本へのとびら――岩波少年文庫を語る (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
3.83
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本棚登録 : 2018
感想 : 261
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313328

作品紹介・あらすじ

「生まれてきてよかったんだ、と子どもにエールを送るのが児童文学」。アニメーション界のトップランナーとして世界的に注目される著者が、長年親しんできた岩波少年文庫の中からお薦めの五〇冊を紹介。あわせて、自らの読書体験、児童文学の挿絵の魅力、そして震災後の世界についてなど、本への、子どもへの熱い思いを語る。

感想・レビュー・書評

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  • 宮崎氏が幼少期あるいは大人になってから出会った岩波少年文庫本のレビューや彼自身の人生の振り返り、3.11以降の日本の未来について記されている。

    自分はジブリファンではなく、数ある作品群をマスターしているわけでもない。
    現在読み進めている別の本に本書のことが取り上げられており、そのための教材として手に取った。だからか(と自分で言うのもなんだが)著者のことや彼が生み出す創造の源泉を、先入観なく追うことができたと思う。

    あれだけの人気作品を世に出す人だから、難解な本を参考文献にしてそうな気難し屋の印象だった。
    読破後も気難しそう(&ちょいめんどくさそう?笑)なのは変わらなかったけど、本に関しては違った。難解な大人の哲学書や小説(「何でこんな残酷なものを人は読めるのだろう」)よりも児童文学の方が肌に合っているとの事で、子供の存在も決して見落とさない。
    何より「この世は生きるに値する」がモットー(らしい!)のジブリ映画は、「生きてて良いんだよ」と子供たちにエールを送る児童文学と深くつながっている。

    「この挿絵画家をアニメーターに起用するとさぞ凄かろう」と、アニメーターらしいコメントもされていた。
    彼の記憶に焼き付いている挿絵は、物語の核心に迫る場面のものではない。しかし自分の読書体験を振り返っても、挿絵で覚えているのは大抵些細な場面のものだったりするから不思議だ。(彼自身が影響を受けたと話すイラスト以外にも、何枚かジブリっぽいのが混じっていたのは偶然だろうか?笑)
    「(ヴィクトリア朝時代の挿絵について)単にカットとして入っているのではなく、絵にも物語が描いてあるから今となっては読み方に努力がいる」
    「単なるカット」とまではみなしていなかったものの、挿絵にここまで重要な役割が隠されていた(というか、こちらが気づいていなかった)ということが本書一番の発見になった。

    宮崎氏は「本は読まなければいけないものと思い込んでいた」と話しているが、その風潮は今なお浸透したままな気がする。自分も、今でこそ「読みたい本を読む」を目標に読書を楽しめているが、その感覚を掴むまでは義務感に縛られていた節があった。
    更に大人たちは「この本を読めば…」と期待を寄せるが宮崎氏曰く、実際には即効性なんてない。効き目というのは、何十年も経ってから気づくものだという。

    読みまくれば良いというものでもなく、むしろ幼少期に特別な一冊に出逢う方が大切だと最後に巨匠は説かれている。
    しかし思い返しても、心の支えにしている一冊がパッと出てこない…。それらしき作品は何冊か思い当たるけど、果たして「特別」と呼べるかどうか。
    「特別」を見定めない限り、本当の「本へのとびら」は開かれないのかもしれない。

  • 第1部の岩波少年文庫の50冊
    『星の王子さま』や『ドリトル先生航海記』など読んだ本もあるが、半分以上は未読だ。外遊びわんぱく時代には読書とは無縁だった。ホームズやルパンは夢中だったけど。気になるのは、『ハンス・ブリンガー』宮崎駿さんが敬愛する石井桃子さんの訳だ。
    第2部
    「電気がとまり、映像がとどかなくなり、情報がなくなったりすれば、当然ひどく不安になり・・・。それでも世界はあるんです。」という言葉が響く。
    嵐のような現実のうねりを見ようとしない日本。
    今ファンタジーをつくってはいけないという。
    それでも、児童文学は「生まれてきてよかったんだ」というものだという。
    何もかも無くしてからでは遅い。

  • あの宮崎駿氏が岩波少年文庫からお薦めの50冊を選び、それぞれにメッセージを添えられています。自分の思い出に因ったものもあれば、とにかく読め!というもの、自分は読んでないもしくは読めなかったけどいいはずだというものまで。
    挿絵についても言及されているのが、らしいなとも思ったり。E.H.シェパードがアニメーターになったらいいとか、「床下の小びとたち」の挿絵の印象など。様々な角度から岩波少年文庫を検証しまとめられています。
    謂わば岩波少年文庫の宣伝媒体なのですが、それでも読み物として面白く読めるというのは宮崎駿という人物の面白さなのでしょう。
    「児童文学はやり直しがきく話である」という言葉が印象的です。なるほどだから児童文学はつらく厳しい状況の物語でも、どこか希望を感じられるのですね。希望を感じさせる物語が児童文学だと思っていましたが、その希望の理由を知った思いです。
    もちろん「やり直しのきかない話」での児童文学の名作もあります。それでも子どもたちには希望を与えたいと思うのが大人なのかもしれません。「この世には面白いことがいっぱいある」そのことを子どもに伝えるのが大人の役割だとずっと思ってきました。それを後押ししてくれるのが児童文学なのだと改めて心に沁みいったのです。
    それは「3月11日のあとに」と題された最終章にも示されています。今児童文学を読んでいる子どもたちが新たな未来を築く。そのことをこんなにも力強く言えることが素敵だと思うのです。

  • 宮崎駿監督が自身の読書体験を基に岩波少年文庫から50冊をピックアップし、自身へのインタビューを収録したものです。「生まれてきてよかったんだ、と子どもにエールを送る」という宮崎監督の思いが伝わります。

    本書を読んでいる間に宮崎駿監督の最後の長編映画となった『風立ちぬ』が公開され、9月6日の宮崎駿監督引退記者会見が行われました。その宮崎駿監督が長年親しんできた岩波少年文庫の中から50冊を選んで紹介し、さらに自分の読書体験や、児童文学に収録されている押絵外貨に素晴らしいかを語り、『3・11』後の世界を語ったものをまとめております。

    『風立ちぬ』だけでも織り込まれている古典がトーマス・マンの『魔の山』。ゲーテの『ファウスト』。そしてダンテの『神曲』があり、あのハードワークの人生でいつ本なんか読んでいるんだろうか?というのが疑問でありました。その答えはアニメーターとして就職していた会社で仕事がなかったときに集中して岩波少年文庫に関しては読んでいたそうです。それは会社の書庫にあるものを読んでいたそうですが、おかげで鍵を管理していた女性から怪訝な顔をされていたそうです。

    さらにここでは宮崎駿監督が『当代一の絵描き』ということで、挿画についても詳細な解説が加えられております。僕は岩波少年文庫をそんなに読んでいたわけではなく、挿画についてもパッと見ていただけだったのですが、ここまでの解説をされると、『あ、そういう見方があったんだ!』という新鮮な驚きがありました。

    そして、この本の元になったインタビューが『3・11』後の世界に行われたものであり、『風立ちぬ』の製作に追われていたことを感じさせる言葉がいくつもあり、
    「「風が吹き始めた時代」の風とはさわやかな風ではありません。恐ろしく轟々と吹き抜ける風です。死をはらみ、毒を含む風です。人生を根こそぎにしようとする風です。」
    という言葉がとても印象に残っております。

    引退記者会見でも申しておりましたが、
    「生まれてきてよかったんだ、と子どもにエールを送る」
    その思いで自分は映画を作ってきたという宮崎駿監督の選んだ50冊の本は、読む人にとって何らかの形で『心の糧』になることは間違いないようです。

  • 岩波少年文庫から50冊を選んだジブリの小冊子を土台に、インタビュー素材をくっつけて新書にしたもの。子供のころほど純粋に読書を楽しめていない自分を振り返りつつ読んだ。

    読んだことがない本がほとんど。宮崎駿自身も大人になってから読んだ本を結構選んでいる。違う訳や出版社で読んだのが多いかもしれないが、自分が読んだことがある本(絵本版とかは除く)は、、、
    ・シャーロック・ホウムズの冒険
    ・注文の多い料理店
    ・海底二万里
    ・ロビンソン・クルーソー
    ・宝島
    ちょうど1割。トム・ソーヤーとかドリトル先生とか、有名どころもスルーしてしまっているなあ。こんど子供と一緒に本棚にある「星の王子様」でも読むか。

    後半のインタビュー部分は、しょせんインタビューと言うか取り留めのないような話だが、やはり言うことが深くて説得力がある。取りあえず、子供は変な格好で本を読むというのはその通り。石井桃子は別格との評価。あと、挿絵も大事だとか。

    最後の3.11は蛇足な気がした。これも同時代の記録と思えば、これはこれで良いのかもしれないが。児童文学は「やり直しがきく話」であると。子供に向かって絶望を説かない。

  • 恥ずかしながら、定番どころの児童文学をあまり読んでいません。
    なので、20代になってから少しずつ岩波少年文庫や福音館書店の児童書を読み始めました。
    本書を読んで、やっぱり私、児童文学を読んでないなぁ…と実感しました。
    でも、宮崎駿監督も20代から児童文学をたくさん読んだとのこと。
    私もまだまだこれからだ!

    児童文学は「やり直しがきく話」だと、宮崎さんは仰っています。
    ちょっと自分が不安定になっているときに児童文学を読みたくなるのは、それが理由なのだと思います。
    子供も大人も関係なく、読み手を励まし、前を向いて進むパワーをくれるのです。

    『アンドルー・ラング世界童話集』に興味がわきました。
    細かいところまで書き込まれた美しい挿絵も魅力的ですが、恐ろしいものを本当に怖く描いてあるところに、怖いもの見たさの好奇心がうずきます。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「児童文学は「やり直しがきく話」だと」
      良い話だ、若い人に知って貰いたいです(因みに私は、岩波少年文庫2冊買って小冊子を貰いました)
      「児童文学は「やり直しがきく話」だと」
      良い話だ、若い人に知って貰いたいです(因みに私は、岩波少年文庫2冊買って小冊子を貰いました)
      2012/03/12
    • すずめさん
      nyancomaruさん、こんにちは☆
      コメントありがとうございますっ!

      児童文学で描かれる「やり直し」は、ゲームでよくあるような全部リセ...
      nyancomaruさん、こんにちは☆
      コメントありがとうございますっ!

      児童文学で描かれる「やり直し」は、ゲームでよくあるような全部リセットしてはじめから、というやり直しとは全然ちがいますよね。
      失敗したりぐるぐると悩みながらも、それらをバネにして、えいやっと問題解決をしようとする登場人物たちに、気付かされることってたくさんあります。
      2012/03/13
  • アニメ-タ-・漫画家・映画監督の宮崎駿さん(1941- ) のお薦めする<岩波少年文庫>の50冊を推薦文を添えて紹介、併せて自らの読書体験や児童文学の挿絵の魅力など、本への、子どもたちへの熱い思いが語られている。〝本を読むと考えが深くなるとか、立派になる、なんていうことに拘るよりも、子どものときに、自分にとってやっぱりこれだという、とても大事な一冊にめぐり逢うことが大切だと思う〟・・・読書の面白さとは、自分の目でどういうふうに感じとり「生まれてきてよかった」と思える感動の本とめぐり逢えること。

  • 非売品だった小冊子「岩波少年文庫の50冊」(宮崎駿・選)を元にまとめた第一部と、3月の震災の前と後の2本のインタビューを元にまとめた第二部。

    第一部の扉を見ると、紙が黄ばんだ、ちょうど日に焼けた時の色で、そうそう岩波少年文庫ってこんな感じだよなー、とまず思う。カラーで、宮崎さんが選んだ50冊が紹介されているけれど、ここも同じヤケた紙なので、抜粋されたイラストが岩波少年文庫の1ページそのもののよう。

    大好きだった本がたくさんあって、うれしい。
    まだ読んでない本も少しあって、楽しい。

    第二部のインタビューで語るように、「つまり、みんな小人になっちゃった」んだな、と思う。
    でも、だからこそ、本が必要だ、とも思う。
    やり直したり、取り戻したりるするためにも。自分を失わないためにも。ただの楽しみのためにも。

    ここにあげられているもの、全て読みたい。全て読んでほしい。それも、子どもよりむしろ大人に。
    読書に疲れたり迷ったり煮詰まったりしたら立ち戻りたい、大事な1冊が出来ました。

  • 岩波新書 1332(2011年刊行)
    二部構成になっており、第Ⅰ部では、宮崎駿監督が長年親しんできた岩波少年文庫の中からお薦めの五〇冊をご紹介されています。
    一部をご紹介しますと、
    星の王子さま/バラとゆびわ/チポリーノの冒険/ムギと王さま/三銃士/秘密の花園/ニーベルンゲンの宝・・・思い出のマーニーや、床下の小人たちもありますよ。

    第II部の1「自分の一冊にめぐり逢う」は、本との出逢い、それから2人の大先輩の石井桃子さんと中川李枝子さんのことについてなどが書かれていて、それから「本には効き目なんかない、振り返ってみたら効き目があったということに過ぎない。」親が何か効き目を求めて読ませようとしてもダメだと。「子どもの時に、自分にとってやっぱりこれだという、とても大切な一冊にめぐり逢うことのほうが大切だと思いますね。」と語られています。
    2「三月一一日のあとにー子どもたちの隣から」では、東日本大震災以降の制作現場のことや、関東大震災、敗戦を乗り越えてこられた父親のことなどが語られ、「次の世代へ」で締められています。

    久しぶりに読み返し、愉しい時間でした。

    • まいけるさん
      宮崎駿さんのメッセージ、私も読みたくなりました。ありがとうございます。
      宮崎駿さんのメッセージ、私も読みたくなりました。ありがとうございます。
      2024/05/06
    • メメさん
      まいけるさんの本棚、楽しみに拝見しています。
      この本を開いてすぐに宮崎駿さんのイラストで、宮崎少年が縁側に寝転んで、読書する姿が描かれていま...
      まいけるさんの本棚、楽しみに拝見しています。
      この本を開いてすぐに宮崎駿さんのイラストで、宮崎少年が縁側に寝転んで、読書する姿が描かれています。
      次のページには、床一面に並べられた創刊以来の岩波少年文庫の横に正座されて、愛おしそうに愛でられている写真が掲載されています。
      こちらも幸せな気持ちになります。
      お薦めですよ〜☺️
      2024/05/06
  • ジブリの作品は、何もないところから生まれたわけではなくて、監督がこれまでに読んだ数多くの児童文学がベースになっていることがわかった。幼い頃はもちろん、大学の研究会で、アニメーターになったあとも勉強のために、ひたすら児童文学を読んだとのこと。ひとつの文化には、何かしら土壌になる文化があるんだなと思った。

    でもやはり、子どもの頃に読んだ作品の方が、強いインパクトで著者の中に残っている印象を受けた。大人になるとどうしても「勉強」の視点で読んでしまいがちなのかな。
    良質な児童文学ほど、教訓や思想などの大人の事情がなく、ドキドキしながらひとつの体験として楽しめるもの。

    自分もこういった名作たちに、純粋な心で出逢ってこれたらよかったのに、と思う。

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著者プロフィール

アニメーション映画監督。1941年東京都生まれ。学習院大学政治経済学部卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)入社。「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)で劇場作品を初監督。1984年には「風の谷のナウシカ」を発表。1985年にスタジオジブリの設立に参加。「天空の城ラピュタ」(1986)、「となりのトトロ」(1988)、「魔女の宅急便」(1989)、「紅の豚」(1992)、「もののけ姫」(1997)、「千と千尋の神隠し」(2001)、「ハウルの動く城」(2004)、「崖の上のポニョ」(2008)、「風立ちぬ」(2013)を監督。現在は新作長編「君たちはどう生きるか」を制作中。著書に『シュナの旅』『出発点』『虫眼とアニ眼』(養老孟司氏との対談集)(以上、徳間書店)、『折り返し点』『トトロの住む家増補改訂版』『本へのとびら』(以上、岩波書店)『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春ジブリ文庫)などがある。

「2021年 『小説 となりのトトロ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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