森と山と川でたどるドイツ史 (岩波ジュニア新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005008179

作品紹介・あらすじ

豊かな森、そびえ立つアルプス、縦横に流れる川-その自然を抜きにドイツという国は語れません。なぜ魔女狩りやユダヤ人迫害が起きたのか?工業で栄えた理由や音楽が盛んな背景は?どうして名物がビール・ジャガイモ・ソーセージ?自然を切り口に歴史をたどれば、こうした謎が解けてきます。歴史や国民性の概観に最適!

感想・レビュー・書評

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  • 正直なところ、時代の統治者の名前やその時代の領土の変遷にはついていけない(笑) でも3つの川についてはしっかり頭に入ったぞ。ライン川巡りの旅行は年寄り向け、何が良いんだろうと思っていたが、今はぜひ行って要所となった歴史を味わってみたい。ドイツ史を知るとヨーロッパ史がちょっと深く見えてきた。日本人とは違う自然崇拝、「民族」という価値観で作られた歴史、芸術やドイツ人の思考を筆者は題名に沿って分かりやすく解説してくれている。

  • ざらーっとドイツの歴史をゲルマン以前から通して見たいときはおもしろいかも。森や山や川はあまり絡んでこないので、ドイツの人たちは森や川とどんなつながりを持ってきたのか深く知りたい人というはちょっと残念でしょう。魔女の部分だけは面白かったです。あとは、まあ、そうでしょう、ってとこで。

  • 234-I
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  • ヨーロッパ各国のテーマ史シリーズ。ドイツ統一は小国乱立と宗教対立などで1871年明治4年と日本より遅れる。
    ライン川、ドナウ川、エルベ川とアルプスなどの山々と深い森は神秘的なゲルマン的物語、哲学、音楽を育むも
    産業革命時には森林伐採により自然破壊後ナチ時代は意外にも自然保護エコを推進。そして戦後は環境先進国のリーダーへ。民族主義的なドイツがなぜ一時期成立したのかが少しだけわかったような。歴史をいろんな角度から観るのも面白い。

  •  自然環境との関わりを通して、ドイツ史を概観する内容。過去に現在ドイツ人と呼ばれる人々がどのように自然と関わっていたか、豊かな自然を通してどんなものを信仰していたか、影響を受けていたかが、分かりやすく説明されている。近隣諸国との環境や考え方の違いの比較もされており、興味深かった。

  • 中高生向けレーベルなのに4章あたりからついて行けなかったMy頭脳。
    歴史書は通読してはいけない(戒め)
    そもそも西洋は宗教で喧嘩しすぎなんだよ!
    血統マウントの取り合いでくんずほぐれつ大勢入り乱れすぎなんだよ!
    高校時代日本史選択しなかった私が言えることではないが、島国の歴史を学ぶことがいかに簡単か思い知らされた気分である。
    でも世界史のロマンチシズムが好きなんだな。
    ドイツ史はまたチョー初心者向けの本を読むとして、グリム童話の下地に迫るべく、ドイツ文化に通奏するロマン主義の水脈を僅かでも掘り進められたことは一定の収穫だった。

  • 岩波ジュニア新書、池上俊一さんのスペイン史、フランス史に続いてドイツ史を読了。
    長いヨーロッパ史において「ドイツ」という国が成立したのはごく近年のことですので、それ以前の歴史を遡ることはなかなか容易ではなく、現にAmazonで検索してみても「ドイツ」の「通史」のような本はほとんどない中で、通史としての概観にまずまず成功していると思います。

  • ドイツの歴史と国民性は、その自然にあり。

    ドイツは、確かにイギリスやイタリアやフランスと違う。そのなんとなく思っていた気持ちに対する、ひとつの考え方を示してくれた本であった。

    側にある森と川の積極的な利用。それは自然を愛でるのではなく、利用するもの。しかし、一方で自然の力に対する畏れや崇拝も、神話や妖精、民話や伝承として息づいていた。長く個々に別れてきたドイツの統一に、その自然への愛が危ない形で作用したというのも興味深い。

    ロマンティックな自然崇拝、その土地の自然や民話・神話を題材とする音楽。ナチスに愛されたワーグナーを今も受け入れられないという考え方がある。「自然」を尊ぶが故の、行きすぎた潔癖、そして排除。環境大国の萌芽がナチスドイツにも見られたというのは衝撃的だった。アウトバーンがどういう考え方で、いつ建設計画が立てられたのかも知らなかった。

    愛国心と結びつく故郷の自然への思い、と考えて思い出したのは、ミュージカル「I am from Austria」である。オーストリアのミュージカルだが、これを見たときの、故郷の自然を愛する者が同胞、ここが生まれて帰る場所という理想の歌い上げは、移民が増えて衝突が見え始めているこの時代で、どうしても座りの悪い気持ちになった経験を思い出した。

    ドイツの人々にとって、自然は、大いなる力を信じると同時に、コントロールする対象でもある。その考え方は規則や秩序というドイツのイメージに合っている。これからのドイツはどうなっていくのか、この本は2015年の出版のためか、著者はポジティブにドイツの動きを捉えているが、5年経った今、あまり楽観的には見られないところがある。

  • 森の民。19世紀に登山ブーム。20世紀初め河川水運の活発化(石炭・原料の運搬)。森に林道、散歩、ハイキング、山菜・果実採り。
    ヒトラーは生涯禁酒禁煙で菜食。健康志向。

  • 戦争や統治者の名前といった表面的なものではなく、生活の基底としている自然を通して歴史を説明している視点がいい。

    ゲルマン人は、自然崇拝の多神教を奉じ、神々はヴァルハラという天国にいるとし、聖なる森を礼拝して、神秘的な空間とみなしていた。

    ローマ帝国が滅亡すると、海を航海する商人は減り、内陸の大河を移動して交易する商人が増えた結果、川沿いには次々に都市が成立して発展した。ドイツの都市は、10~11世紀に商人が定住してでき始め、商人法を基にして都市法がつくられ、独自の地位を持つようになった。

    ドイツ人は、10世紀からエルベ川の東方に進出し始め、12世紀には本格的な植民を始めた。

    農民を支配する領主としての貴族は、11世紀半ばから13世紀にかけて、川沿いの小高い丘に城を建てて拠点とした。

    北の海沿いにできた都市は、商業上の特権確保を目的としたハンザ同盟を結成し、政治的にも大きな力を持った。14~15世紀の最盛期の後、オランダがバルト海に進出して低迷した。

    16~17世紀に集中した魔女狩りは、4分の3がドイツを中心とする神聖ローマ帝国内で行われた。魔女狩りの対象とされた女性は、薬草の知識を持ち、産婆を務め、占いをして村人を助ける尊敬の対象だった。プロテスタントとカトリックの宗教対立によって世界の秩序に不安や疑念が起きたこと、女性の神秘性に男性が畏怖や嫌悪を感じたこと、公的な権力による規律化が強まり、正しい秩序を樹立するための統制活動「ポリツァイ」の対象とされたことが理由として考えられる。

    近世から近代にかけて発展した銀山、鉄山、炭鉱、岩塩鉱は、燃料を提供した森、精錬のための大量の水を提供した川によって支えられた。

    ジャガイモは、17世紀までは観賞用やブタの餌扱いだったが、30年戦争やその後の飢饉によって、食料として栽培されるようになった。

    大地や自然から生まれた伝統の習俗や、「信仰のみによって人は救われる」と説いたルター主義が受容されたドイツでは、啓蒙主義は受け入れられなかった。近代になっても、古典的教養は国家のテクノクラートのためのもので、市民社会形成の推進力にはならなかった。19世紀に急激な工業化が進み、賃金労働者の増加、単調な作業の拡大といった労働環境の変化が起きると、人と人のつながりの新たな組織として、協会、組合、連盟、同好会が次々につくられていった。

    ルネサンスの合理主義や近代の啓蒙主義の影響が小さかったドイツでは、自然との深いかかわり方を追求したロマン主義が花開いた。これは、自然を重んじ、人間の情熱などをたたえるゲーテやワーグナーなどを引き継ぐもの。古代から近代にいたるまでの民話を集大成したグリム兄弟も活躍した。18~19世紀のドイツの文学者、画家、哲学者には、共通したドイツ的な自然観がみられる。

    ドイツ人は、生活の基盤としての自然と向き合い、自然と一体化することによって、人間の存在や文化の理想像を作り上げようとしてきた。そのため、文明よりも文化を重んじ、啓蒙主義は根付かず、ロマン主義が受け入れられた。

    自然との関わりが強いこと、民族の一体感が強いこと、組織への指向性が強く、軍国主義の歴史を歩んだことなど、日本との類似性を改めて考え直させられる。グリム童話は日本でも親しまれているし、民話を集大成したグリム兄弟は柳田国男を彷彿させる。自然や地形がこれほどまでに人間の信仰や思想に影響を与えるものかと驚かされる。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2022年 『歴史学の作法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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