ドキュメント 異次元緩和──10年間の全記録 (岩波新書 新赤版 1997)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319979

作品紹介・あらすじ

世界的に例を見ない政策の舞台裏を徹底検証。黒田東彦日銀総裁の誕生秘話、「二並び」の背景、リフレ派の暗躍、知られざるドル危機の真実、唐突な政策修正の謎、YCC終結をめぐる攻防、初の学者総裁選出の経緯など。初めて開示される事実の数々から、当局者たちの思惑や動向、苦渋の決断に至る様が生々しく浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  • 第2次安倍政権は2012年12月26日に始まり、安倍元総理の体調不良による2020年9月16日の辞任まで、約8年間続いた。安倍政権の経済政策は「アベノミクス」と呼ばれた。それは、①異次元の金融緩和②機動的な財政政策③民間の成長戦略という、いわゆる「三本の矢」から成っていた。本書は、そのうちの、「異次元の金融緩和」を扱ったドキュメント、ノンフィクションである。「異次元の金融緩和」は、日銀総裁に黒田東彦氏が就任してから始まった。それは、2%のインフレターゲット・物価上昇目標を置き、その達成に向けて、日銀が、ほとんど無制限に国債やETFを購入し、国のマネーサプライを増やすこと、すなわち、貨幣の価値、円の価値を下げる(お金の価値を下げてモノの価値を上げることにより物価を上げる)ことを目標とした。それは、安倍元総理が辞任した後も、黒田総裁在任中は継続した。昨年、日銀総裁が、黒田氏から植田和男氏に交代したが、植田氏は「金融緩和は当面継続する」と言いつつ、出口を探っているように伺える。

    異次元金融緩和を含めたアベノミクスについては評価が分かれる。大きく評価する人もいれば、そうでない人もいる。本書の筆者は、「評価するには時期尚早」「これからの日本経済の状況を見て判断すべき」との立場である。私自身は、「今のところ、成功したとは言えない」と思っている。
    安倍政権下での平均経済成長率は1.1%、物価上昇率は1%に満たず、生産性の伸びは鈍化した。もともと、アベノミクスは、バブル崩壊後の日本経済の低迷、いわゆる「失われた20年」を取り戻すことを目的とした経済政策であったはずだ。しかし、その間の経済成長データ等をグローバルに比較すると、GDPはドイツに昨年抜かれ、平均年収では韓国に抜かれ、労働生産性はOECD38カ国中の29位と低迷している。すなわち、アベノミクスは日本経済の低迷を改善することが(少なくともグローバルな経済比較データから見る限り)出来なかったと言って良いと思う。
    私自身が、以前から「ひっかかっている」ことは、異次元金融緩和のターゲットは2%の物価上昇だったのであるが、そのターゲット自体が意味があったのかということだ。ウクライナでの紛争等を受けて、昨年来、物価上昇が続いている。それは、ターゲットの2%を超えている。しかし、それで何が起きたのか、ということだ。物価上昇率に所得上昇率が追い付かず、実質国民所得はむしろ減っている状態が続いている。物価が上昇しても、良いことは、今のところ何も起こっていない。もちろん、今後の賃金上昇等を通じて、国民所得が物価上昇率を超えて増加していく可能性もあるが、それであれば、ターゲットは「実質国民所得の増加」であるべきであり、「2%の物価上昇」とすべきではなかったのではないかと思える。
    更に、異次元金融緩和は、今後の副作用が非常に大きそうである。まずは国債の利払い。23年度末の日銀の保有国債残高は576兆円。今後、金利は上がるしかない局面にあるはずであるが、金利が上がれば上がるほど、日銀の含み損は増えていく。また、国家財政は完全に規律を失っている上に、国家財政の利払い費も増え、予算の柔軟性を奪うことも心配される。ビジネスの側面でも、銀行の貸出金利が1%に満たないような時に、企業は利益率1%の事業でも生きながらえることが出来る。そのような投資案件が多いと、当然ながら、経済成長は起きにくい。むしろ、これから金利が上がった時に破綻する、しかし、今は生きながらえているゾンビ企業を沢山つくったのではないかとも思う。

    本書は、そのような経済的側面を解説するというよりも、例えば総裁人事・副総裁人事、あるいは、個々の政策がどのようなプロセスを経て決定していったのか、等の、物事の政治的側面を追ったドキュメントだ。それは生臭いと同時に、多くの妥協の産物であることが示されている。アベノミクス、異次元金融緩和を、そのような人間ドラマとして読むのも面白いものだと思った。

  • 2024年4月9日図書館から借り出し。
    冒頭50頁ほどを読んだだけでも、物事を好き嫌い・面子だけで判断し、国内経済を黒田日銀とともにグチャグチャにして、東アジアの外交まで危機的状況に陥れた安倍政権の思想的浅薄さがよくわかる。

    夕方から寝るまでの間に読み終えた。
    これまで新聞報道だけでなく、白川氏の回顧録等で目にしてきたこともあるが、時系列的に出来事を整理してくれているので読みやすい。
    国威発揚を願った安倍晋三が、自国通貨の価値を低め、富裕層のために超低金利を演出して、中韓を含めアジア各国から買い物と観光に訪れる国に成り果ててしまった。同時に輸入インフレで、あっという間に2%を超える物価上昇は達成できた。黒田氏とともに、経済失政に名を残すだろう。

  • うーんつらい。政治主導による経済運営によって異次元緩和、マイナス金利、YCCと自ら進んで金融実験のモルモットになってしまった我が国はどうなるんでしょうね、これから…
    日銀総裁人事を巡る攻防とか面白エピもたくさん載ってるよ

  • 2024/04/01

  • 本日(2024.03.19)、マイナス金利政策に終止符が打たれました。

    「期待を変える」はずだった異次元緩和が、いつの間にか「期待が変わりにくいから効果が出ない」というストーリーに変わっていった(本書からの引用)。

    タイトルから『難い』内容だと思われそうですが、日銀の異次元緩和の舞台裏を記録したもので、たいへん面白く、おすすめです

  •  『ドキュメント異次元緩和』。黒田日銀の果たした役割がよくわかる一冊。2013年に日銀総裁に就任した黒田東彦氏。2%のインフレ目標を掲げ、金融緩和を一貫して続けた。過去の常識を覆す大量の通貨供給で物価を押し上げ、日本経済を再生させようとした「異次元緩和」は安倍元首相の看板施策アベノミクスの原動力であり、稀有な金融実験でもあった。しかし、10年が経過しても目標には到達できず、異次元緩和はそのまま常態化した。現在の植田日銀の施策を見る上でも参考にしたい、そんな黒田日銀の足跡である。

  • 非常に中立的で客観的に異次元緩和の振り返りが出来ます。政界、日銀、企業関係者などの人事などを巡る動きは参考になります。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/570749

  • 配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
    https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01425917

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著者プロフィール

西野智彦
1958年、長崎県生まれ。慶應義塾大学卒業後、時事通信社で編集局、TBSテレビで報道局に所属し、日本銀行、首相官邸、大蔵省、自民党などを担当。主な著書に『検証 経済失政』『検証 経済迷走』『検証 経済暗雲』がある。

「2019年 『平成金融史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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