山椒魚戦争 (岩波文庫 赤 774-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (488ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003277416

作品紹介・あらすじ

赤道直下のタナ・マサ島の「魔の入江」には二本足で子供のような手をもった真黒な怪物がたくさん棲んでいた。無気味な姿に似ずおとなしい性質で、やがて人間の指図のままにさまざまな労働を肩替りしはじめるが…。この作品を通じてチャペックは人類の愚行を鋭くつき、科学技術の発達が人類に何をもたらすか、と問いかける。現代SFの古典的傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 私がこの作品を知ったのは、手塚治虫のおかげです。講談社手塚治虫全集の「ロック冒険記」(初版1977年)のあとがきに、「この作品のヒントはチャペックの『山椒魚戦争』です。あの作品は、今でもぼくの好きなSFのベスト10に入れています」と書いています。確かに、"人間ではない人間に限りなく近い生物との対峙"という基本構想がヒントになったのでしょう。手塚治虫はロック冒険記だけでなく、「来たるべき世界」や「鳥人大系」等、様々なバリエーションでこのモチーフをヒントにしてオリジナルの傑作を世に送り出しました。今、世界に誇るマンガ•アニメ文化の源流中の源流が、ここにあると言えます。

    本作の素晴らしさは、他の方々のレビューで十分すぎるほどよくわかります。物語前半に、ほんのちょい役程度で出てきた人物が、ふとわいた興味から関連文書を収集保存していくという独特な形態で物語が進みます。それだけにクライマックスで"この事態を引き起こした当事者は自分なんだ"という感覚は半端なく読者に迫ってきます。はたしてこの世界が陥った危機的状況は、彼(すなわち自分)が招いたものと言えるのでしょうか?
    大国による一方的な近隣国への侵略戦争が起きている今、考えさせられる事象が多々含まれていると思います。何故なら私達も、この作品に描かれた『傍観する当事者』そのものかもしれないからです。"古びないSF"というものがあるとすれば、それはこの作品のことです。

    …そして個人的には、小学校の図書室で暗記するほど繰り返し読んだ「長い長いお医者さんの話」の作者が、手塚治虫のアイディアの源流になった作品の著者である事に気付いた瞬間でした。
    よい作品、よい作者というのは繋がっていくのですね。

  • 【高島屋】salaMandala/Válka s mloky 井上 裕起展|株式会社髙島屋のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000249.000069859.html

    山椒魚戦争 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b248449.html

    山椒魚が可愛い、、、

  • おお、400ページ超えだ〜読むのに時間かかるかも…と思ったら意外にもするっと読めて驚き。
    じわじわと面白さがわかってくる・面白さを感じてくる作品だと思う。

    最初にヴァン・トフ船長が赤道直下のとある島の魔の入江と呼ばれる場所で、二本足で歩く子どもサイズの真っ黒な生き物を見つけたことからこの物語は始まる。
    その真っ黒な生き物こそ山椒魚であり、彼らを愛したヴァン・トフ船長は、彼らに道具の使い方を教えてやり、言葉をも教える。
    山椒魚をさまざまな真珠の採れる島々に送り込み真珠ビジネスを立ち上げようと、大企業家のG・H・ボンディに話を持ちかける。
    最初はそれだけだったのだ。
    だが物語は思わぬ方向に向かっていくことになる…

    寓話のようかと思いきや、論文調になり、メタファーになり、新聞の切り抜きを掲載している感じにしたりと、様々な趣向の凝らされている作品で、飽きが来ないようになっている。
    だから決してすごく読みやすいわけではないのに一気に読めたのかな、と思った。
    各方面に、その時代の風刺がきいていてそれもまた興味深い。ナチス・ヒトラーを風刺していると思われる描写もあり、そのせいか本書はナチス政権の頃には発禁になっていたらしい。
    中には日本語に見えるけどよく見たら日本語じゃない図もあり、山椒魚を描いていると思われる当時の写真風の絵もあり、いろいろと面白い。
    何より話の展開が面白い。
    特に第3章(最終章)は畳み掛けてくる。
    言語は学べるし科学も理解できている(と思われる)山椒魚たち。しかし文学などは解せず、その点を見ると山椒魚はまるでAIのようだと思った。
    そう見るとSFだなと思える。
    最後はなかなか、そこまで迫ってきたかという恐ろしさが山椒魚にあるが、それでも彼らが可愛らしく思える節があるのは、第二章までの彼らのエピソードがあったからだろうか。
    ポヴォンドラ氏には貴方だけのせいではないよ、と言いたい…。
    この物語の行く末は、どうなろうとも山椒魚のせいではなく、人間のせいなのだろう。

    最後の
    「それから?」
    ーそれからのことは、ぼくにも分からないよ。
    はなぜだろう、とても印象深い。

  • 図書館で借りた。
    『R.U.R. ロボット』に続いて、チャペック2冊目の作品。こちらも『猿の惑星』的なSF小説。
    東南アジアで、「悪魔が住んでいる」との噂話から、喋るサンショウウオが居る~となり、物語が広がっていく。2章では、新聞記事の切り取りを中心に進み、世界中がサンショウウオを報道する。中には日本語も含まれている(…が、チェコ人が想像する日本語で、日本人は読めない。これもまた面白い)
    次第に人間より大きな勢力となり、支配していく…。まさに"猿の惑星系"なお話だ。

    序盤の悪魔の描写など、小説ならではの表現が想像を掻き立てて、非常に面白い作品だった。

  • 長年の苦難の歴史を歩んだチェコスロバキアの国民的作家カレルチャペックの代表作。1936年作。
    真に偉大な作家は人間の本質を明らかにし普遍の真理に光を照らす。
    知性と理性を持ち始めた山椒魚に対して何の悪気もなくモノとして扱い続ける人間たちにかつての植民地時代もかくありなんと思いながら読み進めていたが、やがて強大な力と暴力性を行使し始めた山椒魚たちに人類が恐怖し動揺する様を見るにつけ、これは現代の中国のことを述べているんだと気付いた時は心底ゾッとした。国家100年の計を秘めてグローバル経済と国際社会に殴り込みをかけてきた超大国中国に対し果たして我々に為すすべはあるのだろうか?ロシアに対して、イスラム過激派に対して何かできることはあったのだろうか?
    最終章で著者は内なる自分と物語の結末について議論を交わす。最終的な答えは述べられてないようにも見えるが、後の時代の賢明な人たちに答えを託したように思えた。

  • 『ロボット』という単語を生み出したチェコの作家・カレル・チャペックによるSFの古典的傑作。人類への警鐘。

    2022年師走。ロシアとウクライナの戦火はやまず、日本でも防衛費の増額を視野に入れ始めた昨今。平和ボケしている我々にも、ひたひたと聞こえてくる戦争の足音に、不安が忍び寄ってくる現在、本作は、このようなときにこそ改めて読み直されるべき、終末テーマのSFである。

    基本的なプロットは珍しいものではなく、要は便利な道具として使うはずのテクノロジーを制御できず、暴走、もしくは反乱を起こしてパニックになるというような、エンタメに慣れた現代人には手垢が付きすぎているかに思えるネタだ。本作が面白いのはまず、この「道具」が山椒魚という、少し不気味で可愛げもあるような生物であることである。とある小さな出来事から、人類の運命を左右する壮大な事象に広がっていくまでの過程がドキュメント風に描写され、非常に読み応えがある。ここには行き過ぎた科学技術の発達や物質文明への警鐘を読み取れるが、さらに本作ならではの要素として、全体主義への風刺が見られることがある。第二次世界大戦の直前に書かれた本作にはヒトラーを想起させる人物も登場し、当然ドイツでは禁書になったとのこと。人間を滅ぼすものは、制御できない技術や欲望というよりも、思想やイデオロギー的なものなのかもしれない、と考えさせられた。


    岩波文庫版に収録されている、チャペックのエッセイには、戦争への危機感が強く感じられて、今が今は他人事ではない。最後の部分だけ引用しておく。

    『私たちはみな、できることならヨーロッパが、これから一体どうなるのか知りたい。もちろん、戦争の話となると活気を帯び、談論風発する、そう、戦う本能なのである。そのほか、いつものように、失業・恐慌・国家予算などといった経済問題についての討論。
     果たしてわれわれは、政治や経済の話を現在しているのと、同じ情熱と執拗さで、ふたたび芸術や哲学や文学の話をする日まで、生きることができるだろうか。その日、私にはきわめて強い生活感と現実感ができているかもしれない、と私は思うのである』

  • カレルチャペック の人間観察眼には脱帽。
    1938年に没した者とは思えない。

    描かれる人間の尽きぬ欲望の行き着く先はいつの時代も同じなのだろう。

    SF作家としての技量は疑うべくもない。
    山椒魚をAIに置き換えれば現代にも通じるものがある。

  • 「RUR」と並ぶチャペックの代表作かつSFの大古典。名前は知っていたがなんとなく機会を逃していたので、ここで。

    軽妙洒脱なチャペックの語り口でこのテーマというのが、最初違和感があってなかなか入り込めなかったのだけれど、だんだん調子が出てくると苦笑いみたいなものに変わっていって、面白くなってきた。ちなみにぼくは最初から山椒魚の味方。がんばれ、人間なんかやっつけちまえ!
    SFとしても、文明批評としても面白い。さすがにちょっと古くさい感じはするけど。

    チャペックという人は、気さくで親しみやすそうに見えるけれど、実はシニカルで、一歩引いて物事を眺めているたちなのかもしれないと思った。本書も虐げられた山椒魚のリベンジ戦として書くことはできたはずだし、山椒魚と人間を対比させることで人間の愚かさを強調することもできたろうけれど、チャペックはそれをしなかった。人間ってアホだけど、言っても治んないよね~しょうがないよね~と思っていたのかもしれない。
    その分、後半の盛り上がりには欠けて、ちょっと残念。

  • 日本では『家畜人ヤプー』なんかにも影響を与えたといわれる一種のユートピア(あるいはディストピア)SF。(本筋とは関係ないですが「ヴィーナスレガッタ」とか、ヤプーでもまんま同じことしてましたね)

    同じチャペックの『R.U.R.(ロボット)』では人間の造ったロボットたちが人間に反旗を翻しましたが、こちらで人間の脅威となるのは、タイトル通り「山椒魚」。進化の気まぐれで二足歩行するようになった知能の高いサンショウウオたちが偶然人間に発見され、道具を与えられ、言葉を教えられることによって、やがては人間を脅かす存在となってしまいます。最初のうちは人間にとっての安価な労働力として重宝されてるあたりは、サンショウウオもロボットと同じですね。(最初にサンショウウオにナイフを与えたヴァントフ船長は、さながら人類に火を与えたとされる神話のプロメテウスのよう。あっさり出番なくなりましたが;)

    二本足で歩き人間の言葉を話すサンショウウオの存在は、ファンタスティックであると同時にグロテスクで、彼らに対する人間の対応は、SFの姿を借りつつ、現実社会に対する辛辣な皮肉でありパロディでもあります。時代背景として1936年当時台頭してきていたナチスドイツへの批判的部分もあり、たとえばジョージ・オーウェルの「1984年」しかり、一見フィクション色の濃いSFというジャンルのほうが、社会に対する痛烈な批判を孕んでいるというのは興味深いですね。

  • 喋る山椒魚が登場するとてもきゃわわな作品です。
    とでも思ったかと言わんばかりのとても考えさせられる作品。
    正直私は解説とかに書かれているようなスケールの大きな観点で読むことはできなかったけれど、戦時中と言ってもいい時代にこの内容を書きあげたのはすごい。ペンは剣よりも強しである。

    カラマーゾフの兄弟含めて再読したい外国文学。

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著者プロフィール

一八九〇年、東ボヘミア(現在のチェコ)の小さな町マレー・スヴァトニョヴィツェで生まれる。十五歳頃から散文や詩の創作を発表し、プラハのカレル大学で哲学を学ぶ。一九二一年、「人民新聞」に入社。チェコ「第一共和国」時代の文壇・言論界で活躍した。著書に『ロボット』『山椒魚戦争』『ダーシェンカ』など多数。三八年、プラハで死去。兄ヨゼフは特異な画家・詩人として知られ、カレルの生涯の協力者であった。

「2020年 『ロボット RUR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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