- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784005008834
感想・レビュー・書評
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「社会が大きく変化し、先行き不透明で、不安な現代社会は明治時代とよく似ている」と言われますが、明治時代の社会不安の原因や仕組みや問題点を丁寧に解説してある本書は、私達にとって、とても参考になるものだと思いました。
ぜひぜひ読んでみて下さい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本の近代の始まりはこんな感じかという面白さと現代の社会問題に通じていく何かを感じました。
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「貧しいのは努力が足りないから」「辛いのはお前だけじゃない」「日本にそんな余裕はない」と生活に行き詰まった人を批判するのは現代だけではなかった。明治時代もまた、そうであった。
明治政府はクーデターを起こした士族の政府で、実際カネはなかったのであるが、投票も一定以上の税金を納めた男子のみ、議員も金持ちばかりだから、当然自分の所属している階層が得するような社会を作る。そうするとますます貧しい人は救われない。
現在は、18歳以上なら投票できるし、被選挙権も収入とは関係なくある。しかし、国会を見たら二世三世議員ばっかり。小学校から私立で、お金の苦労なんかしたこともない人が政治のトップにいて、自分の所属する階層が儲かるような社会を作っている。
ということで、明治時代を専門にしている歴史研究者が明治の社会を解説する本ではあるが、現代はじゃあ、どうなの?という問題提起が実はメインテーマである。
まあ、暗澹たる思いがしますね。
勤勉、倹約、努力はそれ自体悪くはない。しかし、そうしたからって、成功や幸福が約束されているわけではない。これを信じ込みすぎると、極端な自己責任論に走りやすい。実際に歴史を見れば、個人の努力とは関係なく、マネーゲームや政治家の判断でインフレやデフレが起こり、突然職を失ったり、資産の価値が無くなったりすることが起きるのは明らか。これを自己責任にすれば、一部政治家、資本家の思うつぼじゃないか、とこれを読んで私も思った。
明治期の生きづらさの理由を解き明かすことによって、現代を生きる私たちの生き方を考えよう、という内容で、明治社会から今に続く「通俗道徳」に縛られる危うさは、知っておいて損はない。就職氷河期の人なんか、真剣に怒っていいと思う。 -
Twitterで見かけたこの本、読みやすい良書だった。
不景気、大きな社会構造の変化期による大衆の不安、家に搾取される女性たち、貧困者への冷たさ、競争社会、若い男性たちの暴動など。
切り口もわかりやすく、小学校高学年からでもわかるだろう。
作者の視線は、明治以降の、成功者=特別努力した者、という思想に嵌まる罠について集中して警句を発してくれる。
昨今の考えにもおおいに通じるこの感覚は、確かに怖いものだ。
この罠の背景にある物を見れば、日本社会が、自分は苦労しているのに、のうのうとして怠けている(ように見える)のに生活をみんなのお金から補填してもらうヤツへの冷たさがなにによって起こるのかわかってしまう。
狭い価値観、余裕のない社会、いずれも多様性の裏側に、弱く声のない誰かを追い詰めていく。 -
刊行日 2018/09/20
「日本が近代化に向けて大きな一歩を踏み出した明治時代は,実はとても厳しい社会でした.社会が大きく変化する中,人々は必死に働き,頑張りました.厳しい競争のなかで結果を出せず敗れた人々…,そんな人々にとって明治とはどんな社会だったのでしょうか? 不安と競争をキーワードに明治社会を読み解きます.」
「頑張れば必ず成功する。成功しないのは努力が
足りないからだ」という考えを、私たちの周りでも
見聞きしませんか?実はこういう考えは、江戸時代
後半から始まり、明治になって更に広まったと
いうのです。知りませんでした!その日暮らしの貧しい
人たちへの目が厳しかったのは、そういう考えが社会
全体に広まっていたからでした。これは、現代社会
にも共通すると思いませんか?「不安を受け止める
仕組みがない」ことが明治時代と現代の共通点では
ないかと著者は言います。急に明治時代が身近になる
本です。」
(山内図書館Teens おすすめ本紹介より)
はじめに
第一章 突然景気が悪くなる──松方デフレと負債農民騒擾
景気変動/松方デフレ/松方デフレの影響/負債農民騒擾/江戸時代の習慣と明治の制度/須長漣造の怒り/デフレーションという不条理
第二章 その日暮らしの人びと──都市下層社会
ドヤ街とネットカフェ/貧民窟/貧民窟のルポルタージュ/住居と家族/職業と食事/都市下層社会の特徴
第三章 貧困者への冷たい視線──恤救規則
生活保護/恤救規則/恤救規則の制定過程/窮民救助法案の挫折
第四章 小さな政府と努力する人びと──通俗道徳
カネのない明治政府/地租改正と減税/通俗道徳/江戸時代から明治時代へ
第五章 競争する人びと──立身出世
日清戦争/地租の増税と地方利益誘導の政治/貧民救助論争/逃れられない「わな」/立身出世の時代
第六章 「家」に働かされる──娼妓・女工・農家の女性
売買される女性・非正規雇用の女性/公娼制度/芸娼妓解放令/「自由意志」という建て前/「家」とは何か/「家」のために働く女性/女性の抑圧のさまざまな形
第七章 暴れる若い男性たち──日露戦争後の都市民衆騒擾
デモと暴動/日比谷焼き打ち事件/日比谷事件後の都市民衆騒擾/なぜ若い男性は暴動をおこすか/「あえて」もまた「わな」/戦争と平和,暴力と非暴力
おわりに──現代と明治のあいだ
あとがき
参考文献
書評情報 -
読みやすかった。江戸時代からの変貌は大きいものがあるのは分かっていたけどそれ故に大変だった事も多かったのだと知ることができた。
努力すれば必ず報われる精神が広まったのはこの頃だったのか -
明治史がメインかのようなタイトルだが、実際はなぞる程度であり、内容の大半は明治期からの「通俗道徳」すなわち自己責任論や努力万能論への批判である。
貧困研究系の一思想を知る本としてはそこまで悪くはないかもしれないが、タイトルからすると肩すかし感が強く期待はずれだった。 -
Kindle Unlimitedで読了。
さらっと読めるが考えさせられる。
ジュニア新書のため読みやすい。
中高生がどんな感想を持つか気になる。 -
頑張れば成功する。
安丸良夫さんの提唱する明治期の通俗道徳に囚われているのが明治期の生きづらさと説かれている。
貧民窟、売春のような環境、貧民に対する視線の冷たさ、立身出世による頑張れば報われるという考え。
一見、努力=貧困からの脱出のように思われるが、努力した結果、環境からの脱出が出来なかった場合どうなのかという点が問われている。
明治期の生きづらさと現代の生きづらさは共通はする事があるのではというのが要旨。
共通化しているようで、一概にそうとも言えないというのが自分の意見。
明治期と現代の間を省略して論じるのは無理がある。
それぞれの時代に課題があり、環境も違う。
通俗道徳の概念に違いもあり国民の役割も違うものを同列に扱うのは違うはずだ。
貧困対策に予算が回されなかった社会背景も論じないと一方的に明治は生きづらい社会と断定してしまうきらいがある。
一側面ではあるが為政者の思想も併せて理解しないと結論に厚みが出ないと思われる。 -
近代日本のはじまりに「仕掛けられた」価値観が、現代の我々に深く内面化し「伝統」というラベルで、いかにも古くからある揺るがないもののように錯覚させられている。その結果の「生きづらさ」について、もっと考えたいし歴史から学びたいと思えます