湿原(上) (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (634ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021665

作品紹介・あらすじ

大学紛争が激化した一九六〇年代の終り、謎多き人生を過ごしてきた自動車整備工・雪森厚夫は、スケート場で出会った女子大生・池端和香子に恋心を抱く。T大紛争を巡る混乱の中で、心病む和香子は闘争の有効性に疑問を持ちながら、Y講堂にも出入りする。急接近した二人は六九年二月、冬の北海道への初の旅に出た。帰京した二人は、新幹線爆破事件の容疑者として逮捕される。予期せぬ罠にはめられた二人の孤独な闘いが始まる。

感想・レビュー・書評

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  • 2019年3月25日、読み始め。
    2019年3月30日、68頁まで読んで、返却。


    ●2023年1月18日、追記。

    先頃、亡くなられたとのこと。
    以下、ウィキペディアより。

    加賀 乙彦(かが おとひこ、男性、1929年4月22日 - 2023年1月12日)は、日本の小説家、医学者(犯罪心理学)、精神科医。勲等は旭日中綬章。学位は医学博士(東京大学・1960年)。日本芸術院会員、文化功労者。本名は小木 貞孝(こぎ さだたか)。本名でも著作がある。

  • かなり昔に新聞で連載されていたのを覚えている。
    読んでいたわけではなかったが、なぜか
    「労働者の解放を掲げる学生デモに主人公が参加したところ疎外され、『俺はプロレタリアートだ』と話したら袋叩きにあった」場面と
    「身内が犯罪を起こしたせいで社会的に迫害された家族(娘?)が『私、三十になったのに結婚できないのよ』と身内を詰る」場面が記憶に残っていた。
    気になったので図書館で借りて読んでみた。

    舞台が昭和43年だったことに驚いた。スリや窃盗の被害金額が5万円とか17万円とか出てきたが、当時の金額ではかなり大金のはず。

    Wikiで著者を調べたら精神科医の肩書があり、なるほど登場人物の心理描写はリアリティがある。
    雪森厚夫が犯罪者に戻らないための「オマジナイ」として自身に課している習慣と、それが崩れ始める不安。
    池端和香子の妄想と長い語り。LSDによる精神の変容。無茶苦茶な症状が一転して発揮される、外界の嵐にびくともしない内面の強さ。
    守屋牧彦の屁理屈。戦争で実際に人を殺した経験もなく、社会に出て自分の器を知ることもない幼稚で肥大した自我が、本を読んだだけで周囲を見下して高尚な思想を語り、抵抗しないとわかっている相手にだけ強圧的に出る、戦後のリベラル・サヨクから現在のポリコレに受け継がれる暴力性と醜悪さと見苦しさ。

    そして、取り調べにより容疑者が虚偽の自白に追い込まれていく過程の巧妙さと冷たい恐ろしさ。
    読者は雪森厚夫の無実を知っているが、過失と偶然が重なり状況証拠はあまりにも不利である上に、大貫検事が事件の全貌を点検し再構成する姿勢の緻密さと対照的な飯野弁護士の役立たず感が合わさって、映画「それでも僕はやってない」の絶望感が漂ってくる。

    タイトル「湿原」に掛けてある北海道根室の自然描写も丁寧で、旅行に行ってみたくなった。

  • 前科者に対する世間の目は好奇でかつ厳しい。その偏見が新幹線爆破事件の犯人に仕立てられてしまう。取調べの攻防、拘置所、公判のリアルな展開に引きずり込まれる。2016.8.28

  • 非常に面白かった。

    去年読んだ中では『破戒』がベストでしたが、今年度は恐らくこれが私のベストだろうと。

    元々、精神科クリニックの院長先生のおすすめで、読んでみようと思った事がきっかけ。


    主人公厚夫さんの人間性が、私には魅力的でした。時折覗かせる人間らしさや、ストイックさ、脆さなど。
    ストーリーの流れもよく、人を惹き付け、やきもきさせ、停滞した状況から、後半にきて一気に引き上げる。
    続きがとても気になります。

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著者プロフィール

1929年生れ。東大医学部卒。日本ペンクラブ名誉会員、文藝家協会・日本近代文学館理事。カトリック作家。犯罪心理学・精神医学の権威でもある。著書に『フランドルの冬』、『帰らざる夏』(谷崎潤一郎賞)、『宣告』(日本文学大賞)、『湿原』(大佛次郎賞)、『錨のない船』など多数。『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞を受賞、続編である『雲の都』で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。

「2020年 『遠藤周作 神に問いかけつづける旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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