- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784005006731
作品紹介・あらすじ
メディアが流す情報を鵜呑みにしていては、社会の真実は見えてこない。9・11以後のアメリカで、人々の恐怖心と競争を煽ってきたメディアの実態を実際に体験し、取材してきた著者が、「情報を読み解く力」を身につける大切さを若い世代に向けて解説する。同時にそこにこそ"未来を選ぶ自由"があると説く。
感想・レビュー・書評
-
社会の真実の見つけかた
著:堤 未果
紙版
岩波ジュニア新書 673
メディアが流す情報をうのみにしていては、社会の真実は見えてこない
情報を読み解く力を身につける大切さを語る書です
■戦争
同時テロ以降のアメリカは、どうも、戦前の日本のようだ
治安維持法のような法案ができ、戦争に反対の意見は、封じ込められて、戦争反対者は逮捕され、拘留される
どの国でも、戦争開始直前の報道には、自由、民主主義、解放、正義、報復、自衛などの言葉がちりばめられる
そして、相手側には、理屈の通じない、悪魔のような、非道な、といった表現が使われる
テロに対する深いショックと怒りが高まるほどに、祖国への強い愛が湧いてくる
テレビも新聞も、テロリストの恐怖、そして、3000人の被害者と遺族についての情報を洪水のおゆに流し続け、みな恐怖に呑み込まれ、他のことは考えられなくなってしまったのだ。
「死の商人」とよばれる軍需産業にとって、恐怖はもっとも親しいパートナーになる
米国が戦争を始めるときは、いつもそうだ、米西戦争、太平洋戦争、そして、9.11テロも。
その裏にあるはずの歴史や、民族や、政治的利害関係のような複雑なところに目を向けなかったことが、大きな間違いだったと思う。
あの時のアメリカの国民に選択肢などなかった。
テレビや新聞、ラジオがふりまいていた情報は、敵、か、味方、か、善、か、悪。
手の中のカードは、戦争vs平和、ではなく、戦わず自由を奪われるか、自由を取り戻すために戦うか、の2枚しかなかったのだから。
■教育
全米に広がる教師のインチキ合戦
教師による大規模なカンニング事件がおきていた ⇒子どもたちの成績によって特別ボーナスがでるから
アメリカ国内の公教育が荒廃し続けているのは、現場の教師の責任だろうか
⇒ 教育が国の責任であるという議論が抜け落ちてしまったからです
肥満児が?なぜですか?
⇒ 体育の時間が大幅に減らされたからです。学力テストに関係ないから
行き場のない親たちの不安やストレスが、教師に向かうということです。
テスト至上主義や罰則だけで厳しくしても、結果がでないばかりか、教師や親、そして、最終的には子どもたちを追いつめてしまう
7年でかけ金が2倍になる投資「チャータースクール」
オバマ大統領の「予算獲得レース」の条件で最も大きな目玉は公立高校の民営化だ
チャータースクールは、投資先としては優良の商品ですね
2008年、ブロード基金とゲイツ基金が共同で6000万ドル出資した教育キャンペーンの柱は、
授業時間の延長と、能力給方式の強化だった
かつて、チャータースクールは、市民運動のひとつだった
今は違う 巨額の資金と市場原理に後押しされ、何千ドルもするスーツで国会に出入りするロビイストたちを抱える巨大な産業のひとつになってしまった
■メディア
テレビ社会のアメリカでは、日本のように新聞を読む習慣がない
⇒ でもある時から、テレビが流す情報について疑問をもつようになったんです
世界中のニュース報道を比べてみる
⇒ ウィキリークスのハッカーたちは、ネット情報の最大の弱点が情報の信頼性であることをちゃんと知っていた
偏った見方にならずに、全体像をつかむにはどうすればいいのか
⇒ まず手始めに、各メディアのニュースに注目すると良い
アメリカでも記者が現場に行かず記事を書くケースがふえている
⇒最大の理由は会社側の経費削減ですが、自分の足をつかって現場に行くより通信社からの情報で書くほうがらくだから
情報の信ぴょう性をだれかが保証したとしても、それらが本物かどうかは、自分で調べなければならない
インターネットとは、単なる進化した道具の1つであるということだ
インターネットの情報は単なる材料の1つでしかない
ワイドショーやスキャンダルは、重要ニュースとセットになって出てくるとみるべきでしょう
憲法改正レベルの重要法案の成立のニュースは、アイドルの逮捕報道にかき消された
■社会は変えられる
しあわせになりたきゃ、選挙にいけ
高齢者たちが政治家に圧力をかける道具が数であれば、若者だって負けていないはずだ
違いがあるとすれば、自分たちの世代が、不信感からすぐに選挙に行かなくなるのに対し、高齢者たちは、けっして途中であきらめない
社会を変える力をもつのは、いつだって、あきらめず、投票をし続けるグループだけだ
代議士だって、ちょくちょく顔をみにきてくれるような相手のほうを大事にするにきまっている
そういう相手の為に動けば、見返りもあるし、充実感も得られる
一生懸命自分を売り込んでも肝心の選挙の日に投票にも来てくれないような相手に何かしたいと思うか
選挙に来ない若者や政治に無関心な連中は、政治家たちにとって都合のいい透明人間と同じなんだよ
彼らは選挙が終わっても、引き続き、そのテーマについての状況を会報やホームページに載せ続ける
それを改善するために必要な法改正はこれとこれで、今この時点にいますという具合に、ひと目でわかるように工夫されているのだ
選挙と選挙の間こそ本番なのよ
社会を変えるためには、ある一時期だけ燃え上がるだけではだめなの
毎日の生活の中でその火を絶やさないようにする地道な努力の積み重ねがある日大きな結果を出すんだから
最高の投資商品がある、それは、若者への教育です
インターネットが国境を消しつつある今、語学力は何よりも最大の武器になる
英語だけは、簡単な文章を読めるくらいにしておこう
目次
第1章 戦争の作りかた―三つの簡単なステップ
第2章 教育がビジネスになる
第3章 メディアがみせるイメージはウソ?ホント?
第4章 社会は変えられる
あとがき
ISBN:9784005006731
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:224ページ
定価:940円(本体)
発売日:2011年02月18日第01刷
発売日:2016年05月16日第11刷詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『社会の真実の見つけかた』感想
■著者の講演を聴いて
堤未果『社会の真実の見つけかた』(岩波ジュニア新書、2011年)を読んだ。
つまに連れられて行った保育の集会で堤未果さんの講演を聴いた。すごくいい講演だった。機会がある人は一度だまされたと思ってこの人の講演を聴いたほうがいい。
『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)の人だと言われて「ああ」とは思うけど、読んだことはなかった。講演を聴いたあと、この人の本はとにかく一冊読んでみようと思った。
最初の一冊としてこの本を選んだ。「『情報を読み解く力』を身につける大切さを若い世代に向けて解説する」と紹介文にある。
■酷いことになっているアメリカの真似を日本は今しようとしている
4章立てで、前半はアメリカの戦争と教育の実態を描いている。インタビューの語りを入れながら、背後の社会情勢を解説していく。読みやすいのだが、書かれている内容があまりに衝撃的で読み進めるのがしんどかった。
戦争と教育と貧困はつながっていて、アメリカの人材育成の機能はズタズタになっていることがわかる。そして、日本も同じ方向に行こうとしている。
競争原理と民営化を導入するアメリカの教育破壊の論理は、橋下徹が大阪府で推し進めているものにそっくりだ。その取り組みを絶賛する市民の姿までそっくりなのだ。
橋下を絶賛する人は一度堤さんの本を読まなければならない。彼女の本を読んでなお橋下を熱烈に支持し続けるかどうかを考えて欲しい。
■もっとジタバタしなければ
後半のテーマはメディアについて。
第3章ではメディアについて。経済と密接につながるマスメディアの偏向の構造と、インターネットの影響力、メディアを活用する視点について書かれている。
第4章では、アメリカの若者たちが始めた新しい取り組みが紹介されている。ここに来てようやく希望が持てる。一人一人が言葉を発し、つながりを広げていけば明るい未来は作れる。その可能性を感じられた。
Twitterという簡単に始められるSNSのおかげで、いろんな人の意見を知り、いろんなことを考えられるようになった。自分の意見を小さいながら発信することもできるようになった。まずはTwitterでいいから一人一人がジタバタしてこの状況から抜け出そう。ちゃんとそれが現実を変える力につながっていくはずだ。
岩波書店紹介ページ http://www.iwanami.co.jp/hensyu/jr/toku/1102/500673.html -
戦争の作り方
教育が ビジネスになる
メディアが見せるイメージは 嘘本当
社会は変えられる
米国での例が挙げられているが 日本も近い将来こうなるのか -
中1の娘に薦めようと思って事前に読んでみた。
自分にとっては分かりやすく、意識を変えるきっかけになったが、中1の娘には少し難しいトピックスが多く、興味を持って貰えなかった。良い本なのでまた機会を改めて薦めようと思う。 -
著者は、『貧困大国アメリカ』の堤未果さん。
メディアが流す情報を正しく読み解く力を身につける大切さを、若い世代に向けて解説した本。
興味深かったのは、第1章「戦争の作りかた」と第2章「教育がビジネスになる」
ブッシュ大統領がはじめた「テロとの戦い」をさらに進めたオバマ大統領がノーベル平和賞を受賞したのってやっぱりおかしい。
「アフガニスタンに増兵しながらノーベル平和賞」(p.144)と皮肉を言われるのもやむなしと思う。
「学校で好きなことを学んだり、けがや病気をしても請求書の心配をせずにすぐ病院に行かれたり、真面目に働けばいつか好きな人と結婚して子どもを持つことができる、そんな普通の人生が、“高望み”だって言われる社会に住んでいる子どもは、それを手にする方法がひとつしかなかったら絶対に手をのばす。たとえそれが“戦争”であっても」(p.51)
教育に「競争原理」を導入することは絶対にしてはいけないと自分は思っている。
「子どもたち一人ひとりの個性を伸ばしてやり、何があっても自信を持って堂々と生きていかれる人間として、教え子たちを社会に送り出」したい(p.77)、それが教師の願いなのであって、決して「テストでいい点数を取るためのロボット」を作り出したいわけではない。アメリカで「落ちこぼれゼロ法」(2002年)が施行された後、テスト中に教師が歩き回って解答を教えているという実話(!)には笑ってしまった。これが人間の真理というものだ。
ただ1つだけ!本書の中の「教師だってほめられたい」(p.92)という部分だけは自分と意見が異なると思った。少なくとも自分は、「ほめてほしい」とか「感謝されたい」と思ったことはない。生徒をきちんとほめてあげられる教師になりたい、ただそう思っている。
点数で見えない部分、お金にならないことにどれだけ心と時間を傾けられるかというのが、今後自分が追求していかなければならないことだと思った。
あとがきにある次のことばに、本書の作者の思いが集約されている。
「教育が人間を育てる種まきだとしたら、すぐに結果が出なくても、その子の中にある善きものが機を熟し花開くのを信じて待つ余裕を、先生や親たちが持てるかどうか。その環境を整えることが、国や行政の役目だろう。競争で追いたて、数字で切り捨て、市民をモノのようにバラバラにする社会では、種は枯れてしまう。
私が出会った大人たちは、それをちゃんとわかっていた。真実を教えることよりも、それを自分で見つけるやり方を教える方がずっと大切だということを。「待つ」ことの価値が、決して数字で測れない大きなリターンをもたらすことを」 -
『ルポ貧困大国アメリカ』の著者。
ジュニア新書と侮るなかれ、読みやすさがちゃんと内容と向き合わせてくれる。
イラク戦争とアメリカの貧困の関係。
9.11後の一色化された報道。
徴兵を担うリクルーターと、彼らの甘言に未来を託さざるを得なかった若者たち。
国を想う気持ちは、ともすれば国自身が創り出した幻だったとしたら。
民間人をも殺めてしまう、そんな正義の闘いの裏側には、ゲーム化して笑い飛ばさなければ自分の心が保たない苦しさが漂っていた。
ボタン一つで見えない世界を崩壊させられるのは一部の狂った権力者だけで、その末端には今尚、身体を使って戦地に赴く兵士達が沢山いる。
そして彼らは自分自身を社会復帰しようがないマーダーだと話すのだから、切ない……。
軍事の面でも、教育の面でも、インタビューには日本を羨む声があった。
だけど、私が一番驚いたのは、日本とほとんど変わりないじゃないかということだった。
公教育にサービスや結果だけを重視し、ノルマをクリア出来ない学校や教員を淘汰する。
教員はクビにならないために生徒の成績を誤魔化したり、成績を上げるためだけに労働時間の増加と、サービスを求める保護者の声に対応することに追われていく。
学生は大学に行っても学費ローンの増額が負担になり、社会人になった瞬間に経済的自立が破綻してしまうシステムを背負わされる。
政治は、声をあげない若者よりも、マジョリティである高齢者に有益な機能ばかりを整える。
そこで、若者の武器としてインターネットやスマートフォンがあるのだから、見る目を養って自分で真実を見いだすべきだという繋げ方をしていく。
この結論については、考えよりもモノに傾きがあるように思わなくもないが……子ども達が守られる側から、自分自身を守る側に移るためには、何を持っていなければならないのかが書かれている。
良かった。 -
これはこれで、著者の思い入れ的バイアスが結構掛かってそうだったから、その辺り
を割り引いて消化する必要があった -
9.11テロ後、イラク戦争に突き進んだアメリカ、テレビも新聞も、国全体が敵か味方か、全か悪かしかなかった。落ちこぼれゼロ法、生徒の試験点数で教師や学校を競争させ、評価で予算が決まる。ウィキリークスをスルーする大手メディア。
若者向けに書かれています。若者がんばってほしいです。