史的システムとしての資本主義 (岩波文庫 青N401-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003840016

作品紹介・あらすじ

壮大な〈世界システム論〉を唱えたウォーラーステイン(1930-2019)。資本主義をひとつの歴史的な社会システムとみなし、「中核/周辺」「ヘゲモニー」「帝国」「反システム運動」などの概念を用いて、その成立・機能・問題点を鋭く描き出す。現代世界を批判的に検討し、未来を展望するうえで示唆に富む位置一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 中心地域(北米・西欧)は資本を蓄積し、その周辺地域(ラテンアメリカ)を搾取している。鉱山や鉄道は欧米資本。国境をまたいだ資本主義の体制ができている。不均等な国際分業。中心地域が周辺地域に従属を課している。ラテンアメリカで開発が進まないのは中心地域に経済的に従属しているからだ。「近代化しておらず伝統社会のままだから」ではない。アンドレ・フランク『世界資本主義と低開発』1967

    豊かな国が貧しい国に商品作物を生産させている。日常の食糧でさえも商品作物として豊かな国の商売に組み込まれている。だから貧しい国は十分な食糧を自給できずに飢餓が起きてしまう。飢餓は人口過剰や異常気象だけが原因ではない。スーザン・ジョージ『なぜ世界の半分が飢えるのか』1976

    複数の国家からなる資本主義システムに世界は包み込まれている。影響力の強い豊かな国々が中核にいる。工業国。その周辺にまぁまぁ影響力が強いまぁまぁ豊かな国々がいる。いちばん外側には影響力の弱い貧しい国々がいる。原材料・食料を作って中核の国々に輸出、工業製品を中核の国々から輸入。三層構造になっている。ただし時間と共に国家の地位は変動する。イマニュエル・ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』1983
    ※ダボス会議(世界経済フォーラム)けしからん。新自由主義けしからん。もう一つの世界は可能だ。

  •  世界システム論のエッセンスが詰まった1冊。

     『近代世界システム』4巻、この大冊に次は進みたい。

  • 面白かったです。非常に説得的であるとともに、これほどまでに資本主義というシステムを、あたかもそのシステム外から冷静に分析したかのように論じている本はなかなかないのではないでしょうか。資本主義という史的システムは、資本を蓄積していくこと、しかもその終わりがないことを特徴としていますが、これがいかに馬鹿げているかをウォーラーステインは冒頭できっぱり述べています。

    そのうえでマルクスをはじめとした多くの識者が論じてきた資本主義の見方がいかに間違っているかについて説明します。例えばブルジョア革命という概念。資本主義は、多くの人が信じているような、新階級であるブルジョアジーが貴族を打倒してできたシステムではなく、没落しつつあった封建貴族が生き残りのために新システムを生み出し、自身がブルジョアジーに変身したのだと論じます。

    そうなると資本主義が終焉する場合に、どのような終わり方をするのか、について興味深い選択肢が見えます。サミール・アミンがいうところの「退廃」と「革命」があって、前者は古代ローマ帝国のように資本主義が没落するシナリオ、それに対して後者の革命は、何らかの力によって違う史的システムが意図的に生み出されるシナリオです。しかも後者の革命には、先述の貴族→ブルジョアジーという管理的革命も含まれるのならば、現在世界の資本主義を牛耳っている一部の資本家・資産家が、立場を変えつつ新しい史的システムを生み出し、その中心になり続ける、というパターンもあり得るわけです。

    ウォーラーステインは、システムの中の矛盾に注目せよと言います。それらを注意深く見ることで、そのシステムがまだ継続できるのか、もう生き残れないのかがわかるのだと。資本主義は矛盾を抱えることで自身の目的を達成する(資本を永久に蓄積する)システムではありますが、いいかえれば非常に危ういシステムでもあります。そして著者が指摘しているように、万物の商品化が極限まで進んだこと、資本主義の浸透範囲が地球の隅々にまでわたってきた昨今の状況を見るにつれ、システム内の矛盾を吸収する余地はなくなってきたようにも見えます。「21世紀のどこかであらたな史的システムに置き換わるであろう」という著者の予言が、とても説得力のあるものと感じました。

  •  やはり資本主義というシステムは根本的に矛盾を抱えており、このシステムが永続することはないであろうということは納得できる。結局は妥協の産物でしかないわけで、こんなものに論理的正当性を与えること自体無理な話である。ただし、今後どのようなシステムが資本主義にとってかわるかということは誰にもわからない。SF小説など読んでいると、SNSやAIの隆盛による全体主義が資本主義にとってかわる可能性も高いように思える。しかし過去の史的システムから資本主義への移行が特権階級主導のもとで管理された革命であることを考えると、今後我々の期待するガラガラポンがおこることに期待することもできなさそうである。

     増税することが悪いのではなく、その使い道に問題がある。国家による徴税は資本主義以前にも普通に見られたことである。そうではなくて大企業を救済することにばかり躍起になり、格差を助長していることに我々は異議を唱えているのだ。一方では能力主義を正当化し、他方では人種差別、性差別を正当化する。こんなことだからウォーラーステインをして資本主義を「馬鹿げたシステム」と言わしめたのも大いに納得するところだ。

  • 資本主義に限らず、「史的システム」はその内部に矛盾を抱えている。資本主義における矛盾とは、平等性と不平等性(普遍主義と人種/性差別、富と搾取の増大など)である。
    史的システムとしての資本主義は16世紀の西ヨーロッパに端を発し、現代に至るまで500年ほど存続してきた安定的なシステムであったが、その拡大と維持に必要である、新たな周辺(搾取対象)の供給に陰りが見えており、緩やかな崩壊が始まっているように思われる。
    次を担う史的システムの詳細を予見することは不可能に近いが、幾つかの粗いシナリオを準備しておくことは可能であろう。

  • つまらん

  • 12
    開始:2023/4/10
    終了:2023/4/19

    感想
    資本主義社会から漂う悪臭。鼻を摘むことなく腐臭に立ち向かう。人類は進歩していると言えるのか。おそらくは言えない。同じ場所を廻るだけ。

  •  原著1983年刊、1995年増補。
     社会学におけるシステム論ということで、ただちにニクラス・ルーマンとの関連を想定したが、読んでみるとルーマンともまた違っており、関係性は分からない。ルーマンほど極端に抽象的ではなく、現実の社会の相に根ざし、たまには統計データをもとにしたような論述も見られる。それでもやはり、かなり抽象的な本ではあるので、好き嫌いは分かれるかもしれない。
     小さな章に分かれていないために読んでいて一息つくタイミングが計りにくく、ちょっと読むのに苦労する。しかし、中身は資本主義システムなるものの独特さを個性的な切り口で浮かび上がらせ、たいへん興味深い指摘があちこちに見られる。
     たとえば、普遍的な「排外主義」とは異なる意味での「人種差別」は資本主義システムを支えるものとして周到に練り上げられたものだという。

    「人種差別とは、資本主義というひとつの経済構造のなかで、労働者のいろいろな集団が相互に関係をもたざるをえなくなってゆく場合の、その関係のあり方そのもののことであった。
     要するに人種差別とは、労働者の階層化ときわめて不公平な分配とを正当化するためのイデオロギー装置であった。」(P.124)

    「人種差別の意識は、不平等を正当化する万能のイデオロギー−として作用してきた。しかし、ことはそれだけでもなかった。
     それはまた、諸集団を社会化し、「経済」のなかに位置づける役割をも果たしてきたのである。」(P.125)

     こういった予想外の着眼があちこちに見られ、刺激的きわまりないのである。結局その論旨が正当かどうかはすぐには断定できないものの、こうした刺激によってその都度覚醒ささられながら、私たちはさらに多面的に、深く世界を見ていくことができるだろう。
     本書はそうした知的愉悦に満ちた本であり、この著者の他の本も読んでみたくなった。

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