サラゴサ手稿 (下) (岩波文庫 赤N519-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003751350

作品紹介・あらすじ

「サラバンドを学べ、息子よ」──なぜ父は息子に幾何学を学ぶのを禁じるのか。新大陸メキシコで繰り広げられる荘厳で悲劇的な愛の物語。ゴメレス一族の秘密はついに明らかになり、地下空間に下り立った主人公アルフォンソが六十一日目に目にしたものは? ポーランドの鬼才ポトツキによる幻の物語、初めての全訳、完結!(全三冊)

感想・レビュー・書評

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  • 【第五デカメロン】(41日目〜50日目)
    読書会に参加しました。皆様ありがとうございました。

    総括。
    この下巻の巻末に、誰が何について話しているかの「通覧図」があったーー。上巻、中巻一生懸命読み取ってたよ(笑)

    読書とは「本を読む」行為だが、この本は(上巻で書いてあったように)旅の途中で旅籠に寄って飲んで食って踊ってお話しての輪に参加しているような気持ちになるんですよ。

    大きな枠組みとして、スペインのイスラム一族が守ってきた秘宝と血筋を受け継いでいく話がある。
    その中に、総計30人程度の人たちがそれぞれの人生を語っていく。この一つ一つの話が大変面白い。400ページで三巻なので長いかと思いきや、話の途中で次の話に繋がってゆくので読み終わりのタイミングが難しく、ある程度一気読みしてしまう。これに関しては登場人物のいつも肝心なところで話しが中断しちゃう(o・3・)」と言うんだが、作者わかってて書いてるか!?

    そして登場人物たちが語る人生は、過酷だったり皮肉だったりするのだが、なんだか笑えてしまう。悲劇も突き詰めれば喜劇となる、他人の悲劇は他所からは喜劇。
    恋愛カップルはたくさん出てくるのだが「結婚して末永く幸せに」とはならないし、なにかの宿命を帯びて生まれた子供は奇人振りを見せる。

    以下、下巻だけの内容
    ===

    衛兵隊長に任命されたアルフォンソは、マドリードに行くためにシエラ・モエナ山脈を旅している。旅がなかなか進まないのは、絞首台から抜け出して旅人に悪さをする死体だとか、イスラムのシャイフ(宗教的・公共的な長老・首長)の秘宝に関係することに巻き込まれているから。
    だが名誉を重んじて豪胆なアルフォンソはこの状況を楽しんでもいる。
    今はジプシー一団のキャンプに加わり、ジプシー族長の語りを楽しく聞いている。

    『第四デカメロン』までで、ジプシー族長は自分の若い頃の経験を物語った。そこへ豪華な旅する一団が通りかかる。それは『第二デカメロン』で語られた当時のロンセト、今ではトレス・ロベラス侯爵と、その娘のエルビラ(妻エルビラは亡くなり同じ名前の娘がいる)、エルビラの婚約者ベレス侯爵(ベレス副王の甥)、そして二死体に誑かされた幾何学者、そして神父の一行だった。
    すっかり老人となったジプシー族長とロベラス侯爵は再会を喜ぶ。
    幾何学者と元カバラ学者のレベッカ(本人はラウラと名乗る)はそれぞれ、ジプシー族長やロベラス侯爵の話を聞きながらなんか幾何学的?論理的??な自己解釈を語って、話が合っているような合っていないような感じになっている。

    ❐トレス・ロベラス侯爵(以前のロンセト):
     従妹で幼馴染のエルビラとの結婚には貴族社会や宗教上の手続きが必要だった。離れ離れになった二人は熱烈は愛の手紙、ただし恋愛小説に書かれた言葉を使っての愛の手紙を交わし合う。
     だがロンセトは、パドゥリ侯爵未亡人とその侍女シルヴィアとの快楽に溺れちゃって。
     エルビラとの結婚許可が出たが、どうやらエルビラも多くの求愛者からのアプローチを楽しんでいたらしい。
     結婚後は上流社会の政治・軍事・社交生活を送っていくが、エルビラは俗っぽくなっていき、ロンセトは他の女性との恋愛を楽しんできた。
     やがてエルビラは死に、娘が遺された。その娘は、かつての恋のライバルであるベレス副王の甥の息子のベレス侯爵と婚約して、年取った自分は若いもんの行く末を見守りたいな、と思っている。
     ロンセトとエルビラは、数多出てくるロマンチックバカのなかでも一番のお騒がせカップル 笑 まあ当時の貴族ってこんなもんだったんでしょうねえ。

    ❐ロンセトと関係を持った、パドゥリ侯爵未亡人とその侍女シルヴィア:
     貧しい少女ラウラは、リカルディ猊下の「あどけない少女を自分の思い通りに教育して自分を完璧に幸せにしてくれる女性に仕立て上げるんだ★」という、なんか源氏物語で聞いたことのあるような、古今東西普遍的らしい男の夢のために、リカルディ猊下に引き取られる。ラウラの幼馴染シルヴィアは彼女を探しあて側で仕えることになった。だがパドゥリ侯爵未亡人(ラウラ)は、豪奢だがリカルディ猊下の籠の中の生活より独立したいと願う。その練習のためにロンセトを誘ってみたのでした★

    ❐幾何学者ペドロ・ベラスケス:
     身の上話。一族は大貴族だったが、父であるエンリケはちょっとしたミスのため地位と財産を婚約者を失い学者として引きこもったこと。そのエンリケの妻(ペドロの母)の母は、イスラムシャイフの秘密を握るゴメレス一族だということ。エンリケはペドロを学問に触れさせないようにする。だが幼いペドロは数学に夢中になり、そのせいで周りから頭がおかしいと思われていたこと。
     エンリケがペドロに言い聞かせたことは、世間とは違った趣味を持ち突き詰める人間の言葉だ。「自分たち親子は他の人々からは追放された世界に属している。おまえは世間の軽薄さを身に付けず、感じやすい魂と良識ある精神とを備えた人間となった。自分たちには自分たちなりの楽しみがある。人知れず、孤独なものだが、甘美で、混じり気のないものだ。人々から侮辱や中傷など不当な仕打ちを受けてもそのまま返すのではなく、自ら身を引いて、自分のうちに閉じこもり、心を本来の養分で養うのだ。」
     こうして成長したペドロは、世間とは外れてぼんやりした人間と見られるが、学術への情熱を持ち続けている。ペドロの話には、幾何学的、天文学的、論理的、植物学的、数学的…な説明が行われている。
    さっきまで話していたロベラス侯爵(ロンセト)の経験談を数値と上昇値により解明しようとしたり、自分自身の性的興奮を学術的に解明しようとしたけれど無限に上昇する感覚の前に解明どころでなくなったとか(笑)、旧約聖書の「神は7日間で世界を作った」ことを学術的に解説するとか、学問に対する情熱と信頼と冷静さを感じるんだが、だが、わからん。私にはさっぱりわからん、全くわからん(@@;)
     アルフォンソは、ペドロが学問を重んじるが宗教にも敬意を払っていることに感心を寄せる。
    <(神は直接人間に声を聞かせることはなく、)神はより高度な競技を古代の神秘の中に隠されたのです。(…中略…)私達自身も、そうとは知らずにさまざあな要因に取り囲まれて生きていますが、そこから生じる結果は校正を驚かせることになるのです、このようにして思考の神のご移行は達成されるのです、だからこそ私達は、摂理という名を神に与えるのです、神がこのように振る舞うのでなければ、私達はそれを力と呼んだでしょう。P228>
     話の最後に、ペドロは父エンリケが手に入れられなかった公爵家の跡取りに選ばれたことが語られる。


    【第六デカメロン】(51日目〜61日目)
    トレス・ロベラス侯爵(ロンセト)、娘のエルビラ、エルビラの婚約者ベレス侯爵は、ジプシー一行と別れて旅を続ける。
    ジプシー族長は自分の若かりし頃の話の続きを聞かせる。

    ジプシー族長は、自分でも知らないうちに熱愛するアビラ女侯爵と秘密の結婚をして娘も生まれていた。
    だが相続の関係でこの結婚と出産は極秘にしなければいけない。
    社交界では、アルコス公(女装が似合うフラケスタの恋人)一派であるブスケロスが重要なくらいにつき、ジプシー族長たちの秘密を探り当てて脅迫を仄めかしてくる。
    そこでアビラ女侯爵は、娘をシエラ・モエナ山脈のユダヤ人カバラ学術研究家ウセダ一族に預ける。

    ジプシー族長とアビラ女侯爵の秘密の結婚について。
    アビラ女侯爵は、相続の関係で結婚することが出来ない。さらに自身が大変高慢であり人を愛することもなく、ご主人を持つことなどまっぴらだった。そして彼女には政治的、福祉的な野心もあった。だが自分に熱愛純愛を捧げるジプシー族長に心を動かされ、トレド騎士やシドニア侯爵未亡人の協力のもと、極秘結婚への運びとなった。
    だがこの秘密が明かされることは彼女の野心はすべて崩れる。アビラ女侯爵はジプシー族長に「愛情を完全に捨て去る前に試してみたかったけれど、愛に対する心は変わらなかった。あなたに与えた権利(夫の立場、愛情)はすべてなかったこと」と宣言する。そして娘はシエラ・モエナに隠し、ジプシー族長をスペインから離れさせた。
    シエラ・モエナ山脈は、込み入った土地に、人種や宗教の争いを組み込んだ雑多で中立地帯となっているのだ。
    <あなたがおられるのは不思議な土地で、誰もがここでは秘密を抱えている。山脈には巨大な洞穴がいくつもあり、ムーア人たちが住んでいる。(…中略…)眼の前に見えるこの谷には、いわゆるジプシーたちが住み着いている、あるものはイスラーム教徒、別の者はキリスト教徒、またどちらでもない者もいる。(…中略…)今おられるこの家はイスラエル人の住まいで、七年ごとにスペインとポルトガルのユダヤ人がここに集まり、安息年を祝う。(…中略…)宿坊のドミニコ会修道士は、そこに礼拝堂を構えている。P263>

    はたしてアビラ女侯爵は全く愛情を持たなかったのか?中巻のラストの二人の恋愛模様は結構楽しそうだったんだけどな。

    さて、スペインを離れたジプシー族長だが、彼は名前も変えざるを得なくなり、スペイン継承戦争での捨て駒にされる。
    何年もたち、彼はシエラ・モエナ山脈に戻ってきた。

    そして現在。
    ジプシー族長はアルフォンソに自分の話の真意を伝える。そう、アルフォンソはシャイフとゴメレス一族に深い関わりを持つ者なのだ。

    ジプシー族長の話は終わり、アルフォンソは現在のシャイフ本人と対面して、彼が聞くべき話を聞く。
    スペイン覇権争いの世界でイスラム教徒たちは、ユダヤ教、キリスト教徒たちと混じり合ってきた。いつか秘宝を使ってイスラム教を世界に知らしめるのだ。
    キリスト教の貴族は男が継ぐ。ゴメレス一族は女が継いでいく(この物語で出てくる多くの夫婦の間に生まれたのはすべて「娘」)。ゴメレス一族は、キリスト教徒のゴメレスとイスラムのゴメレスを一つにさせて、秘密を受け継ぐ者を探し当てた。ゴメレス一族の母を持つアルフォンソだ。この『サラゴサ』で語られたシエラ・モエナでの出来事はすべてアルフォンソがゴメレス一族の後継者に相応しいかを試すための芝居だったのだ。

    物語の終盤では、ここまでして守ってきたシャイフの秘宝が尽きたこと、この秘密の場所は爆破させることが明かされる。
    だがゴメレスの血脈は世界に受け継がれてゆく。
      世界にイスラムを広めるために秘宝を守ってきたシャイフ
      シャイフの秘密を守るゴメレス一族のエミナとジベデ
      キリスト教徒の父と、ゴメレス一族の母をもつアルフォンソ
      キリスト教徒の父と、ゴメレス一族の母をもつ幾何学者ベラスケス
      キリスト教徒のジプシー族長
      キリスト教徒のアビラ女侯爵を母に、ジプシー族長を父に持つオンディーナ
      シャイフの後ろ盾となり、オンディーナを匿ったカバラ学者ウセダ(マムーン)
      イスラムのシャイフの父と、オンディーナを母に持つユダヤ教のレベッカ
      ユダヤ教徒でゴメレス一族の資金を支えるモロ一族
      シャイフを守る盗賊のゾト一家
    そして彼らがまた結婚して生まれた子供たちは世界に散らばっていく。

    <いつの日か、あたなの物語も同じように自然に説明がつけられるでしょうね P399>

  • サラゴサ手稿 (下) - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b618312.html

  • ヤン・ポトツキの怪作。ようやく上中下3巻を読み終えました。語彙が足りないので、凄いとしか言いようがなく、不思議でとても面白い。フィクションとはこういうものかという驚きです。この入れ子になった物語構造をちゃんと設計して執筆しているのは、人間業とは思えません。

  • 表現するなら名作ではなく「奇書」だろう。プロ作家ではない貴族が出版を前提とせず書き綴ったという点ではサドに似るのでは。こちらにインモラルな要素はないが、個人の想像の赴くままという風ではあり、美女美男が恋愛しがちでさらに二人の女性と同時にセックスし子供を作りがちなところは書き手の性的願望にも思える。科学、歴史、地理的に縦横無尽なのは世界を旅したポトツキの博覧強記ぶりの現れだろう。デカメロン、語りによって形成されるが、語りの中に別の人の語りがある入れ子構造、1つの語りが必然性のなさそうな箇所でも唐突に中断し再開する(語り手が呼ばれて離席、次の日に続きを話す)など不思議な、ユニークな作りでもある。
    最後は大団円、広げた風呂敷を畳むのだが、辻褄を合わせるためのラストというきらいもある。収まりがいいことイコール完成度の高さというわけでもないと思うし、後書きで触れられている未完だが奔放なバージョンの方も読んでみたいものだ。

  • ポーランドの大貴族ヤン・ポトツキ(1761-1815)が
    フランス語で執筆した幻想長編。
    著者がサラゴサ包囲戦(1808年)にフランス軍将校として
    参戦した折、人家に残された手稿を手に入れ、
    スペイン人大尉に仏訳口述してもらって書き取った――
    という設定で、スペイン、シエラ・モレナ山中をさまよう
    武人アルフォンソの61日間に渡る体験が綴られている。
    彼が出会った人々の話を聞き、
    その中の登場人物が更に身の上話を繰り出したり、
    本の内容が開陳されたりするという
    目くるめくマトリョーシカ小説。
    下巻は第四十一日~第六十一日(結末)まで。

    ***

    トレス・ロベラス侯爵となった、かつてのロンセト少年と
    族長パンデソウナことホアン・アバドロの再会、
    侯爵と同行していた
    メモ魔の幾何学者ペドロ・ベラスケスの身の上話、
    族長の昔語り再開を経て、
    アルフォンソは自分もその血を引くという
    ゴメレス一族の秘密に辿り着いた――。
    これはどうやら勇猛な軍人になろうとする青年の
    通過儀礼の物語だったらしい。

    ***

    細かい話は後日ブログにて。
    https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/

    • 深川夏眠さん
      全三巻を通読してのまとめをブログに綴りました。
      https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/entry...
      全三巻を通読してのまとめをブログに綴りました。
      https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/entry/2023/05/19/154518
      2023/05/20
  • いよいよ下巻。第五デカメロンと第六デカメロン、そして61日目の大団円。時代背景としての政治的な部分はちょっと難しかったけれど(※実在の人物も結構出てくる)基本的には「誰かが語る波乱万丈の人生」がそれぞれ面白く、娯楽としてとても楽しい読書だった。

    構成としてはいわゆる枠物語であり、代表的な枠物語である千夜一夜やデカメロンと同じく、本書も「物語る」こと、語られる物語の純粋な面白さに満ちていて、なんというかテレビもインターネットもない時代の人々にとって、とにかく「面白い誰かの話」が一番の娯楽だったのだなという初心のようなものに帰れた。

    日本の今昔物語を読んだときに、説話というのはゴシップ、噂話だというのに納得したけれど、今回も和洋問わず古い物語というのは単純に「興味深いゴシップ」が語り継がれたものなんじゃないかと思った。要するにこれは一種の壮大な「すべらない話」だったのかも。


    以下はざっくり備忘録

    <第五デカメロン>
    長い長いジプシーの族長アバドロの半生語りがいったん終わり、物語の中での現在地であるアルフォンソの視点に戻る。テントから散歩に出たアルフォンソたちは、街道からキャラバンがやってくるのを見る。その中にいた老騎士はなんと、かつてアバドロが女装して入れ替わり助けた恋人たちの片割れロンセトだった。彼は今はトレス・ロベラス公爵となっている。旧友アバドロに彼はその後の物語を語る。

    〇トレス・ロベラス公爵の物語:かつてのロンセトとエルビラのその後の話が語られる。二人は愛し合いながらもしばらくは遠距離となり、その間にロンセトは美しい夫人とその侍女に誘惑される。侍女は夫人の過去を語る。

     ∟◎リカルディ猊下と、ラウラ・チェレッラ、通称パドゥリ公爵夫人の物語:リカルディという女たらしの貴族が、あるとき女遊びにも飽きて、可愛い少女を自分好みに育てようと思いつく(光源氏と紫上みたい)。ラウラという庶民の美しい少女がリカルディの目に留まり引き取られ、やがて美女に成長、しかしリカルディは彼女を自分の妻にはせず、架空の親戚の寡婦として同居させる。こうしてラウラはパドゥリ公爵夫人となったが、計算高くリカルディを操ろうとする。

    ロンセトはそうしてさまざまな女性経験を重ねつつもエルビラと結婚。エルビラはエルビラでいろいろやっていたらしい。二人は最初は仲睦まじかったが社交界に出てエルビラはちやほやされたがり、ロンセトは別の女性に目移り、次第にうまくいかなくなる。40代半ばでエルビラは高齢出産ののち亡くなった。

    〇幾何学者(ベラスケス)の物語:ロンセト一行が拾ったこの幾何学者ドン・ペドロ・ベラスケスは、アルフォンソと同じくいつの間にか絞首台の下で眠っていた被害者の一人。彼が自分の経歴を語る。彼の父エンリケは真面目で勤勉な好青年、一方その弟カルロスは軽薄な遊び人。二人を養育した伯爵にはブランカという娘がおり、伯爵はブランカとエンリケを結婚させる考え、二人も愛情を抱き合っていた。しかし二人のために遠ざけられていた遊び人カルロスが戻って来て、ブランカの心を射止めてしまう。エンリケは恋人も身分や領地も失ってしまった。

    ブランカはすぐに自分の間違いを悟るが時遅し、彼女は後悔から修道院に入る。エンリケは中年になってから若い娘と結婚、ペドロが生まれるが、エンリケは弟への劣等感から息子を弟カルロスのように育てようとする。にも関わらず、ペドロは父譲りの数学の才能を発揮し幾何学者になる。

    〇ベラスケスの体系:ベラスケスが自分の学問について語る。興味深いがちょっと難しい。

    <第六デカメロン>
    ロンセトとベラスケスらの一行が旅立ち、再びアルフォンソたちはジプシーの族長の物語の続きを聞くことに。

    〇ジプシーの族長の物語の続き:アビラ女公爵と秘密の結婚をしたアバドロ、二人にはオンディーナという娘も生まれるが一緒に暮らすことはできない。そしてあの面倒くさいブスケロスが二人の関係を嗅ぎまわっており、警戒した女公爵はアバドロに別れを告げる。やがてアバドロは政治的陰謀に巻き込まれて流転し、最終的に今いる地に辿りつきジプシーの族長となる。オンディーナは素性を隠して田舎で育てられ、無口な野生児に育つ。洞窟の水脈を自在に行き来し、そこである男性に恋して子供を産み、やがて亡くなる。アバドロは修道士と出会い地下の鉱脈へ案内される。修道士はゴメレス一族について語る。

     ∟◎ゴメレス一族の大シャイフの物語:序盤からアルフォンソが聞かされてきた謎の「ゴメレス一族」の真相がここであきらかに。

      ∟∟◇ウセダ一族の物語

    最終的に、今まで登場したすべての登場人物やエピソードが繋がり、アルフォンソをゴメレス一族の新しいリーダーとするための試練であったことが明かされる。

  • この長編を読み終えて

    『ポトツキってなにものだったんだろう?』と著者への興味が沸いてくるばかり

    キャラの立つ人物が入れ替わり立ち替わり現れて退屈するひまもない


    きれいに物語は閉じられて大団円となる

  • 最後までたどりつかないんじゃないかと思ったが、なんとかここまできて、解説と物語の構造を表にしたものを見て、やっと全体像がおぼろげにつかめた感じ。最後の最後に爆破された洞穴が残るというのは、ちょっと三島の「豊饒の海」を思い出したけど、それ以上にあまりに冗長でかつ入り込んでいてそれでいて一つ一つの物語というか挿話がおもしろおかしい。不思議な作品だった。

  • ここまでの展開で謎的に提示されたエピソードに、それなりの解決が付いて大団円を迎える。むろん今日の読者が「驚愕の真相」的に驚くようなものではないが、大量にあるらしいヴァリエーションも、広げすぎた大風呂敷を畳むための作者さんの苦闘の痕跡だと思うと、味わい深い。

  • ようやく読了。
    現在のウクライナ生まれのポーランド人が、スイスで学んだフランス語で書いたスペインの話というだけでもややこしい。

    キリスト教、イスラム教、数学、インクづくり、ヨーロッパ諸国の戦争と王室の逸話などなどの話題をそこら中にぶちまけ、登場人物・話題が行き来する入れ子の階層構造。
    ヨーロッパ(西、伊、白、墺…)、中南米、アフリカ、中東をめぐって海を渡り、城に入って、山に隠れて、地下に潜る縦横無尽の移動。
    大量の資料を調べ、相当な時間をかけて作られたと思われるマニアックな訳注。
    Excelシートで入れ子の階層と話題と場所を順にメモしなければ、全貌の把握は無理。

    ぐははw

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