現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317227

感想・レビュー・書評

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  • 山口周さんの「ビジネスの未来」という本に痛く感銘を受けたのですが、
    その時に主張のベースとなった本という紹介がされていたので、興味を持って読んでみました。

    ※ビジネスの未来
    https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4833423936#comment

    正直、「ビジネスの未来」を読んでいないときにこの本を手にとっても、
    自分の教養レベルだと「何のこっちゃ~」となっていたと思います。
    「ビジネスの未来」を読んで、大体の主張が想定できていたので、
    何とか読み進めることができました。

    正直、主張自体を理解するには、
    「ビジネスの未来」を読むだけで事足りるかと思いますが、
    山口さんがこの本にインスパイア―されて、
    「ビジネスの未来」という名著をを書いたその過程を想像するのは結構楽しかったです。
    自分なりのオリジナリティーのある主張を創っていく過程を空想するという読み方もできる本です。
    (そんな人あまりいないと思いますが。。)

  • 見田宗介氏(1937年~)は、現代社会論、比較社会学を専攻する社会学者。真木悠介の筆名でも多数の著書がある。東大の著者のゼミは抜群の人気を誇り、その出身者には、大澤真幸、宮台真司、小熊英二、上田紀行といった、現代日本を代表する思想家・社会学者がいるのだという。
    本書は、初出2011年の序章のほか、いくつかの著作、学会やシンポジウムでの講演内容に加え、本書のための書下ろしをまとめたものである。私はこれまで見田氏(真木氏)の著作に縁がなかったのだが、本書の題名と上述のような構成から、著者のこれまでの論考のエッセンスがまとめられたもの、即ち「集大成」と考え、手に取った。
    本書の論旨は以下のように明快である。
    ◆人間は、地球という有限な環境下に生きる限り、生物学でいう「ロジスティック曲線」から逃れることはできない。人間はこれまで、原始社会<定常期>から、カール・ヤスパースのいう「軸の時代」(古代ギリシャで哲学が生まれ、仏教や儒教が生まれ、キリスト教の基となる古代ユダヤ教の目覚ましい発展があった時代)<過渡期>を経て、文明化による人口増加<爆発期>を経験してきたが、近代はその<爆発期>の最終局面だったのであり、現代はその後に訪れる<過渡期>、即ち未来社会<定常期>への入り口にある。
    ◆それは、人間は、「軸の時代」以降、貨幣経済と都市社会の勃興を前に、世界の“無限性”を生きる思想を追求し確立してきた(その究極の姿が資本主義であろう)が、現代において、グローバル化が極限まで進み、環境的にも資源的にも、人間の生きる世界の“有限性”を生きる思想を確立しなければならなくなった、ということである。
    ◆そして、その思想とは、経済成長を追求しない、生きることの目的を未来に求めない、他者との交歓と自然との交感によって「生のリアリティ」を取り戻すことである。
    ◆その思想は、シンプル化、ナチュラル化、素朴化、ボーダーレス化、シェア化、脱商品化、脱市場経済化という現象として現れつつあり、価値観調査における若い世代の幸福感の増大のような結果も併せると、新たな世界が広がりつつあると言えるのかも知れない。
    これは社会学者・広井良典氏のいう「定常型社会」と共通するものであるが、私はこの思想に深く共感を覚えるし、人類の進むべき方向はこれしかないと考えている。しかし、現実に目を転じると、政治家は「一億総活躍社会」などとぶち上げて「経済成長」を錦の御旗にし、少なからぬ人々が「経済成長」の呪縛に捉われたままである。現在の課題と進むべき方向が明らかな今、どのようにしてそれを実現するのかにこそ、人類は知恵を絞る必要があるのだと思う。我々に残された時間は多くはない。
    (2018年9月了)

  • 鶴見俊輔さんから、連綿と続くポジティブでラディカルな道が伸びていく。

    よく考えればわかること、がなかなかわかられなくてそちらの方向に行かない。

    2022年に読んでも新しいというか、10年前から見据えておられたことが今やっと一部の人にとどき共感とひっ迫を持って今まさにの感性として受け止めらる。
    よく考えればわかることなので10年あればラディカルにもポジティブにもリベラルにも進んだであろうによく考えない人よく考えない人に支配されているクニ、セカイ。

  • 増殖する欲望の終着点を私たちは探らなければいけない。
    倒さなければいけない敵ではなくて、高歓し得ることのできる相手として捉えたい。
    共存共栄を今後実現できるのではないかと少しポジティブに未来を見つめることができた。

  • 日本人の意識の大きな変化として,①近代家父長制家族の解体,②生活満足度の増大,結社闘争性の鎮静,③魔術的なるものの再生 を挙げている.地球という限られた空間に住む現代人は,未来を失っているとも述べている.これらの事象はp122-123に上手く集約されていると感じた.曰く「日本の青年たちの価値の感覚が,シンプル化,素朴化,ナチュラル化という方向に動いていること,フランスの急速に増大している"非常に幸福"な青年たちの幸福の内容を充たしているのが,他社との交歓と自然との交感とを基調とする,"幸福の原層"の素直な解放であるということは,環境容量のこれ以上の拡大を必要としない方向で,無数の"単純な至福"たちの一斉に開花する高原として実現するという方向で,生きはじめているように思われる.」これからの生き方の指針として,肯定的であること,多様であること,現在を楽しむということ の3つ,それぞれ英語ではpositive, diverse, consummatory.考えさせられた.

  • 2021.10.13 久しぶりに見田先生の本を読んだが感銘を受けた。とてもとても頭の整理がついた。これからの大きな糧になった。いろんな方にも勧めたいと思う。心からありがとうございますと言いたい。

  • 子育てで迷った時に読みたい本。

    他者との交歓と自然との交感をたくさん経験させてあげよう。
    positive 肯定的であるということ。
    diverse 多様であること。
    consummatory 現在を楽しむ、ということ。
    自分自身でも大事にすることで子どもに伝えたい姿勢。

    自分の親たちやさらにそのずっと前から無限を信じて築いてきてくれたもののおかげで生存のための物質的な基本条件の確保が達成され、それによって「現代」だけに固有の、二重のリアリティの喪失という経験をするが、有限と向き合い解放を実践することで、自分がここに一つの花を開かせることができるかもしれない。

    私は宇宙への興味や挑戦する勇気もなければ、原子に造詣が深くもない。だからこれからの未来に何もできないのかというと、そうでもなさそう。
    私にも私の思考と行動で一つの胚芽を作ることができる。そう前向きに励ましてもらい勇気までもらった。

    ”今ここに一つの花が開く時、すでに世界は新しい。”
    なんて美しい言葉なんだろう!

  • f.2018/7/6
    p.2018/6/24

  • 筆者によれば、原始社会から、「貨幣」と「都市」という新たな発見によって近代化と人口増大を果たしてきた人類が、ポスト近代に入り、「成長の限界」論に見られるような「世界の有限性」による人類史上第二回目の変曲点を迎えているという。

    このような大きな変曲点にあっては、これまでの成長局面で信じられてきた多くの価値観や生き方が、転換を迫られる。また、それにより生きる意味の喪失や疎外感が、社会の中に蔓延することも起こり得る。それらは、現代がこのような大きな変曲点に立っているということを前提に考えると、決して不可解なことではない。

    20世紀にはこれらの閉塞感を打破するべく、「革命」という形で様々な社会変革が試みられた。しかし、筆者によれば、それらは以下の3つの要素を持っていたために破綻した。

    ①否定主義(とりあえず打倒)
    ②全体主義(三位一体という感覚)
    ③手段主義(終わり良ければすべてよし)

    これに対して、21世紀の我々は、新しい世界を作るための新たな公準として、以下の3つを重視すべきであると筆者は述べている。

    ①positive 肯定的であること
    ②diverse 多様であること
    ③consummatory 現在を楽しむ、ということ

    緩やかではあるが、前向きな提言であると思う。

    筆者は、前回の変曲点は紀元1世紀から6世紀ごろまでの約600年をかけて達成されたものであるという。それを考えれば今回の変曲点も、数百年の時間をかけて形になっていくものであるという。

    筆者の述べている緩やかな転換への公準を大切にしながら、着実に歩んで行きたいと思える本であった。

  • 新たな時代には新たな生きる指針を、という趣旨ながら、目指すべきはユートピア…みたいな話になってしまっているし、ロジックの飛躍や、深掘りが足りないと感じることが多々あり、少しがっかり。30年前と現在の30代の志向の比較は面白かった。

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著者プロフィール

1937年生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。著書に『まなざしの地獄』『現代社会の理論』『自我の起原』『社会学入門』など。『定本 見田宗 介著作集』で2012年毎日出版文化賞受賞。東大の見田ゼミは常に見田信奉者で満席だった。

「2017年 『〈わたし〉と〈みんな〉の社会学 THINKING「O」014号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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