ザ・フェデラリスト (岩波文庫 白 24-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003402412

感想・レビュー・書評

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  • 18世紀の終わり、英国からの独立戦争を経て独立を果たした米国では、それまでの「連合規約」をさらに強固にすることで合衆国を作るべきだ、という機運が高まり合衆国憲法案が作られます。しかし本書の解説にもあるように、恒常的な中央政府を作ることについては、根強い懐疑論もあったとのことで、その懐疑論に反論するため、また憲法案の理解を進めるために、ハミルトン、マディソン、ジェイという3人を中心に新聞紙上で合衆国憲法擁護論を展開したのが本書になります。その意味で、本書を読み進めるにあたっては当時の人々の立場になる必要があるかもしれません。私が当時の米国に住んでいたなら、またやっとのことで英国からの独立を勝ち取ったという状況下で、この憲法案に賛成するだろうか、という視点です。

    一般大衆を説得すべく新聞向けに書かれた文章ですので、文章自体はわかりやすいのですが、当時の文脈がわからないとわかりづらい点もあります。しかしかなりの部分は訳注によって理解ができるよう配慮されていました。本書を読んで感じたのは、論考全体が醸し出す「リアリズム」と「ユートピアニズム」の絶妙なバランスです。E.H.カーは両者のバランスの重要さを強調していますが、ハミルトン他の論考を読むと、基本的にはリアリズム重視である。つまり英国、フランス、スペインなどの欧州大国からいかに自分たちを守らなければならないか、ということで、ベースとしてはそこを強調しながら合衆国憲法案を推している。しかしそれだけではなく、この憲法案を通じて構築される連邦国家は世界にいまだ存在しない人民主権の初めての国になるだろう、それを我々が成し遂げようではないか、ということでユートピアニズム的な(あるいは理想主義的な)姿も示すことで人民の支持を得ようという姿です。200年以上前に作られた政治体制案が現在においても基本的には機能していることに驚嘆しましたし、足元の米国を見ても、トランプ政権が憲法に反するような立法行為を行おうとしても司法当局がそれを却下する様を見ると、まだまだ米国は機能しているぞ、と逆に感心してしまう次第です。

  • 連邦国家の権限強化。国民の自由の制限。アメリカを今後どのような国家にするか。合衆国憲法の論文集。権力分立、政治、人民をどう捉えるかについて示唆に溢れる。

  • 2020/01

  • 政治を勉強したことはないのでこれにどのような価値があるかはわからないが、民主主義国家の主権者として感じ入る部分が多い。

    独立を勝ち取った直後、大国の脅威にさらされているなか統一政府の必要性を感じた著者らが憲法を作ったということ自体、尊敬してしまう。
    また、憲法の中身も徹底して共和制を志向していて、さまざまな取り決めに関する個別の議論も興味深い。このあたりも時代を考えると卓見としか言えないように思える。

    しかし政治の素人としてはなにより、自分で国家を立ち上げるのだという気概や、アメリカが進取の気性を持っているということへの信頼、そしてこの新憲法案の採択そのものを民意に委ねるという徹底した民主主義の思想といったものに感銘を受ける。
    現在に至ってもエネルギッシュであり続けるアメリカという国の一端を感じられたように思う。

  • 著作の趣旨は、現在のアメリカの諸邦連合では不十分であり、アメリカは連邦をなさねばならないというものである。最も説得力のある論拠は、対外的脅威からの安全保障をもたらすという点であろう。ただし、統一アメリカの軍隊が常備軍と民兵軍のいずれあるべきかについては論者に違いがある。

    本書では、「共和国」を再定義し、ほぼ代議制の意味で用いられている。思想的特徴の一つは、小規模な直接民主政が望ましい政体だという伝統から離れている点にあり、この共和国は「党派」を軽減しうることも利点だと理解されている。理論的な深みは、さほど感じられないが、古代ギリシアやローマの歴史、さらには、初期近代までの思想家の議論が論拠として用いられているところは興味深い。

  • 1999年刊行(訳前底論文1787年頃?)。

     1776年、米独立宣言を受けて独立した各州を連邦国家となすべく、1788年に制定されたのが米合衆国憲法である。
     その制定・批准にあたり、連邦政府とそれを基礎づける憲法の必要性を、各州民衆に対し新聞紙上で訴えかけた宣伝論文の集積が本書記載のそれ(ただし抜粋)。

     まずこの米国憲法の目的が、各州統合に必要な中央政府の樹立にあるため、連邦政府の意義を説く記述や、憲法制定の意義の総括とは直接関係ない記述も多い。
     が、権力を剥奪される州政府の懸念を払拭すべく、当該憲法を中央権力の規制規範としているため、本書から憲法制定の一般的意義を掘り出すことも可能である。
     この観点で見るに、なるほど米国憲法の制定開始時は統治機構に関する規定しか置かれなかったこともあって、具体的には①権力分立、②代表制、③公務員(議員・大統領を含む行政官・司法官など)の憲法尊重擁護義務が目を引く感じか。

     また、論者の個性も散見される。
     まず、米国憲法の起草に関わり、元来、学究肌であったマディソンは、憲法理念に忠実な論述が目につく。

     一方、後に財務長官として辣腕を振るうハミルトンは、中央政府の権限強化(大統領の疑似国王化に等しく見える)にベクトルが向かっている。
     とはいえ、行政効率一辺倒の記述は、流石に専制国家への揺り戻しかと思わせるもの。この点では18世紀の憲法体制揺籃期の振り子を見るようである。


     なお、公務員の憲法尊重擁護義務を記述しないような憲法は、18世紀に制定された憲法にすら劣ることも感得できそう。
     戦後レジームの脱却が200年前に逆戻りなんてことになったら流石に笑えない。

  • 1787年~88年、アメリカ合衆国憲法の批准を推進する側のアレクサンダー・ハミルトン、ジェームズ・マディソン、ジョン・ジェイが発表した連作論文。
    アメリカ合衆国の国家体制は大統領制、連邦政府と各州の関係、上院下院の特徴等、ユニークな側面を幾つか持っているが、その理論的背景、根拠を知ることができる。アメリカ合衆国を知るための必読書だと思った。

    13州が独立した国家(State)として存在しながらも、外圧としてのイギリスからの干渉に抗して国力を高める必要がある。その中で練り上げられた国家体制(憲法)であることがよく理解できる。
    当時の憲法と現在の憲法が驚く程変わっていないのだが、現在も当時の国家観が脈々と引き継がれているわけで、本著により、そのユニークな考え方を理解することができたような気がする。
    共和制へのこだわり、三権分立に見られるような権力の集中の回避、自ずと強くなる立法への対応としての大統領制、人口比率ではなく各州から2名選ばれる上院の存在意義等々、多くの謎解きが本著より導かれる。
    また、権力への考え方等、政治を理解する上での普遍的な論理展開も学ぶことができる。

    何よりも、ハミルトン等の新しい国家を創設することに対する底知れぬ情熱と知力に畏敬の念を抱いた。

  • トクヴィルの「アメリカの民主政治」と並んで、民主主義の長所と恐ろしさをあぶり出した古典的名著として有名な、「ザ・フェデラリスト」を読了。

    内容的には随所に「これは凄い」と感じるものがあったが、和訳が原文に忠実過ぎて非常に読みづらい。

    英文和訳など大学以来やっていないが、そのポイントは原文に忠実過ぎて初めて和文を読む人が読みづらくてもいけないし、意訳し過ぎてもいけない、ここにあったように思う。
    こんなことを言っても始まらないが、そもそも英文和訳とは英語のスキルの中でもかなり特殊なものであろう。理想を言えば、英語を読む時は「英語脳で」読むのだ。
    日本の純文学を読んでいる時にたまに、「このニュアンス/感覚は日本語で読んでこそ伝わるものだろうなあ。」と感じることはよくある。

    仮に私に、博士または修士論文クラスの英文を読める英語力があれば本書もより響いたことと思う。

  • アメリカが13の植民地をunite stateとしてまとまるべきだと論じた三人の
    政治家の論文集。

    権力とはどう責任をもたせ人民の生命を守らせるか、また濫用を防ぐかを
    考察できる本。現状の閉塞感だけで道州とか考える前に読むべき本。

    短絡的な指示はファシズムや独裁の仕組みをつくってしまう。
    今でなくてもね。

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