- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004313403
作品紹介・あらすじ
近代世界に入る清朝の困難な舵取りをした政治家・李鴻章(一八二三‐一九〇一)。旧式のエリート官僚だった彼は、内乱の平定に貢献して官界最高の実力者に登りつめた。二十年間、「洋務」「海防」を主導して外国列強と渡り合うも、日清戦争で敗北を強いられる。その生涯を一九世紀・清朝末期という動乱の時代とともに描き出す比類なき評伝。
感想・レビュー・書評
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清末の政治家である李鴻章を描いた歴史書である。個人がタイトルになっているが、個人の頑張りよりも李鴻章が活躍する背景となった清末の社会情勢に着目している。
清末は皇帝の個性よりも李鴻章ら臣下の存在が重要になる。それは清末の皇帝が能力的に劣ることを意味しない。人口の増大や経済の拡大によって皇帝の個人的能力で何とかする時代ではなくなっていた。
「乾隆帝が名君なら、あとを嗣いだ嘉慶帝、道光帝も、個人としてはいずれ劣らぬ名君であろう。しかし皇帝じしんの力量はもはや、問題ではなかった。前者の御代が「盛世」、後者が「衰世」なのは、旧体制が有効だったかどうかにほかならない」(69頁)。
道光帝は阿片戦争に敗北した皇帝として後世の評価は高くないが、阿片禁止を徹底した健全性は評価できる。道光帝の阿片禁止政策は後世において高く評価されるようになった。彼の勇気とリーダーシップは、中国の近代化と国家の再建において重要な一歩となった。彼の徹底した健全性と禁止政策は、中国人の意識を変え、国の未来に希望を与えた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB07359709 -
蒼穹の昴を読んで李鴻章に興味を持った。
李鴻章といえば歴史の授業では日清戦争後の下関条約の全権だった、くらいの知識しかなかった。
しかしその生涯は実に数奇なもので、斜陽の清王朝時代に生まれ、沈みゆく大国の舵取りを外交面でなんとか支えていた人物と言える。
彼のキャリアは太平天国の乱の鎮圧に始まり、義和団事件後の北京議定書に終わる。
彼が生きている間、辛うじて清という大国は持ち堪え、彼が死去した直後に文字通り崩壊する。
結局は終焉する国の運命を背負いながらも何とか自らの使命を全うした李鴻章を尊敬する。
もし生まれ落ちた時代が違っていたら、もっと華々しい成果を上げていた大人物だ。
ただ、人間の運命とは皮肉なもので、彼のように沈みゆく船の上でひたすらに生涯を全うした人もいる。
そこに歴史の諸行無常を感じる。 -
エピローグにある、旧式科挙官僚から実務官僚の第一人者にのぼりつめ、洋務の総帥として海防を主導し列強と渡り合う中で生涯を終えた、が李鴻章の一生を体現している。19世紀の中国を代表する政治家であることは間違いない。
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「李鴻章」岡本隆司著、岩波新書、2011.11.18
224p ¥798 C0222 (2017.09.06読了)(2017.08.31借入)
副題「東アジアの近代」
陳舜臣著「中国の歴史」全14巻、を読んだついでに近代日本にかかわりの深い李鴻章、孫文、袁世凱を読んでおくことにしました。手始めに李鴻章です。
李鴻章の軍隊は、私設的軍隊です。装備を近代化して強くしています。西洋の軍艦も購入しています。清の中央政府にはとてもできなかったことです。
日清戦争後の下関条約交渉の時は日本にやってきています。日本人の暴漢に襲われています。けがを負った後にも交渉の席に出てきています。
清朝にとっては、朝鮮、台湾、ベトナム、琉球、は直後に統治はしていないけど、属国ということで、支配下にはあるという扱いになっています。琉球は、日本の支配下にはいり、ベトナムはフランスの植民地になってゆきます。朝鮮、台湾も日本の支配下にはいり、満州も独立した国になってゆきます。
李鴻章は、この過渡期に立ち会ったことになります。
洪秀全 太平天国
曽国藩 師
【目次】
プロローグ―下関の光景
第1章 青年時代
1 生い立ち
2 黄昏
第2章 動乱のなかで
1 太平天国
2 幕僚の日々
3 転機
第3章 浮上
1 進軍の興起
2 督撫重権
3 「協力」の時代とその終焉
第4章 明治日本
1 清朝と日本
2 日清修好条規
3 台湾出兵から琉球処分へ
第5章 「東洋のビスマルク」
1 「海防」と「塞防」
2 朝鮮
3 ベトナム
4 「洋務」の運命
第6章 「落日」
1 日清戦争
2 親露への旋回
3 最後の舞台
エピローグ―新しい時代へ
あとがき
参考文献について
李鴻章略年譜
索引
●洋式装備(60頁)
李鴻章は上海に到着してまもなく、外国軍・常勝軍の作戦を目の当たりにし、その洋式装備、とりわけ新式鉄砲の威力に驚嘆、自軍の刀矛や火縄銃では役に立たないことを痛感した。そこで急速に装備の改善を進め、1863年中には、小銃はもとより開花砲(榴弾砲)をも配備して、淮軍は当時の中国で、最新鋭の武装を誇るようになったのである。
●琉球(113頁)
琉球は建国以来、明朝の朝貢国、「属国」であった。清代に入ってもその関係は続いていた一方で、17世紀のはじめ、薩摩藩の征服をうけ、日本にも属していた。
●台湾は化外の民(115頁)
日本の側は、清朝にとって台湾の「生蕃」は「化外の民」であり、統治外の存在だとの姿勢を明言した、とみた
●琉球処分(124頁)
琉球を沖縄県に編入した「琉球処分」は、清朝にとって衝撃であった。日清修好条規第一条はその過程で効力を失い、恐れていた「属国」の滅亡が、ついに現実と化したからである。
●海防(128頁)
「海防」とは字面だけなら、沿海の防衛しか意味しない。けれども当時は、海軍そのものの組織、それに必要な兵器・艦船、あるいは物資の購入・製造に加え、鉱山の採掘、鉄道・海運・電信などの通信交通手段の導入、さらには士官の訓練・技官の養成など、軍事的なインフラストラクチャーの構築事業も含んでいた。
●属国自主(140頁)
朝鮮は清朝の属国であり、内政外交は朝鮮の自主である
☆関連図書(既読)
「坂の上の雲(一)」司馬遼太郎著、文春文庫、1978.01.25
「日清戦争-東アジア近代史の転換点-」藤村道生著、岩波新書、1973.12.20
「日清・日露戦争」原田敬一著、岩波新書、2007.02.20
「中国の歴史(12) 清朝二百余年」陳舜臣著、平凡社、1982.12.15
「中国の歴史(13) 斜陽と黎明」陳舜臣著、平凡社、1983.03.07
「中国の歴史(14) 中華の躍進」陳舜臣著、平凡社、
「世界の歴史(9) 最後の東洋的社会」田村実造著、中公文庫、1975.03.10
(2017年9月13日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
近代世界に入る清朝の困難な舵取りをした政治家・李鴻章(一八二三‐一九〇一)。旧式のエリート官僚だった彼は、内乱の平定に貢献して官界最高の実力者に登りつめた。二十年間、「洋務」「海防」を主導して外国列強と渡り合うも、日清戦争で敗北を強いられる。その生涯を一九世紀・清朝末期という動乱の時代とともに描き出す比類なき評伝。 -
明治初期の東アジア情勢を説明するとき、常に朝鮮半島や琉球をバッファーゾーンとすべく立ち振る舞う日本の観点から見ることが多い。その一方で本書は朝鮮半島や琉球を清から奪う日本という形で、李鴻章から見た東アジアの姿を描く。
そこには日清で条約を結びながらも、一方的に琉球を編入し台湾に軍事動員をする倭寇のように脅威を伴った日本がいる。
李鴻章から見た東アジアの近代を新しく感じてしまうのは、日本から見た近代史にあまりに慣れすぎているからだろう。 -
近代世界に入る清朝の困難な舵取りをした政治家・李鴻章(1823-1901).旧式の科挙官僚だった彼は,太平天国の平定に貢献することで実務官僚の第一人者に登りつめ,「洋務」と「海防」を主導する.そして外国列強と渡り合うも,敗北を強いられる.清朝末期の時代と社会とともにその生涯を描き出す評伝.
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督撫重権は著者の造語のよう。近代にはいり巨大化、複雑化した中国を独裁的な集権で統治することはもはや不可能となり、軍権をももつ実質的な統治は各地方単位となり、それをシンボリックに結わえる北京という清の統治の状態をさす。
垂簾聴政と督撫重権、すなわち中央と地方のバランスのなかに李鴻章の立ち位置があった。
清末を概観する良書なれど、誤字脱字が目障り。岩波といえども校正に人員をむけられないのかしら。