エビと日本人 2 (岩波新書 新赤版 1108)

著者 :
  • 岩波書店
3.44
  • (8)
  • (17)
  • (35)
  • (3)
  • (1)
本棚登録 : 260
感想 : 31
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311089

作品紹介・あらすじ

前著から二〇年、「エビの現場」を追って、台湾、タイ、インドネシアなどの養殖池や加工工場を歩きつづけた著者が、豊富なデータを織り込みつつ、グローバル化時代のアジアと日本の風景を鮮やかに描き出す。世界中を「食卓基地」として、輸入に深く依存した飽食文化を謳歌する消費者・日本人に対する鋭い問いに満ちた最新レポート。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  本書は、グローバリゼーションと言う難しいテーマに対して、日本人にとって身近なエビからスポットライトを当てている。

     私たちが美味しく安いエビを求める結果、何かが犠牲にされている。
    大まかに言えば自然と人間である。
     現地では、マングローブ林が伐採されている。エビ養殖場やエビ加工工場などを建てている。伐採したマングローブは木炭として売る。人間にとって一石二鳥であるからなかなか止められない。
     また、そうして作られた工場で働く人間の労働環境も悪い。現地でエビにもっとも接する日雇い労働者から私たちにエビが届くまで、大きく分けて14の段階があるという(p.180)。本書では表立って言われているわけではないが、この14段階の中に、搾取が存在している。本書で少し触れられている悲惨な「マルシナ」の話は、搾取がもたらした最悪の結果である。

     私たちはこの14段階によって、その先にある現実をなかなか知る事が出来ない。「知らない」という事によって、知らず知らずのうちに、このシステムに加担させられている。

     著者は、こうした状況を打開する一つの案として、フェアトレード(いわば労働者と私たちを直接に繋げ、取次の”搾取分”を減らす)を挙げているが、それだけでは不十分だという。「北」のルールの中で「南」を助けるのではなく、「北」自身がルールを変えて行く先に、本当にフェア(公正)なトレードが実現するという事である。

     最初にも書いたが、グローバリゼーションとは実に多くの側面を持った、難しいテーマなのである。本書は、それをエビを通して痛感させてくれる。

    • 国中千鶴さん
      エビからグローバリぜーションを考えるって新しいですね。
      読んでみたくなりました。
      エビからグローバリぜーションを考えるって新しいですね。
      読んでみたくなりました。
      2012/06/02
    • ビリーさん
      これに似た話があります。

      我々が安価で缶コーヒーを飲める背景に、原産国ルワンダで、二つの人種による血塗られた内戦があったということ。

      『...
      これに似た話があります。

      我々が安価で缶コーヒーを飲める背景に、原産国ルワンダで、二つの人種による血塗られた内戦があったということ。

      『ホテル・ルワンダ』という映画で見ました。
      2012/07/17
  • 「新版 大学新入生に薦める101冊の本」に掲載されている92番目の本。
    エビを中心とした災害・環境破壊・食文化・労働・国際経済を、20年前に出版した前作と比較しながら解説する。「エビ」からグローバル化を見るという斬新な視点ではあるが、一方で日本人はエビに親しいと思いながら自分の食べているエビが何なのか分からないという事、どういう過程を経て食卓にのぼるかを思い知らされるという、身近な所で既に見落としている事にも気づかされる。「エビ」に惹かれて読みやすいと同時に統計データが幾つも出てきて信頼性がある、面白い本だった。

  • 本書は前作「エビと日本人」から約20年たって書かれた著作である。私達の多くは、食卓でエビに身近に接しているが、それがどこから、あるいはどのように届いたものなのか、生産から消費までにどのような人々が関わっているかについては考えることはないだろう。理由は単純で、日常生活においてエビのサプライチェーンについて考えなくとも、とくに影響をこうむるわけではないからであろう。しかし、本書は私達のエビの大量消費が間接的に遠い国の環境を破壊し、末端の生産者の生活に影響していることを知ったとき、果たしてそれを無視し続けることがモラルとしてよいのか、考えさせる本である。エビの問題は、大量の資源を一定以上とれば、それが環境・経済・社会に悪影響を及ぼす問題の一例に過ぎないが、身近な食材だけに、その影響の大きさをより感じる。

    著者は、1960年代から80年代にアメリカを中心として推進された「緑の革命」と、エビの集約養殖に見られる「青の革命」には共通点があると主張する。それは、どちらも技術で食物を大量生産し、収益を高めたが、その代償として環境を破壊し、末端の生産者の生活の糧を奪ってしまったという点である。エビの集約養殖は、エビの効率的な大量生産を可能にするが、一方で土壌劣化や排水汚染といった環境汚染を引き起こす。集約養殖を引き起こすのは、過剰な消費であり、日本の大商社はその需要を満たすために資金や技術を農民に提供し、次々と田んぼが養殖場に変えられていった。田んぼを所有する農民からすれば、水田耕作よりも収入の高い養殖場に変えるのは自然なことだろう。しかしながら、水田をもたない、末端の生産者が受ける恩恵は一日の生活すら満足に送られるかわからないほどに少ないことは珍しくない。

    本書から学ぶことのできる重要な点は、エビという一つのカテゴリーを越えて、食に関わる環境・社会・経済の持続可能性の問題を理解する共通の切り口があるということだと考える。上記の通り、閾値を越えた資源の消費は自然環境や生態系を破壊し、それを経済的な糧として生きる民の生活を危うくする。経済的な糧を失えば、彼らの社会生活にも影響があるし、健康リスクが高まる場合もある。このような問題で最も影響を被るのは、大抵の場合「南」の低所得者層であり、引き金になるのは「北」の消費者である。

    ただ、食の問題の場合、原因を挙げて、消費者やサプライチェーンの関係者を批判するのは簡単だ。著者自信も読者である私も消費者であるし、一部の人々が消費をやめたところですぐに問題が解決する話ではないからだ。それは著者自信が痛いほどに理解をしていることが、「北のいわば豊かな側が、南の貧しい側との間の経済格差や技術格差を差を利用して、ひたすらおいしいものにありつける構造は、やはり人間として気にかけなければならない問題なのではないだろうか」「おいしいもの、南の人とともにおいしくできる世界の仕組みを考え、その実現に向かっていこう、としか言えないのである」といった謙虚な主張に表れているように思う。結局、多数の消費者が生産と消費の関係を理解し、少しづつ持続可能ではない消費、しいては生産を変えていくしかない。そう思うと気が遠くなるが、問題を理解することが大きな一歩であると考える

  • おもろ過ぎる。まずタイトルが激アツ。エビと日本人「Ⅱ」だ。セカンドシーズン。Ⅰも読んでみたい。本書はスマトラ沖地震後に書かれた。初めの方では凄惨なルポも垣間見えた。個人的にエビはあまり食べないのだけど、エビはまさに「金のなる木」バナナや化石燃料と同等なのだ。エビで経済が学べる。日本はひたすら輸入して食べる側だから読むまでピンと来なかったが、アジア諸国が発展をしたのもエビの功績が大きい。他にはエビの種類ついて名前の表示は良い加減っていうのが面白かった。すぐ見分けが付くし、たとえ何のエビだろうが食べて美味しかったら良いのだ日本人は。あとアメリカ人もいっぱい食べるようになったのが大量消費に繋がるのだが、これについては「ヘルシー」というパワーワードの凄みを感じた。何がヘルシーかよく分からなくてもとにかくヘルシーは強い。

  • 本著は、「エビと日本人」の著者による20年ぶりの続編である。データのみならず、この20年間のエビに関わる状況は大きく変化した。著者は、自由市場主義の重要性を認識しつつも、資本主義がもたらす貧富の格差、特に南北問題を憂慮しているとともに、多産を促すために雌の目を切り落とすことに反対する等、エビに対する愛情を強く感じた。エビの輸出に際し抗生物質が使われるなど、エビは必ずしも安全な食品とは言えないとの記述も気になった。生産から消費に至る経緯、国別生産量と消費量、養殖、環境への影響等、エビに関する様々な最新の状況が理解できた。

  • 前著から20年だそうだが、20年たって書けることがこれだけなのか。というか根本的に詰めが甘くて学生のレポートレベル。エビの輸入統計での加工品の扱いを詰めずにダラダラ書くくだりでは読んでいて怒りを覚えた。先に整理しろと。数字などおかしなところも多い。校正が仕事をしていない。

    「台湾養殖業はさんざん日本に振り回されて腹は立ちませんか」と聞いて、「いまは海外市場は日本だけでなく世界中に広がっているのでどうとも思わない」とか言われたのが印象的だったとか。。。

    このゆるさの原因は「前著で書いたエビの入門的な情報は、この本位は最低限しか書くことができなかった。」ことだけではないと思う。



    世界のエビ漁獲高(含む養殖)1990年:263万t、2005年:610万t。海で獲れたエビは1.7倍、養殖は4倍近くに。種類別ではブラックタイガーが1位だったのが、バナメイが1位に取って代わった。ブラックタイガーも絶対量は増えているがバナメイに伸び率でかなわない。

    日本のエビ輸入量は1984年:14.3万t、1994年:30.5万t(これがピーク)、今はピーク時の85%くらいの一人当たり消費量。世界の貿易量は米・中による輸入を中心に増えているが。→アタマに書いたように加工品(冷凍食品とか)がノーカンになっているらしい

    バナメイは底だけではなく泳ぎ回るので水の容積で密度を考えられる。しかも耐病性が高い(今はそれどころでなくなったが)。ブラックタイガーは底を這うので面積が問題。

    エビ養殖が盛んになったのは台湾のブラックタイガーから。しかし台湾は病気でダメになった。やはり過密がいかん模様。

    インドネシアのエビ養殖でエラいのは倉庫を持っている人だと。水産業らしい。

    エビの片目を切り落として抱卵を促進させられるとか。ちと恐ろしい。

  • 2も読んでみた。データが1より新しく、養殖エビについて特に色々書かれている。20年経ってもトロール船でエビを獲り、雑魚を捨てるシステムは全く変わらない様子。あと気になるのはエビの頭。本では触れられていないけど、完全にゴミ扱いなのだろうか?エビ味噌美味しいのに…。

  • 安い物にはつい手が出てしまうけど、不当に安い場合、どこかにひずみがあるんでしょうね。

    地域や国による低賃金労働は過渡期として考えて、できるだけ早く経済格差が縮まるとよいなと思います。それがエントロピーの法則にも合っていると思うのですが、どうでしょうか。

    払ってもいい金額:500円

  • 資料ID:C0028486
    配架場所:本館2F新書書架

  •  経済学者がエビを通して語るグローバル経済。

     「エビと日本人」から20年。その間、日本人はエビを最も食べる国の座を追われた。作者は各国のエビの養殖場を訪ね、グローバル経済を現場から書いていく。
     食品偽装でバナメイエビが大きな話題になっている現在。日本人は他国から安く食料を買っているうちに自分達の食べているものが何か分からなくなってしまっているのではないかと、この本を読んで感じた。

全31件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1943-2013年。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程中退。上智大学外国語学部教授。早稲田大学アジア研究機構研究員教授を歴任。
著書: 『スンダ生活誌――変動のインドネシア社会』(NHKブックス、日本放送出版
    協会。2014年『インドネシア・スンダ世界に暮らす』と改題。岩波書店、岩波現
     代文庫)
    『小さな民からの発想――顔のない豊かさを問う』(時事通信社、1982年)
    『スラウェシの海辺から――もうひとつのアジア・太平洋』(同文舘、1987年)
    『エビと日本人』(岩波書店、岩波新書、1988年)
    『サシとアジアと海世界――環境を守る知恵とシステム』(コモンズ、1998年)
    『グローバル化とわたしたち――国境を越えるモノ・カネ・ヒト 』(岩崎書
     店、2006年)
    『エビと日本人Ⅱ――暮らしのなかのグローバル化』(岩波書店、岩波新書、
     2007年)
    『ぼくの歩いた東南アジア――島と海と森と』(コモンズ、2009年)
    『パプア――森と海と人びと』(めこん、2013年)
    『海境を越える人びと 真珠とナマコとアラフラ海』(共編著、コモンズ、201
     6年)

「2023年 『小さな民からの発想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村井吉敬の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×