大いなる遺産(下) (岩波文庫)

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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003725085

作品紹介・あらすじ

贈られた遺産をミス・ハヴィシャムからと信じたピップは、ハヴィシャムの娘エステラと結婚できるものと期待に胸をふくらます。しかし、成り上がりの紳士になったピップの前に、思ってもみなかった人物が恩人として現われる。はたして、その人物とは?

感想・レビュー・書評

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  • 予想していた通りの人物が、金の出どころだった。
    プロヴィスに対するピップの心境の変化と、プロヴィスの心が満たされていく様子が、美しかった。
    プロヴィスが、ピップを本当の意味での紳士と成長させたのだ。
    登場人物に多くの偶然的つながりが多い気はするけれど、少しずつほころんだエンディングだったので、良かったと思う。
    しっかりしたハッピーエンドなのだけれど、ディケンズは、もっと綺麗すぎるエンディングを書くのではないか、予想していたので。
    これくらいのラストで、よかった。

    第二部 13~20章 (~P141)
    第三部 全20章

  • マグウィッチのピップに再会した時の感極まる様子。階段を上がってきた時の気味悪さ。そして恩人である少年へのピュアな感謝の気持ちはなかなかのもの。当の本人はあまり有り難がってないが。その後は予想を覆すイッツアスモールワールドな展開。なかなかの話だ。弁護士が女中の手首をみんなに見せた意味不明のセクハラ行為が今さら伏線だったとわかると、まどろっこしい文章はこういう部分が不自然に目立たないようわざとグダグダ書いてたのかとさえ思う。後半まさかの切ない展開。ボート作戦は失敗し、ピップは借金を抱え、ハヴィシャムさんはいつの間にか亡くなり、ジョーとビディさんが結婚する。ジョーの鍛冶屋を手伝いながらビディさんと一緒になるつもりだったピップはハーバートの職場で事務員となりやがて共同経営者になる。ハヴィシャムさんの屋敷の跡地でエステラに再会するが、別れの言葉を交わして終わる。てっきり、お金は失ったけど幸せ、と言う展開かと思ってたから唖然。両親のこともエステラには話さないで終わるなんて。マグウィッチだけはエステラのことを聞いて亡くなっていったのが救い。この小説でなんの教訓を得れば良いのかはさっぱりわからない。とても幸せな人がいて(ジョー、ビディ、ハーバート、クレアラ、マグウィッチ...)、寂しく不幸な人がいる(ピップ、エステラ、ハヴィシャムさん)

  • この物語は誰の視点に立って考えるかによって捉え方も多岐にわたるが、基本的には一人称視点なのでここではピップの目線に立って考えてみたことを記しておく。
    上下巻を通して、ピップの物の考え方は一貫して優柔不断で周囲の環境に丸め込まれていることがわかる。AよりもBの方が多くの利益を得られそうだ、といった具合にピップは合理的にことを運んでいる。しかし、この考え方は現実的といえど未来志向的ではないと言わざるをえない。そして、それは結局のところ現実的ではないという矛盾をきたすことになるのである。なぜなら、ピップの行動は(ことに金のことに関しては)なんの証拠もない話に飛びついてほいほいと流されるといった感じで、そこには一切の脈略もなければ意思もないからである。それだけならまだしも青少年特有の未熟なところと言えるのであるが、唯一ピップの感情の噴火口となっていたエステラの存在ですらも大いなる遺産とともにピップの中で行方をくらますことになるのだから始末が悪い。自己矛盾が社会的矛盾によって包括されるといった次第で、これを上手く説明するのは難しい。難しいながらもディケンズ はこれを成し遂げている。小説とはきっとこういうことなのだと思った。

  • 初読

    示唆に富んでいて、ああ人間!という感じで中々面白かった。
    展開も山あり谷あり。が、翻訳なのか?
    文章が凄く合わなくて辛かったーw

    上巻の幼少期のピップが姉や周りの人に感謝を強要される場面で
    嫌ねぇ、気をつけよう、と思ったんだけど、
    読み終わってみると、やっぱりこの子、感謝が無いのよw
    それは多分、彼の性分。
    そして、性分によって享楽に耽ってジョー達に背を向けたり
    自己嫌悪に陥ったり、「恩人」の登場で打ちのめされたり。
    そして結局何に救われたかと言えば、自分から生まれた
    温かさであったり、友情であったり、何時だって見返りを求めないジョーであり。
    人間の心は哀しみや厄介事も運んでくるけど、
    満足や幸せもまた、なんだわなぁ。

    ほろ苦くもあるけど、希望あるハッピーエンディングで良かったにゃあ

  • いかにも作り話めいた棚ぼた的幸運は物語だと割り切って読もうと思ってもなんとなく腑に落ちないタイプなので半信半疑で読み進めたが、どうやらそれでよかったみたい。むしろ何故ピップがハヴィシャムさんが自分に遺産を残してくれるとそんなに信じきっていたのかが解せない。
    ハヴィシャムさんが自分のしたことを悔いる様子や、マグウィッチが満足そうに天に召される様子は、人間は一人で生きているようだけどやはり周りの人々に影響し影響されながら生きて死んでいくんだなと感じさせられた。こういう話読んでると、自分が叶えられなかった夢を誰かに託すって自然なことに思えるな。エステラさんは生き方を選べなかったと言っているけど、従うことを選んだ時点で自分で決めてるともいえるし…。ピップも幸運にあぐらをかいていたのだから自業自得のような。でも身近な人のありがたみって普段は忘れがちということも事実で、身にしみる部分も。
    ハーバートはどこまでもいいやつだし、ウェミックはチャーミングだし、ジョーは言わずもがな、脇役の方が魅力的だな。ウェミックのお城にお茶飲みに行ってみたい。

  • ヒロイン、エステラさん。ハヴィシャムさんの英才教育により男を誑かす最強悪女となった彼女ですが。そういう彼女ですから、結局自分が何を望んでいるのか彼女自身も分かってないんじゃないか。で、勝手に想像するのが彼女は自傷願望が芽生えたのではないか、と。あえて自分を汚す方を選んでしまう生き方を望んだんじゃないかなー。

  • この訳者は著者に対して少し批判的

  • 事象だけで言えば結局彼の手に残るものは何もなく、尚且つそれは読者の予想できうる範囲だったろうけども、主人公の生々しい心理の変遷、割り切れない感情が素晴らしくて一息に読んでしまった。
    神の見えざる手という表現を聞いたことがあって、それは作者という神がストーリーに意味合いを与えるべく素晴らしい偶然や奇跡を主人公に落としていくことを表すのだけれど、仮にその手があったとしても主人公はついぞ神をちらと仰ぎ見ることもなくただ自分の人生を生きていた。
    歩んでも歩んでも先行きの知れない人生を人生として生きている、その歩みは作者や読者の期待とに乱されることなく、彼だけのものだった。

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著者プロフィール

1800年代を代表するイギリスの小説家。おもに下層階級を主人公とし、弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表した。新聞記者を務めながら小説を発表し、英国の国民作家とも評されている。『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』『デイヴィッド・コパフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』などは、現在でも度々映画化されており、児童書の発行部数でも、複数の作品が世界的なランキングで上位にランクされている。

「2020年 『クリスマス・キャロル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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