進化の隣人ヒトとチンパンジー (岩波新書 新赤版 819)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308195

作品紹介・あらすじ

人間の言葉や数を理解し、コンピューターを使うチンパンジー・アイ。そのアイに二〇〇〇年四月、息子・アユムが生まれ、同じ年、研究所内に二人の女の子も誕生し、すくすくと育っている。私たちの「進化の隣人」チンパンジーの心と認識の世界を探り、親子関係のあり方や世代を超えて伝わる文化など、人類の「心の進化」の起源に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 2002年刊行。京都大学霊長類研究所の天才チンパンジー「アイ」、その子「アユム」の観察記録とその解釈を記した一書。アイ関連の書はいくつかあるが、アイの子育てという新奇なテーマを扱っている点、アユムの成長を見ている点、簡明な新書という点で一読する価値は高い。ヒトへの進化を考える意味でも良書である。

  • 言葉を理解するチンパンジーのアイとアユムを育て、研究してきた著者が、チンパンジーとヒトの「近さ」を、分かりやすく解説している本です。

    言語の習得や鏡を使った自己認識、あるいは誤信念課題など、認知的な側面におけるチンパンジーの知能について、とくに詳しく紹介されています。また、「「素朴な信念」から「科学的理解」へ」という枠組みの中でではありますが、人間と他の動物との差異を改めて考えなおしてみることの大切さを、読者に問いかけています。

  • 本書はNHKの人間講座がもとになっている。番組を見ると松沢さんのすごさが分かる。チンパンジーのことばをあやつることができるのだ。まじめな顔をして、「オッオッオッ」とか「フーホーフーホー」などと言っているのを見ると、ついニヤッと笑ってしまう。本書ではいくつもの実験が紹介されている。チンパンジーのアイが数字を覚える、しかもちゃんと小さい順に並べられるとか、色と文字を一致させることができるとか。アイの子どものアユムがどんなふうに成長しているかもヒトの発達と比較して語られる。特におもしろい実験を2つ紹介したい。1つはカラーストループ効果というもの。実験はいたって簡単。赤・黄・緑という文字をそれぞれ緑・赤・黄など漢字の持つ意味とは違う色で書き表す。それを順に読んでいくというもの。これは大人にはなかなか難しい。ところが、色は知っているがその漢字を知らない子どもに言わせるとスムーズに言える。漢字を単に図柄として見ているからだ。アイにこの実験をさせる。すると、大人のヒトと同じようにつまってしまう。スムーズには答えられないのだ。おもしろい。もう1つは「心の理論」。他者の心を理解するような心を持っているかどうかを調べる。実験方法はこうだ。子どもたちにビデオを見せる。その中にまず男の子が現れる。その子は冷蔵庫を開けてジュースが冷えているのを確認する。その後部屋を出ていく。次に別の女の子が入ってくる。その子は冷蔵庫のジュースを出して横にあるかごの中に入れてしまう。そして部屋を出ていく。続いてはじめの男の子がもどってくる。さて、男の子はジュースを取り出すために冷蔵庫を開けるのか、かごを開けるのか。当然男の子はかごにジュースが入っていることを知らないから冷蔵庫を開ける。が、そういうふうに判断できるのは5歳ころになってからなのだそうだ。3歳では男の子の気持ちになって考えることができない。4歳あたりが境目だという。おもしろいことを考えるものだ。我が家の長男と長女にもビデオを見せて実験した。長男はちゃんと答えることができた。4歳である。長女は問題の意味が分からない。2歳だから仕方ない。さて、アイやアユムはどうなんだろう。残念ながらまだチンパンジーでは調べられていない。ヒトが分かるようなことばで表現することができないから難しいのだろう。うまい方法で調べてみてほしい。ヒトはその昔「太陽が地球の周りを回っている」と信じていた。それが今では「地球が自転しているためにそう見える」ということは子どもでも知っている。「チンパンジーはニホンザルよりヒトによほど近い存在だ。」このことを皆は普通に理解しているだろうか。だいたいしっぽがあるかないかの大きな違いがある。チンパンジーはモンキー(しっぽあり)ではない。ヒトやチンパンジーをエイプ(しっぽなし)と呼ぶ。このことを松沢さんはたくさんの著書を通じてうったえ続けている。そして、我々の隣人であるチンパンジーが減り続けることのないよう取り組まれている。読みやすい1冊です。本書を通してたくさんの人にチンパンジーのことをもっと知ってほしいと思います。

  • Tue, 13 Jul 2010

    松沢哲朗先生の名前は知らなくとも
    チンパンジーのアイちゃんのことはご存じの方もおおいだろう.

    人間が育てて,数が数えられる スーパーチンパンジーのアイちゃん
    京大霊長類研の研究である.

    筆者の並々ならぬ努力の上に,なりたつ,チンパンジーのフィールド調査,
    忍耐強い研究の結果から見えてくるチンパンジーと人間の近さ,
    そして決定的な違い.

    明和先生の
    「心が芽ばえるとき コミュニケーションの誕生と進化」
    でも,チンパンジーと人間の距離感は考えさせられたが,
    その先輩格にあたる本書では,チンパンジーの集団の持つ「文化」であるとか
    比較認知科学のもつ,魂のようなものが,感じられて興味深かった.

    人間とチンパンジーとロボットの三角関係の中に,知能の真理を探究するの道を興味深く感じた.

  • [ 内容 ]
    人間の言葉や数を理解し、コンピューターを使うチンパンジー・アイ。
    そのアイに二〇〇〇年四月、息子・アユムが生まれ、同じ年、研究所内に二人の女の子も誕生し、すくすくと育っている。
    私たちの「進化の隣人」チンパンジーの心と認識の世界を探り、親子関係のあり方や世代を超えて伝わる文化など、人類の「心の進化」の起源に迫る。

    [ 目次 ]
    第1章 心の進化の化石―チンパンジー
    第2章 出産と子育て―親子関係のつくられかた
    第3章 コミュニケーションと知性の発達
    第4章 自己認識と他者理解
    第5章 知性と教育の進化的基盤
    第6章 「素朴な信念」から「科学的理解」へ

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 人間とチンパンジーの類似性がかなり高いことに非常に衝撃を受けました。子供に至っては、もはやほとんど同じです。

  • 著者の松沢 哲郎さんはチンパンジーの研究第一人者で、チンパンジーを心と知の側面から研究しているひと。研究成果が実に整然とわかりやすくまとまっている。

  • ヒトとチンパンジーの発達を比較しながら、発達とは何か?を解かりやすく説明している一品!
    お堅い題名で、多少の専門用語が出てきますが、発達に携わる専門家のみならず、子育てをする親御さんまで、分野を問わずお勧めです♪

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著者プロフィール

京都大学霊長類研究所 行動神経研究部門 思考言語分野 教授 理学博士
1950年生まれ・1974年京都大学文学部哲学科卒業、大学院進学。
京都大学霊長類研究所助手、助教授を経て現職。

「2003年 『チンパンジーの認知と行動の発達』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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