのも早い。
一方『戦争と平和』のような古くから読み継がれている古典大河小説を読んだ場合は「人生を何度も繰り返した気分」に浸ることができるのだ。
誰でも『もし今の人生をもう一度やり直せたら、今度はもっと上手くやれるのになぁ』と思ったことがあるだろう。悲しいことにこの人生は一度きりしか無い。
『鉄血宰相』の異名を持つオットー・フォン・ビスマルクの言葉
『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』
ではないが、人間が経験できる人生の範囲は限られている。
しかし、本書のような本を読めば「人生を何度も繰り返した」ことと同じ体験を得ることができる、つまり、自分の人生経験値を上げることができるのだ。
先ほどの例を挙げて極論すれば『自分の人生をやり直し、人生の重要な岐路において、以前の自分(本を読む以前の自分)よりももっと上手くやることができる』のだ。
例えば、この『戦争と平和』なかで心も体も最も成長するのがヒロインの一人であるナターシャだ。
彼女は本書の中で少女から成熟した女性、そして母親になるまでが描かれている。その間、ナターシャは数多くの違ったタイプの男性と恋をし、そのたびに有頂天になり、あるいは絶望し、そして、また新しい愛を見つけ、最後には家族の為に身を捧げる慈悲深き母親へと成長する。ナターシャの彼女の人生において考え方はどんどん変わっていき、最後には自分なりの答えを見つける。
この過程を読者は追体験し、まるで自分が経験しているかのように彼女のなかに自分を見つけるだろう。
このように多くの登場人物の人生を読者が追体験することによって、読者はそれぞれ経験から数多くの教訓を学び取る。
戦場で命を散らす若き少年兵の人生ですら、我々に深い感銘をもたらしてくれるのだ。
今の現実世界ではビジネスや社会の動きはすぐに変わってしまうが、人間の本質は100年や200年では変わらない。
人間の本質を知るには、自分の人生だけでは短すぎるかもしれない。しかし、そこを補ってくれるのが、過去の賢人達が残してくれたこのような本なのだ。
このような本を読むことにより、我々は人間の本質に迫ることができ、そして自分の経験値を上げ、人生をより豊かなものにすることができる。
このような体験をもたらしてくれる読書とはなんと素晴らしいものか。
本書は6冊で数千円、もし図書館で借りるのであればお金すらかからない。
さらに本を読むことは何の資格もいらず、何の制限もなく、ただ文字を読むための二つの目さえあればよい。
そして読書をすることにより、自分の人生を何度でも好きなだけリブートすることができる。
こんなコストパフォーマンスの高い行為はこの世に存在しないだろう。
それを利用しないというのは、もはや犯罪的と言ってもいいのかもしれない。 -
皆が落ちついた生活を築き上げた後も、作者の目はちっとも緩むことなく徹底的に描いていく。
読み終えても終わった気は全然しない。
その瞬間の歴史は何かの続きであり、また何かへ続いていく。
作者が芸術家として到達した戦争や歴史の捉え方には、多くの驚き、空虚さ、面白さがあった。
さりげないけど、過酷な状況下、ロシアとフランスの兵士達の焚き火を囲んでの交流など印象的だったな。
とても瑞々しい作品だと思う。 -
相変わらず岩波文庫はネタバレを冒頭でしちゃってますが、戦場での死は衝撃的でした。悲しい。
最終巻では、様々な運命が描かれますが、一応ハッピーエンドだと思います。
ただ、ソーニャってちょっとかわいそうすぎやしませんか。当時は財産がないことは、かなり縁談にひびいたのでしょう。貴族だというのも大変なことだなあと思いました。
後、エレンはとんでもない悪女ということですが、なんだか同情できる部分もありました。
ナターシャは苦難を超えて幸せなオカンになってしまいましたが、これがトルストイの理想の女性なんですね。そういやトルストイもめっちゃ子供たくさんいたそうです。
最後はトルストイの歴史観が延々と語られます。
「戦争と平和」は、日本で言えば「坂の上の雲」みたいな、と思ってましたが、どっちかというと「火の鳥」みたいな、俯瞰の視点(神の視点)要素が強い作品でした。
ちゃんと読み取れないところもあったかもしれませんが、エンタメとしても面白い文芸作品だと思います。 -
5月から1ヶ月かかってやっと読み終わった
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ナポレオンとの戦争の前後の、ロシア貴族の家族のお話。
トルストイ自身も貴族だったんだとか。
戦争の話あり、恋愛の話あり、の大河ドラマだったな。 -
金大生のための読書案内で展示していた図書です。
▼先生の推薦文はこちら
https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18412
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA75063276 -
ナポレオン軍の退却
ピエールの救出
ナターシャとの再会
有名なエピローグ第一部はその後の後日談。
ナターシャが太り、健康な主婦となっている。
子供にアンドレイと名付けているのは泣かせる。
ニコライとマリアは理想的な夫婦に。
ソーニャに対する冷たい扱いはどうしたことかと思うが、現実によく起こりそうなことであり、これぞトルストイのリアリズム。
エピローグ第二部はトルストイのナポレオン戦争に関する考察。
作品中にもところどころあらわれる論文部分は、最初はもっと大量にあって、まわりの反対で最低限まで切り詰めたそうだが、それでも多い。特に興味があれば別だが、そうでなければ作者がそうしたいんだから仕方がないとあきらめて、適当に読み飛ばすしかない。
というふうに、かなりいい加減に読んでしまいました。
トルストイはトルコとのクリミア戦争(1853-1856)に参加し、激戦を経験しているので、アンドレイやニコライやピエールが経験する戦争に関する描写はそのとおりなのだろう。
けれども、どこか牧歌的に思えるのは、われわれはトルストイの見ていない第一次、第二次世界大戦を経験しているからだろう(トルストイは1910年に亡くなっている)。
われわれはもっと悲惨で冷酷で残酷な戦争を経験しているが、トルストイが幸いにも見ずにすんだその戦争の方が、彼がこの作品のあちこちで述べている戦争哲学や歴史哲学、すなわち戦争とは、計画的・戦略的に行われるものではなく、誰も把握できないままでたらめに進んでいくものであり、また、ひとりの英雄や将軍が世界を動かしているではなく、かれらは歴史によって動かされる表象にすぎず、多くの人々の無意識の力、歴史の力が世界が動かしているのだという理論により近いようだ。
トルストイの先見を物語るものなのだろう。 -
完読してこその感動というのもあります。
エピローグの最後の最後は別物として(難しいので)後日、ゆっくりと読まなければ・・・・。 -
ふぅー、ようやく全巻読み終えた
そうなんです。本を読んでいるのが、レビューを書くためになってしまうことがあります。「この本は難しくて、レビューが書...
そうなんです。本を読んでいるのが、レビューを書くためになってしまうことがあります。「この本は難しくて、レビューが書けないから読むのをやめよう」になってしまうこともあり、これは本末転倒の弊害ですよね。
でも、私も、そのうち、名作も読んでみたいです。よろしくお願いします。
kazzu008さんのレビューも、毎回楽しみにしています(^^♪
お気に入りとフォローを下さり、ありがとうございます。
この本は高2の夏に読んだ...
お気に入りとフォローを下さり、ありがとうございます。
この本は高2の夏に読んだ思い出があります。
タイトルからして戦記物を予想していたのに3人の恋愛物語で、
案外拍子抜けしたものでした・笑
でも今これを読むかと問われればそのボリュームで躊躇しますね。
kazzu008さんは大人になってから読破されたのですから、尊敬してしまいます。
余談ですが、トルストイは民話も面白いですよ。
こちらからもフォローさせていただきますね。
どうぞよろしくお願いします。
ご丁寧なコメントありがとうございます!
nejidonさんのレビューは、たまにタイムライ...
ご丁寧なコメントありがとうございます!
nejidonさんのレビューは、たまにタイムラインに流れていていたので読んでいたのですが、素敵なレビューばかりでしたのでフォローさせていただきました。こちらこそよろしくお願いします。
『戦争と平和』を高校生の時に読破されたのですね!それは、凄い!僕は高校生の時はこの本の厚さを見ただけで諦めました(笑)。
確かにこの本は恋愛小説ですよね。恋愛大河ドラマということで結構楽しんで読めました。自分としてはソーニャがあまりに不憫で、彼女の幸せを願わずにはいられません。
トルストイはこれから『アンナ・カレーニナ』と『復活』は読もうと思っているのですが、そうですか、民話ですか、そこは盲点でした。ぜひ、候補にいれさせていただきます。
nejidonnさん、いろいろと興味深いお話ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします!