不平等の再検討――潜在能力と自由 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006003937

感想・レビュー・書評

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  • センのcapability approachに関して学ぶとするなら、最初の本になりうるかも。
    "福祉の経済学"に比べて、数式はほぼない。
    また、具体例が多い。
    思想がよく伝わってくる。
    なぜ?の部分が。

    生み出した富の量の合計で国の豊かさを評価すると、
    個人の差や、上位のお金持ちの富の和で打ち消されたその国のボトムにいる人たちの貧困や不平等が見えなくなってしまう。

    なぜ豊かな国なのに貧しい人が存在するのか?。

    インドでボロボロの服を着ていても困らないけれど、たとえば日本や豊かな国ではそんな服を着て行けるところはとても限られてしまう。
    …たとえば。
    スマホはお金がかかるといって、貧しくて持てなかったり、持っていても使う能力がないと、かえって働く機会を逃したり、災害時に情報を得られなかったりするのはよくある。

  • 1998年にノーベル経済学賞を受賞したインド人経済学者、アマルティア・セン氏の主唱している「ケイパビリティ・アプローチ」の概略が分かる本でした。センは人間の福祉の指標としてGDPや富、効用、幸福度を用いるよりも、各人のケイパビリティに着目するべきだと主張しているわけです。まずこれは訳者自身が冒頭および巻末に記載していますように、本書内で度々使われている「潜在能力」と「福祉」は、それぞれケイパビリティ、ウェルビーイング、と置き換えて読むと一層理解が深まります。逆に言うと潜在能力、福祉として読んでいると混乱することが多々あります。ケイパビリティは何かといえば、「~をすることができる能力(自由)」を意味していて、実際に顕在化している能力を含んでいます。そしてウェルビーイングとは文字通り「良い状態であること」を意味します。福祉というとウェルフェアを連想することが多いかと思いますが、これはどちらかといえば何か良い出来事が起きるという行為ですが、ウェルビーイングはBeing(存在)という文字があるように、良い状態であることを意味します。そしてセンは、各人のウェルビーイングを高めることを人類の目的とし、それが達成できているかを判定するものとして各人(もしくは集団の)ケイパビリティを見よ、と主張しているわけです。

    翻って現実社会を見ると、GDP成長率を高めよ、生産性を高めよ、ROE(株主資本収益率)を高めよ、というスローガンがあちこちから聞こえてきます。そして我々はあたかもこれが「目的」であるかのような錯覚を持ってしまうのですが、目的はあくまでも人々のウェルビーイング向上であって、所得や富、生産性は手段でしかありません。またミクロ経済学では各人の効用(ユーティリティ)を最大化するという思想がありますが、これはGDPや富ではなく幸福度、満足度(の総和)を最大化しようという意図があります。これに対してもセンは問題点を指摘し、ケイパビリティの優位性を主張しています。またこれはミクロ経済学の知識がないと理解が難しいのですが、センは人間が持つ「機能」と「ケイパビリティ」をそれぞれ「点」「空間」という風に解釈しています。つまりケイパビリティは機能(できること)の集合で、ケイパビリティが高いというのは、その選択した機能の高低によって得られる空間の広さ(選択できる余地の広さ)を意味します。

    以上、私自身の頭の整理の意味も込めて書きましたが、ケイパビリティ・アプローチは非常に本質を突いているという印象を持つのと同時に、正直理解が難しいとも感じました。逆に言えば、すっと頭の中に(腹の中に)落ちていく概念として説明出来るようになれば、一気に世の中に広まるのではないかと思います。ケイパビリティ・アプローチの主な適用分野は発展途上国の貧困問題、格差問題などですが、最近では先進国の様々な経済社会問題などにも適用されることがあるそうで、個人的には21世紀の新たな指標としての可能性を強く期待しました。

  • > よりたくさんの選択肢を持っているということが、常に、その人がしたいことをする自由を広げることには必ずしもならない。

    「この文脈で重要な多様性はなにか」が大切。そうでないと、人間の多様性のために大きな差を生み出すことになる。ハッとする。

  • 貧困は人間の選択肢がはく奪されている状態。極度の貧困により、栄養状態が悪い。雨風をしのげる家がない。予防可能な病気にかかる。早死にする。読み書きができない。部族紛争で負傷して体が不自由(身体障がい)になる。財を活用して生活の質を高める力がなければ、財を平等に分配されたとしても、それを充分に活用できない。国家は人が自分の願望や目的を実現するための前提となる能力を保障すべき。市場でまともな経済競争をするための前提となる能力を保障すべき。アマルティア・センSen『不平等の再検討』1992
    ※エチオピアで飢餓。ハイレ=セラシエ皇帝「働いて努力しなければ富は得られない」と、国家による救済策をほとんどせず、飢餓が悪化。国家が極度の貧困を解決すべき。

    経済開発はそれ自体が目的ではなく、人間のwell-beingを増やすための手段だ。人々を抑圧して、経済開発を進めるのは許されない。Human development (UNDP) マブーブル・ハク(パキスタンの経済学者)。

    自由な社会にとって、感情は大切だ。非合理なものとして排除してはいけない。不正に対する怒り、価値喪失への恐怖、困っている人への同情。感情が自由な社会を支えている。マーサ・ヌスバウムNussbaum『感情と法』2004

    各人が人間らしい生活を送るために必要な潜在能力がある。例えば生命・身体の健康・身体の不可侵性・感覚/想像力/思考力・感情・実践理性・連帯・共生・遊び・自分の環境の管理。ロールズの正義論では、こうした潜在能力を各人がもつことを前提としており、重度の知的損傷のある人々は除外されてしまっている。最も恵まれない人々への配慮が必要。マーサ・ヌスバウムNussbaum『正義のフロンティア』2006

  • Amazonの感想が分かりやすくて良いです。

  • 福祉、貧困対策などを考える上で基本的な考え方となる人のうち、割と新しい部類に入る人。
    数値化して捉えることが困難な貧困を、ケイパビリティとかいう、その人たちが望むものを得るためにアクセスすることのしやすさと定義した。
    例えば所得が低くても、田舎で自給して芋食って満足している人は貧しくないし、所得がある程度あっても都市部で子どもに塾によう行かせてやれんという人は貧しいだろうという話。
    多様な生き方がある現代においては、貧困は簡単な一言で定義するのは困難だが、それをかなりまとめた功績は大きい。

  • 原書名:INEQUALITY REEXAMINED

    序章 問題とテーマ
    第1章 何の平等か
    第2章 自由、成果、資源
    第3章 機能と潜在能力
    第4章 自由、エージェンシーおよび福祉
    第5章 正義と潜在能力
    第6章 厚生経済学と不平等
    第7章 貧しさと豊かさ
    第8章 階級、ジェンダー、その他のグループ
    第9章 平等の要件

    著者:アマルティア・セン(Sen, Amartya, 1933-、インド、経済学)
    訳者:池本幸生(1956-、経済学)、野上裕生(1961-2012、経済学)、佐藤仁(1968-、経済学)

  • 東2法経図・6F開架 B1/8-1/393/K
    東2法経図・6F指定:B1/8-1/Tamate

  • 著者:アマルティア・セン
    訳者:池本幸生 |野上裕生|佐藤仁

    【書誌情報】
    本体1,480円+税
    通し番号:学術393
    刊行日:2018/10/16
    9784006003937
    A6 並製 カバー 432ページ 
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b376434.html

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著者プロフィール

1933年、インドのベンガル州シャンティニケタンに生まれる。カルカッタのプレジデンシー・カレッジからケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進み、1959年に経済学博士号を取得。デリー・スクール・オブ・エコノミクス、オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ハーバード大学などで教鞭をとり、1998年から2004年にかけて、トリニティ・カレッジの学寮長を務める。1998年には、厚生経済学と社会的選択の理論への多大な貢献によってノーベル経済学賞を受賞。2004年以降、ハーバード大学教授。主な邦訳書に、『福祉の経済学』(岩波書店、1988年)、『貧困と飢饉』(岩波書店、2000年)、『不平等の経済学』(東洋経済新報社、2000年)、『議論好きなインド人』(明石書店、2008年)、『正義のアイデア』(明石書店、2011年)、『アイデンティティと暴力』(勁草書房、2011年)などがある。

「2015年 『開発なき成長の限界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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