シェイクスピアの記憶 (岩波文庫 赤792-10)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003770146

作品紹介・あらすじ

分身、夢、不死、記憶などのテーマが、先行諸作品とは異なるかたちで変奏される、端正で緊密な文体によるボルヘス最後の短篇集。本邦初訳の表題作のほか、「一九八三年八月二十五日」「青い虎」「パラケルススの薔薇」を収録。二十世紀文学の巨匠が後世にのこしてくれた、躊躇なく《ボルヘスの遺言》とよぶべき四つの珠玉。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀ラテンアメリカの作家ボルヘス(1899-1986)最晩年の短篇集、1983年。



    自己への拘泥という依存からの解放を、精神からも肉体からも解放されるということを、精神と肉体から抜け出る秘密の抜け道としての何かを、求めていた。自己がどこともなく解消されて、喪失すべきものが実ははじめから喪失してしまっていたということになれば、喪失の前提条件が予め解消されてしまっていたということになれば、そもそも迷子になる布置そのものがなくなってしまっている、ということになる。

    主/客、自/他、有/無、同一/差異、区別/混沌、、現/夢、生/死、実/虚、能動/受動、自由/運命、、始/終、先/後、因/果、内/外、上/下、左/右、天/地、遠/近、大/小、、真/贋、始源/模倣、原本/複製、根源/派生、作者/読者、、メタレベル/オブジェクトレベル……

    ボルヘスの不思議な作品を読んでいると、これらの対立がくるりと反転して、そうした区別(秩序、同値類)と方向(序列、階層)が曖昧化され解消してしまう。彼の作品を通して、自分の、或いはもはや「自分」とは名指しできなくなるかもしれない何者かの、別のありようを、想像してみる。



    「外で私を待っていたのは、別の夢だった。」(p23「一九八三年八月二十五日」)

    「作品はその描き手を必死になって救おうとする。」(p154「解説」)

    「読み手の役割がもっとも重要なのだ。読み手であって、書き手ではない。ボルヘスさんは読み手が書き手の仕事を引き継ぐのだと信じている」(p156「解説」)

  • 四編の短編集。どれもいかにもボルヘスで良き。以下簡略にメモ。

    〇一九八三年八月二十五日:あるホテルに宿泊した60代のボルヘス、宿帳にサインを求められ、書こうとするとすでに自分のサインが。まさかと思いつつ部屋に行くと、そこには老いて死の床についたボルヘス(84歳)がいて…。

    〇青い虎:青い虎を探して僻地の村へ出かけた男。虎はいなかったが、村人たちが神聖視している山に無断で入り、青い小石をみつける。その小石は勝手に増えたり減ったりし…。

    〇パラケルススの薔薇:パラケルススのもとに弟子になりたいという男がやってきて、持ってきた薔薇を灰にしたあと蘇らせてくれと師に言う。しかしパラケルススは…。

    〇シェイクスピアの記憶:ドイツ人の文学者が、あるとき知人からシェイクスピアの記憶を譲ると言われ、受け取ることにする。以来、じわじわとシェイクスピアの記憶が蘇るようになり、最初のうちは喜んでいたものの、次第にシェイクスピアの記憶が本人自身の記憶を浸食しはじめ…。

  • 収録作の三編は『バベルの図書館22 パラケルススの薔薇』
    (国書刊行会)で既読だったが、
    本邦初訳の表題作のために購入・読了。

    ■一九八三年八月二十五日
     深夜、宿泊するホテルに帰ったボルヘスはフロントで
     記帳を求められ、首を傾げつつページに目を落とすと、
     真新しいインクの跡が自らの名を綴っていた。
     宿の主は、よく似た別の客が既にいるが、
     あなたの方が若いようだと告げる……。
     バベルの図書館『パラケルススの薔薇』での初読時より、
     もっさり・まったりした印象を受け、
     同時に何故か内田百閒風に感じられた。

    ■青い虎
     1904年末にガンジス川のデルタ地帯で
     青い虎が発見されたとのニュースを読んだ〈私〉こと
     アレクサンダー・クレイギーは、
     更に、そこから離れた村にも
     青い虎の噂があると聞いて旅立ち、
     山に入って無数の小石を発見した――。

    ■パラケルススの薔薇
     錬金術士パラケルススこと
     テオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム(1493-1541)の許に
     弟子入り志願者がやって来たが……。

    ■シェイクスピアの記憶
     英文学者ヘルマン・ゼルゲルは
     シェイクスピア国際会議で知人に引き合わされた
     ダニエル・ソープから
     「シェイクスピアの記憶を差しあげましょう」と切り出された――。

    作者ボルヘス自身の鏡像と思しい主人公たちの驚きが
    静かだけれども瑞々しい。
    旅と記憶と〈読むこと〉〈書くこと〉を巡る佳品群。

  • マジック・リアリズムと呼ばれるが、ガルシア・マルケスとはまた違う。日本文学より語り切る感じだが、シンプルな中に読み手に委ねてあるところが多く面白い。

  • ボルヘスの小説ということで読んだがあまり印象にのこらない。本文よりも解説の方が長い感じがする。

  • 短編4篇。
    いずれも夢と記憶と旅の話。
    あるいはバーチャルリアリティの話だとも言えそうだ。

    他者の記憶を丸ごとインストールすることでアイデンティティがゆらぐ。それがましてやシェークスピアの記憶なのだとしたら!

  • ボルヘスの遺作が本邦初訳なのがびっくり。良くも悪くも枯れた感じは、昔からかも知れないが、渇き具合が一段と上がっている感じはする。懇切丁寧な解説が助かる。

  • 表題作以外の3本はバベルの図書館のシリーズに入ってる。

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著者プロフィール

1899年ブエノスアイレスに生まれる。教養豊かな家庭に育ち、年少よりヨーロッパ諸国を移り住んだ。六歳の頃から早くも作家を志望し、驚くべき早熟ぶりを示す。アルゼンチンに帰国後、精力的な文学活動を開始。一九六一年国際出版社賞を受賞。その後、著作は全世界で翻訳されている。20世紀を代表する作家の一人。
驚異的な博識に裏打ちされた、迷宮・鏡・円環といったテーマをめぐって展開されるその幻想的な文学世界は、日本でも多くの愛読者を持ち、全作品のほとんどが翻訳出版されている。一九八六年スイスにて死去。
小説に『伝奇集』『ブロディーの報告書』『創造者』『汚辱の世界史』(以上岩波書店)『エル・アレフ』(平凡社)『砂の本』(集英社)、評論に『続審問』『七つの夜』(以上岩波書店)『エバリスト・カリエゴ』『論議』『ボルヘスのイギリス文学史』『ボルヘスの北アメリカ文学史』『ボルヘスの「神曲」講義』(以上国書刊行会)『永遠の歴史』(筑摩書房)、詩に『永遠の薔薇・鉄の貨幣』(国書刊行会)『ブエノスアイレスの熱狂』(水声社)、アンソロジーに『夢の本』(国書刊行会)『天国・地獄百科』(水声社)などがある。

「2021年 『記憶の図書館 ボルヘス対話集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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