文学入門 (岩波新書 青版)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004140016

感想・レビュー・書評

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  • 安心安定の岩波新書。
    私は常に「何故ライトノベルは低俗な小説」として扱われているのかを考えていた。それにあたり、文学とは?についての本を読んできたが、この新書が一番納得できる考えだった。
    新たな道徳は大抵多くの人に嫌悪され、既存の枠組みに満足であることは、多くの若い人の理解を容易にさせる。
    速い話が、同じ道徳の下で同じ枠組みを使い、読者の心を大きく変革させることは難しいことが挙げられるのだろう。
    ただ、近代小説は評価が固まっていないことも評価されない理由であるともいい、近代小説は読むべきではないという内容ではない。
    筆者は、過去にしか興味を持たず近代および現実に目を向けない人を「世捨て人」と定義する。

    再読こそ必要な本だが、読みやすくかつ非常に面白い新書だった。

  • 主に大正から第二次大戦前にかけての文学・大衆文学批評。
    入門というだけあって、この手の本にしては平易なことばで書かれており読みやすい。

    ただ、自分の読み込みが甘いのだと思うが、「文学とは何ぞや?」から始まって、結局「小説」に落ち着いてしまった感。

    こういう観念的なやつは著者と同じ視点にならないとなかなか理解できないと思われるので、とりあえず巻末の50選を読んでから出直してこい、ということかな。

  • 3.81/392
    『私たちの文化生活のなかで最も重要な地位を占めている文学,これを狭い文壇意識から解放して,正しく社会に結びつけることほど大切な問題はないであろう.なぜ文学は人生に必要か.すぐれた文学とはどういうものか.何をどう読めばいいか.清新な文学理論と鋭い社会的洞察力をもって,文学のあるべき姿と味わい方を平明に説く.』(「岩波書店」サイトより▽)
    https://www.iwanami.co.jp/book/b267307.html

    冒頭
    「文学は、はたして人生に必要なものであろうか?この問いはいまの私には、なにか無意味のように思われる。私はいま、二日前からトルストイの『アンナ・カレーニナ』を読んでいるからだ。」

    目次
    はしがき
    第一章 なぜ文学は人生に必要か
    第二章 すぐれた文学とはどういうものか
    第三章 大衆文学について
    第四章 文学は何を、どう読めばよいか
    第五章 『アンナ・カレーニナ』読書会
    附録 世界近代小説五十選


    『文学入門』
    著者:桑原 武夫
    出版社 ‏: ‎岩波書店
    新書 ‏: ‎185ページ

  • 文学の面白さは、慰みもののそれとは異なり、人生的な面白さである。

    作者の誠実ないとなみによって生まれた作品中の人生を、読者がひとごとならず思うこと、つまりこれにインタレストをもって能動的に協力することである。

    作品とは完了された経験なのである。それでは読者は、その経験を再経験して、インタレストをもつことによって、何を得るか? それはすぐさま行動に爆発するようなものではないが、行動をはらんだ心的態度であり、それはわれわれの行動を規制する力をもっている。

    読者が文学によって、人間についての知識を獲得することは、いうまでもないが、その知識は実感に即した、実質のある知識である。そして、そうした知識の裏づけがなければ、理論的知識は空理におわるおそれがある。

    人生を充実した、よりよきものとするためには、理性と知識のみでは足りず、さらに人生に感動しうる心が不可欠である。ところで文学こそ、そうしたものを養成するのに最も力のあるものである。

    すぐれた文学とは、われわれを感動させ、その感動を経験したあとでは、われわれが自分を何か変革されたものとして感ぜすにはおられないような文学作品だ、といってよい。

    そうした作品の経験を再経験することによって、われわれは心の中においてではあるが、豊かで深い人生を新たに経験したことになる。それは一つの冒険といってよい。

    つまりわれわれを変革するもの、それがすぐれた文学なのである。

  • 「文学とは何か」の一つの視点。
    古典・必読書に学び、かつ現代の文学を冒険する楽しみ。
    ときに遠慮会釈なく批判する明確な姿勢も爽快。

    ◯インタレストとは「興味」であると同時に「関心」であり、さらに「利害感」でさえあって、それは行動そのものでは決してないが、何ものかに働きかけようとする心の動きであって、必然的に行動をはらんでいる。そしてインタレストのないところに行動はありえない。

    ◯つまり作者の私的なインタレストが、客観世界のダイナモを通過することによって、公的なインタレストに変わる。

    ◯われわれが文学にインタレストを抱くことによって得るものは、まず以上のような心的態度の蓄積だが、それと同時に、人間についての知識の獲得のあることはいうまでもない。

    ・優れた文学の要素:新しさ、誠実さ、明快さ

    ◯真にすぐれた文学は題材の新しさのほかに、発見をもっている。つまり、その作品が現れるまでは何人にも、その作品によって示されたものの存在、むしろ価値が全く気づかれずにいたのが、一たびその作品に接した後では、いままでそれに気づかなかったことがむしろ不思議とさえ感じられる、そうした気持ちを読者に抱かせるものをもっている。

    ◯健康な精神をもつ文学者ならば、小さな問題よりも大きな問題に対するときの方が、より多くのインタレストが発動するはずである。

    ・既成倫理に従っているかではなく、いかに因習に批判的な態度をとっているか、新しい倫理経験を伴っているか

    ◯物語は、日常生活をはなれた何か異常な出来事を物語るものであって、そこでは事件にあやつられる人物よりも、事件そのものに興味の中心がおかれる。
    ◯小説は、日常の生活を描くものであり、たとえ異常な事件があっても、それは日常生活と同じ原理をもって解しうるものとして現れている。そこでは事件そのものよりも、作中人物に重点がかかり、全体は特異な個性による世界発見という形をとる。

  • 著者は、日本の大正期頃からの近代小説の傾向について、嘆いておられます。
    純文学といえばくだらない私小説、あとはもっとくだらない大衆小説、日本にある小説はこれだけ。要するに、未熟なのだと。
    翻って世界には、社会や世相をまるごと切り取り、強大な世界観を構築して、その中を登場人物たちが生き生きと闊歩する...、そんな傑作が溢れている。トルストイ、ドストエフスキー、バルザック...。
    戦争も終わったし、我々日本人もそろそろそういう本物の文学を読みませんかと。

    特にトルストイ『アンナ・カレーニナ』推しです。岩波編集部と読書会まで開いています。盛り上がってきたところ、途中で「もうお時間が・・・」と言われ、「じゃ、京都に帰るんでさよなら」と、あっさり打ち切ってしまうところが、なんだかすごい適当で可笑しいです。

    著者と編集部のやり取りから伺えるのは、文学を端から批判的に読むということ。例えば、不倫する女性に対しては、階級意識とか社会制度の影響を考えてみたり。
    優れた文学は社会科学の考察の対象にも値すると。
    ストーリー任せの一般的な読者とはそもそも目的意識が違うのかもしれません。
    批評家の視点から文学作品をどう読むか、文芸批評入門といった内容でした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/702201

  • ここまで徹頭徹尾正しいことが書かれていると感じる本も珍しい。だがそれは、一度知ったら誰にでもわかるような普遍的なこと、「地球には酸素があって我々はそれを吸いながら生きている」というレベルのことを、書いているからにすぎない。ここに書かれているのはそれくらい当たり前のことなのだが、自分の知らない分野のことになるとそれくらいのこともわからないものなのだから、入門書というのはそういうことを丁寧に書いてあるようなものであらなければならない。この本は本当に丁寧に「文学」を説明する親切さにおいて、良書である。文学を書く人も積極的に読む人もここがスタート地点となって、さまざまな場所へ行ってゆく。型を破ろうとここに書かれている「当たり前」を否定しようが革新しようが、まずその当たり前を知らなければ、単なる型なしでしかない。我々はこのスタート地点から文学について考え、そして書かなければならない。

  • 2022.2.18 読了
    文学に対する厳密な論考を積み重ねる入門書であった。世俗的観点・歴史的観点から海外と日本文学の対比や、文学作品と大衆誌の差異が述べられているが、全体的に議論が遠回りな印象を受けた。

  • 文学というものが何なのか、まさに入門書のような本だった。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:マーケティング、消費者研究。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

桑原武夫の作品

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