- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004303688
感想・レビュー・書評
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岸信介という人物に対しても、どうしても「食わず嫌い」があったのだが、歴史を学ぶ上では、それはNGで、近代史の満州を知るにつけ、この人物を知ることは避けて通れない。
筆者は、岸信介の生前時に多くのインタビューをこなしていることもあり、豊富な情報を基に、客観的な評価を加えている。岸信介の通史を知る上で良書だと思う。
以下引用~
・当時の政治思想を反映して、東大では吉野作造をリーダーとする民本主義の流れと、上杉慎吾を中心とする国粋主義の勢力が厳しく対峙していた。
後者は国家の伝統精神を涼とし、国権主義を主張する木曜会へと流れ込んでいく。
また、憲法学では、天皇機関説を唱える美濃部達吉と、天皇主権説を唱える上杉慎吉とが、これまた激しいい確執をみせていた。
・その思想的基盤が大川の大アジア主義であることを率直に認めているのである。岸のなかに理論的に構築されつつあった北一輝的国家主義、すなわち国内改造論と対外膨張論とを一体化させた国家社会主義は、同時に大川の代アジア主義によってさらに肉付けされていったといえよう。
・しかしこの日中戦争勃発は、同五か年計画の命運を左右する満業経営の成否がアメリカ資本の大規模な導入にかかっていたにもかかわらず、日中戦争は鮎川のこのもくろいを見事に打ち砕いてしまったからである。
・「サイパン陥落は日本の戦争継続を不可能にした」というのが岸の主張であったにたいし、「作戦的判断は軍人がやることであり、岸ら素人の関知するところではない」といのが東条の立場であった。
・岸におけるアジアへのこうしたアプローチが、日本を盟主とするかつての彼の「大東亜共栄圏」思想ないし「大アジア主義」と必ずしも矛盾するものでないことは、やはり記憶されなければならない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705222 -
1995年、平成6年出版。昭和の妖怪とも呼ばれた岸信介の官僚、政治家としての足跡を、本人のインタビューも交えつつ辿っている。
個人的には『安倍三代』の読了後に、「では、安倍晋三のもう一系統の祖父は、どんな政治家だったのか?」が知りたくなって読んだ。岸の政治家としての実績や、政治観、哲学、信念を知る上で、読み応えのある一冊だった。特に日米安保改定の実現の前後のくだりは、現在の日本の政治にも通底する本質的な問題であるとも感じた。
優れた政治家で、若きからの俊才。満洲国に至るまでのキャリアにも表れているように、先見性にも優れていた。
だからこそ、岸が今の政局や政権をどう見るのか、やはり気になってしまう。孫を大変に寵愛したという彼だから、やはり晋三びいきのジャッジになるのだろうか。統制力のある強い国家を目指した彼にとって、その理想とは程遠く思えるのだが、どうだろう。 -
名著である。安倍総理の憲法改正への意欲の源流を見ることができる。
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安倍晋三氏の祖父、岸信介氏。安倍晋三氏の政治思想に強く影響を与えていると思われるため、岸信介氏の伝記も読むことにする。著者は、遺族から信介氏の日記・手帳を借り受け、また生前本人にも20回以上にわたる直接インタビューを行っていることから、本書は歴史資料としての価値が高い。
あらためて信介氏は、戦後最大の政治家、日本の現在を形作った最大の功労者と言える。戦前、戦後ともに時代の波をよく読み、実に用意周到に事を進める。また、信介氏の信念(憲法改正)は、現在の自民党の通底を成していることがよく分かる。中曽根康弘氏、安倍晋三氏の著書にも憲法改正が触れられている。
<目次>
第一章 維新の残り火ー生い立ち
第二章 青春の刻印ー国家社会主義者への道
第三章 時代の帆風を受けてー少壮官僚の野心
第四章 国家経営の実験ー満州国時代
第五章 戦時体制を率いてー国家主義の蹉跌
第六章 幽囚の日々ー獄中日記が語るもの
第七章 保守結集に向ってー安保改定への執念
エピローグ 執念と機略と
あとがき
参考文献・一次資料
<メモ>
・戦前、国家社会主義者(ファシスト)だった。満州国は国家統制経済の下、運営された。
・1936年〜1939年、満州駐在。満州の総務庁次官まで登りつめた。
・満州時代、蓄財していたと思われるが不明。
・1941年、東条内閣入閣、1942年、衆議院議員初当選
・A級戦犯として巣鴨プリズンに幽閉。死刑になるのではないか?
・米ソ冷戦により、防共の必要性が出てくる。岸釈放の追い風となる。
・反吉田の立場。
・1951年の日米安保は進駐協定であり、双務義務がなかった。
・防共、憲法改正を目指し、保守合同へ。
・前任石橋の脳梗塞、ライバルと目された緒方の死去により、岸が総理大臣に。
・周到な安保改定の準備。安保改定は日本の真の独立のため。
・安保改定の一番の苦労は、野党対策、世論対策ではなく、党内調整だった。
・アイゼンハワー来日の予定を組んでしまったことが、安保批准のデッドラインとなる。
・結果的に来日中止・安保批准自然成立、総辞職となる。
・田中角栄について「田中は湯気の出るようなカネに手をつっこむ」
角栄の無警戒・不用心に嫌悪感を持つ。
・1969年のアイゼンハワー葬儀では、ニクソンに沖縄返還を要請。
2012.12.03 読書開始
2012.12.09 読了 -
安保改定の政治史研究で知られる原彬久(東京国際大学教授)の著作。
【構成】
第1章 維新の残り火-生いたち
第2章 青春の刻印-国家社会主義への道
第3章 時代の帆風を受けて-少壮官僚
第4章 国家経営の実験-満州国時代
第5章 戦時体制を率いて-国家主義の蹉跌
第6章 幽囚の日々-獄中日記が語るもの
第7章 保守結集に向けて-五五年体制の構築
第8章 権力の頂点に立つ-安保改定への執念
「昭和の妖怪」「A級戦犯」「安保改定を成し遂げた右翼的政治家」「満洲国を創った男」
我々は岸信介を語るキーワードには事欠かない。長州出身にして一高・東大卒の超エリート官僚の岸の姿は、岸の初組閣から半世紀が経過した後に首班指名を受けた孫とは根本的に異なる。
本書は戦前・戦中・戦後を通じた昭和という時代に、権力の中枢を司り、頂点を極めた稀有な政治家の物語なのである。
前半は岸家・佐藤家をめぐる家庭環境から、岸の人格・キャリア形成に焦点をあて、岸をとりまく環境に「岸がいかに対応していったのか」ということが中心となる。
しかし、戦後巣鴨から出所した後は、記述ががらりとかわり、政治史研究の学術的な叙述スタイルとなっていく。そこでは「岸をとりまく環境」がどう変化したのかということに焦点があてられ、岸自身の動きはいくぶんつかみにくい。
前半の史料の引用はほぼオーラルヒストリーに近く、しばしば印象論的な叙述と感じる点があり、やや正確さを欠くように思える。また逆に後半は、公文書等の一次史料を数多く引いているため、叙述が硬直化して、前半のような滑らかさが失われ、面白味に欠けるように感じられた。詳細な政治過程分析は既に別の著作で行っていることを考えれば、もう少し工夫があってもよかったのではないかと思う。
とまれ、戦前・戦後の岸信介のパーソナリティを知るのに手っ取り早い入門書である。 -
「昭和の妖怪」岸信介の評伝。著者は『岸信介証言録』などのオーラル・ヒストリーの先駆者として名高い。第一章から第五章までは戦前の革新官僚としての働き、第六章から第八章までは戦後の政治活動を中心に纏めている。
岸は北一輝と大川周明に大きな影響を受けており、北の国家社会主義に、大川のアジア主義によって肉付けすることで岸の思想が形成された。岸は、革新官僚として「満州国産業開発五か年計画」、東條内閣では軍需大臣として戦時経済体制の策定に大きく関わっていく。
第六章では、獄中日記から巣鴨プリズン時代が描かれている。よく間違われるが、岸は「A級戦犯」ではなく、飽くまで「A級戦犯『容疑者』」だ。「獄中日記」をみる限りは、獄中で特別な配偶は受けておらず、岸自らが「不起訴・釈放」のために何らかの工作をしていたという形跡は見当たらない。米ソ冷戦下での占領政策の転換が岸の不起訴の要因となったとみるのが妥当であろう。
釈放後、岸は政治家としての人生をスタートさせる。この時に親友の三輪寿荘を通じて右派社会党に入党を打診したが、断られている話はおもしろい。岸は、保守合同に積極的に関与していく。この時に共に行動していたのが、反吉田派の鳩山一郎、石橋湛山などであり、自由経済主義者の石橋湛山と計画経済主義者の岸信介が呉越同舟していたのは興味深い。
第八章では、安保法案改定に絡めて岸内閣について描かれており、原彬久『日米関係の構図』のダイジェスト版になっている。岸政権の最大の目標は、日米安保体制の見直し、吉田茂が敷いたサンフランシスコ体制の再検討だった。安保法案改定時の強行採決に対して、党内から三木武夫、石橋湛山、河野一郎らから批判続出して倒閣の動きが出てくる。60年安保闘争史観だと安保反対運動で岸内閣が倒れたと強調されているが、自民党内の反岸の動きが忘れられていると思う。条約成立後に岸内閣は総辞職する。岸信介とは何だったのか、著者は以下のようにまとめている。
“岸はその目的において「理想」主義者である。そして、岸はその方法において「現実」主義者である。理想を追いかけるその道程で編み出される岸の戦略と戦術は恐ろしく多彩であり怜悧であり、ときには悪徳の光を放つ。理想が執念を生み、現実が機略を掻き立てる。しかも岸においては執念が機略を刺激し、機略が執念を固める。その体内に理想とおどおどしい現実を重層させ、執念と機敏を共生させる岸であればこそ、彼の毀誉褒貶もまた闊歩する。(P.239)”
岸政権での政策に関して、外交政策しか語られておらず不満はあるが、とてもおもしろかった。岸信介に対して、礼賛や毀損一辺倒にならず、ちゃんと距離感が取れていて評伝として最高の出来だと思う。岸信介という男を知るには欠かすことができない本であろう。
評点 9点 / 10点 -
我らがミニスターって、これ読むと、あの一族の異端ってか、底辺だってのが、よく分かった。
でもって、怨念のようなもんだけ、(自分で勝手に)引き継いじゃったんだな。 -
国としての独立は国軍を持つ事と妄信した政治家の話、今もその亡霊が政治する。平和憲法で育ってきた我々には理解出来ない執念。