ドン・キホーテ 後篇2 (岩波文庫 赤 721-5)

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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003272152

作品紹介・あらすじ

鷹狩りの一団の中でひときわあでやかな貴婦人が、挨拶に向ったサンチョ・パンサに言う。「あなたの御主人というのは、いま出版されている物語の主人公で、ドゥルシネーア・デル・トポーソとかいう方を思い姫にしていらっしゃる騎士ではありませんこと」。

感想・レビュー・書評

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  • 『ドン・キホーテ後編』は、『ドン・キホーテ前編』が実際に出版されているという設定で、ドン・キホーテ主従は人に知られた存在になっている。

    ❐読者と登場人物の対面!?
    そんな『ドン・キホーテ』の読者である侯爵夫妻(名前は不明)は、ドン・キホーテとサンチョ・パンサと出会って「本で書かれている本人だ!果たしてあのなりきりコスプレ旅が本当の出来事なのか、そしてドン・キホーテは本当に狂人なのか」と興味津々、城に招待する。城では侯爵夫妻も使用人たちも彼らを本物の遍歴の騎士として歓待する。前編でのドン・キホーテは、宿屋を「城だ」と妄想していたんだが、その妄想が叶ってしまったわけだ。
    ここでサンチョ・パンサの見解も語られる。「おいらは主人のドン・キホーテを極めつけの狂人とみなしてるっことなんですよ。でも主人は思慮深いところもあるしお喋りだって悪魔みたいに上手だし、なんといってもおいらと同じ村のお人で義理堅くていい人で、おいらはあの人が大好きなんだからね」P159あたり抜粋
    前編からサンチョ・パンサは、賢いんだか単純なんだか、悪賢いんだか素朴なんだかよく分からん節もあったんだが、この心づもりで行動しているんだということが読者にはっきり示された。

    ❐侯爵夫妻がドン・キホーテとサンチョ・パンサにをからかう内容
    ●ドン・キホーテは、サンチョ・パンサの策略にひっかかり想い姫ドゥルシネーア姫が「魔法により醜く下品な百姓女に変えられてしまった」と思い込んでいる。そこで侯爵夫妻は召使いに扮装させた「ドゥルシネーア姫をもとに戻す方法を知っている魔法使い」に「この空飛ぶ木馬に乗ってこの司令を果たしなさい」と命じさせる。ドン・キホーテとサンチョ・パンサは目隠しして木馬に乗り、召使いたちが風を送り「おお、空の上はすごい風じゃ!」みたいに作られた大冒険をするのだった。
    ●前編から恋に悩む男女が出てきたが、ドン・キホーテの介入により彼らは結婚に繋がっていた。そのキューピット振りは後編でも続いていて、なんかこんがらがった男女関係がすっきりとまとまる様子が書かれている。ドン・キホーテは恋のキューピットが上手!?


    ❐サンチョ・パンサの島統治
    前編でドン・キホーテはサンチョ・パンサに「この冒険の旅が成功したら島の領主にしてやる」と言って連れ出した。ドン・キホーテの物語の読者である侯爵夫妻は、サンチョ・パンサをからかうために彼を自分の領地の島(実際には村)の領主に任命する。ドン・キホーテは自分の従卒から独立して領主になるサンチョ・パンサに、領主として、人間としての心構えを解く。
     身嗜みや立ち居振る舞いはきちんとして、食べるものには気をつけろ。
     自分や召使いの服装は、飾り立てるよりも地味で働きやすいものにしろ。
     領主としての収入で6人の召使いが雇えるなら、雇うのは3人にして、残りの収入は貧乏人に回してやれ。その雇った3人こそが立派な召使いだ。
     人を家柄で判断するな。すると両方から恨まれることになる。
    これがかなりのご立派な内容で「ドン・キホーテは、騎士道の話になると狂人そのものだが、基は高い教養を持ち理路整然とした考え方と話し方ができる」という二面性が強調される。
    さて、島(本当は村)の領主となったサンチョ・パンサを迎える侯爵の部下たちは「今出版されている本の登場人物がやってくるので、彼の様子を見たり、からかったりして、その様子を侯爵様に報告する」ように命じられている。領主の仕事というのは、要するに裁判官というか住民の持ち込む訴えに答えを出すこと。そしてサンチョ・パンサのもとには、なんというか大岡越前落語のような事件が持ち込まれるんだが、これらを案外うまく解決してのけた。サンチョ・パンサは読み書きはできないが記憶力が良いということと、おそらく地元で農夫をやっていた頃から日常のゴタゴタは村人同士でうまい具合に解決していたという経験があったからだろう。
    その「大岡越前裁き」を見た侯爵の部下たちは「この男は頭がおかしいのか賢いのかどっちなんだろう?」と考えることになるのだった。

    ❐他の出来事
    ●前編でドン・キホーテが漕刑囚を逃がす場面がある。読者としては「そんな極悪犯人逃さないでよ!」と思ったんだが…、その極悪犯人が再登場した。しかし逃亡犯のため殺人だの強盗だのはもうやらずに、詐欺芸人としてうまく世間を渡っているようだ。
    とりあえず前編での心配は解決した…が、こんなにうまくいっていいのかという気もする^^;
    ●村のしょーもない合戦顛末
    ドン・キホーテ主従は、驢馬の鳴き声真似のせいで勃発した村の合戦に助太刀しようとするんだけど、村人を怒らせてしまって襲われてしまう。
    そしてドン・キホーテはサンチョ・パンサを見捨てて逃げ出してしまうのだった。ドン・キホーテ、やっぱり前編より大人しくなってるな。
    ●後編は、前編に対する読者の指摘や感想に答える形で作者シデ・ハメーテの言葉(正しく言うと、シデ・ハメーテの書き込みを編集したセルバンテスの言葉)が出てくる。
     記載ミスかと思われる箇所に対しては「それはこういうわけですよ」という解説。
     前編の後半ではドン・キホーテよりも彼が出会った人々の話がメインになっていたので「後編ではドンキとサンチョ・パンサのことだけ書くよ」とか。
    読者としては、前編を読んでいた頃は「ドン・キホーテ主従よりも他の人の話が多いじゃないか!」とは確かに思ったが、いざドン・キホーテ主従のことしか書かれないとこれはこれでちょっと寂しい(苦笑)

  • 旅籠についたドン・キホーテ一行、ここで前巻の終盤で出会った武器を運んでる男の村のエピソード(ロバの鳴きまねが上手な議員のせいで村同士の戦争に発展する話)が語られる。さらにこの旅籠に、人形芝居の一座が到着。座長のペドロは旅籠で人形芝居を披露するが、なんとドン・キホーテは芝居の中の出来事を現実と錯覚し、人形たちをめちゃめちゃにしてしまう。久々にドン・キホーテの狂気爆発。旅籠に到着した時点では、ドン・キホーテがここを城だなどと言い出さず普通に旅籠と思ってることに安心していたサンチョ・パンサもこれにはびっくり。壊した人形代を弁償させられる。

    続いて、ロバの鳴きまね問題の村に到着、ドン・キホーテは双方の仲裁に入るが、サンチョがロバの鳴きまねを披露して台無しに。二人はボコボコにされて逃走(久々に前篇1巻のパターン)

    川に辿り着いた二人、漁師が繋いでいた小舟をドン・キホーテは「これに乗って冒険に出よ」というメッセージだと思い込み勝手に乗り込む。やがて水車小屋が見えてくるが、さすがドン・キホーテ、水車とくれば読者の期待を裏切らず突撃、幽閉されている姫だかなんだか妄想の存在を救出に向かうが、水車小屋で働く粉ひきたちは、当然彼らを遠ざけようとする。あえなく主従の乗った船は転覆、破壊。持ち主の漁師は当然怒ってくるし、またまた弁償するはめに。後篇に入ってわりと気になってるのが、ドン・キホーテがお金をたっぷり持ち歩いていて、なんかやらかすときちんと弁済しているところ。いつからそんなお金持ちに?というか、お金で解決するのか…。

    次に二人が出会ったのは美しい公爵夫人。なんと彼女は件のドン・キホーテの伝記を読んでおり、本物と会えたことに夫の公爵ともども大喜び、彼らを屋敷に招待し、本物の騎士のようにもてなし、さらに使用人まで総動員で、ドン・キホーテとサンチョを騙して愚弄する遊びを繰り広げる。

    まずはドゥルシネーア姫=百姓娘の逸話をサンチョから聞かされた公爵夫人は、偽物の魔法使いとドゥルシネーア姫を用意、姫にかけられた百姓娘に見える魔法を解くためには、サンチョが3300回の鞭打ちを受けなくてはならないと言わせる。可哀想なサンチョはドン・キホーテと公爵夫妻に説得され、渋々これを受け入れる。(実際には、今すぐではなく時間をかけて、鞭じゃなくて平手で軽くでもいいから3300回達成すればいいとされる)

    お次は、ある王国の王女様の侍女である伯爵夫人、通称「苦悩の老女」が屋敷を訪れ、王女の苦境を救ってくれるようドン・キホーテに依頼。老女の話によると、王女は身分違いの騎士と恋に落ち妊娠、なんとか司祭の承認を得ようと老女が奔走するも、王女の妊娠を知った母の女王がショック死、それを知った女王の従兄の巨人が、王女と騎士を魔法でへんな銅像に変えてしまい、老女たちには全員無精髭を生やした。ドン・キホーテが巨人を倒してくれればこれらの魔法は解けるという。ドン・キホーテとサンチョは魔法の木馬に目隠しして乗せられて巨人退治にむかい…。もちろんこれ、目隠しして風とかふきつけて飛んでるように思わせ、最後は爆破というとんでも展開。

    その後、サンチョは公爵から統治する「島」をもらえることになり、領地に旅立つ。ここで初めてドン・キホーテとサンチョ・パンサの主従は別行動をすることになる。サンチョはまず領民の訴えを解決する裁きの場に引っ張り出されるが、意外にも名奉行ぶりを発揮(笑)サンチョは学問はできないかもしれないけれど(読み書きできないし)今まで生きてきた世間知がある。単純で騙されやすいけれど、もともとバカではないんだよなあ。もちろん訴えてくる領民や、サンチョを取り巻く医者だの秘書だのすべて公爵夫妻のさしがねでサンチョを困らせる段取りになっていたわけだけど、サンチョが結構良い領主であることを彼らも認めざるを得なくなる。このくだりは結構好きでした。

    そのあいだドン・キホーテにほうには、さらに悪戯がしかけられている。ドン・キホーテに恋い焦がれている若い侍女が登場し、ドン・キホーテはドゥルシネーア姫への純潔を守るため、なんとか侍女に自分を諦めさせようと四苦八苦、そうこうしてるうちに窓から猫の大群がぶちこまれて、格闘、なんとドン・キホーテは顔を噛まれて思いがけず重症の床につく。そこへ今度は老女が相談に訪れ身の上話、自分の娘を騙して結婚しない金持ち百姓の息子を成敗してほしい的な話をするが、なぜか途中で闇討ちにあい、ドン・キホーテもあちこちつねられる。

    この騒動、まだまだ最終巻まで続くようです。ドン・キホーテもサンチョも、序盤ほどボコボコに殴られたりとかはしてないし、むしろドン・キホーテにとっては本物の騎士として丁重に扱ってもらっているので満足なのかもしれないけれど、正直たちのわるいドッキリみたいなもので、個人的にはこういうの、ちょっと素直に大爆笑はできない…。複雑な気持ちですがあと1冊、見届けます。

  • ドンキホーテの狂気を楽しむために周囲の人が彼の話に乗ってあげるのが定番のパターンですが、なんと今回は前編を読んでファンになったとおる公爵夫妻が、費用をかけて彼の冒険をお膳立てするという展開に。面白くないはずがありません。

    特にサンチョがついに領主になるくだりが最高です。サンチョがいつの間にか諺キャラになって知性がアップしていましたが、その彼が村民の相談を受けるシーンは特に好きです。

  • ここまで前編とは違って、ひどい事件には巻き込まれていない。
    しかし、からかわれ続けている。人格のまっすぐさは相当なもの。

  • ドン・キホーテが冒険を他の騎士の冒険だと自ら納得させてすんなり諦めたり、サンチョを置いて逃げ出して、後ろから銃で撃たれたらどうしようと冷や汗をかいたりと、これまでの遍歴の騎士関連の行動ではあまりみられなかった危機感を抱くようになっていて、狂気が薄れているのを感じる。

    ドン・キホーテとサンチョで旅に出てからの経過年数の時間軸が異なったり、「前篇のドゥルシネーア」についてドン・キホーテが言及したり、原作者(という設定の)シデハメーテが読者に文句を言ったりと、これまで以上にメタ構造を利用した一冊になっている。

    大半が、前篇を読んでいる公爵と公爵夫人が、騎士と従士を面白がるためにからかい倒す話で、サンチョがセルフ鞭打ちしなきゃいけなくなるシーンとか滑稽でにやにやしてしまう。だが、騙され続ける騎士と従士の素朴さに、公爵夫人たちの趣味の悪さを不意に感じて、公爵夫人たちの意地の悪さは、滑稽だが真っ直ぐな主人公たちを意地悪く面白がる読者を暗喩しているのではないかと思った。

    下記は、ドン・キホーテとサンチョ・パンサの関係性が表れてていいなぁと思った一節。

    150
    要するに、拙者はそういう彼がたいそう気に入っているので、たとえ大都市をひとつ付けてやると言われても、彼をほかの従士と取りかえるつもりはありませんのじゃ。

  • アイロニーは現実から虚構に向かい、反転してまた現実へ襲いかかる。セルバンテスは架空の著者の名を借りて現実の読者に対する不満をぶちまけるし、物語の中ではドン・キホーテの読者である公爵夫妻を当人と対面させる。また前作出版後に現実で贋作が発表されれば、物語ではその作者のモデルを登場させて痛い目に合わせる事に。しかし公爵夫妻がドン・キホーテに仕掛ける虚構と現実の領域を反転させたドッキリの数々は醜悪さが漂うが、これは現実の読者のメタファーではないか。かくして冗談は現実となり、愚弄していたものが愚弄される番なのだ。

  • いよいよサンチョが島の領主に!?
    サンチョの赴任にあたり、ドン・キホーテが語った「領主たるもの、こうでなくてはいかんぞよ」という忠告の数々と、それに関する二人のやり取りが面白い。
    まともな話をするときのドン・キホーテの言葉の数々は、なるほどそうかと納得させられるものも多く、じっくり読む価値があると思います。

  • 公爵夫妻が名高いドン・キホーテたちをからかうために金と腕によりをかけて冒険を演出する。
    ドン・キホーテ主従は役を演じることになりますますメタフィクション性が高くなっている。

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