あなたと共に逝きましょう

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022504395

作品紹介・あらすじ

老い方の下手な団塊世代の共働き夫婦を襲った、夫の動脈瘤破裂の危機。硫黄の噴く北の岩盤浴の地へと舞台は流れる。心臓を停められても、人はなお尊厳を保てるか?妻の夢の中へ逢いに来る男。人間の不可思議な「体」と「心」の深淵に潜る、作者、5年をかけた新境地。

感想・レビュー・書評

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  • 大きな動脈瘤が発見され、破裂の危険があるため即刻手術を勧められる夫。
    妻は仕事をしながらも時間をやりくりして、
    夫に付き添い湯治に出掛けたり、手間の掛かる食養生を引き受ける。
    妻の語りで進むこの話は、一見夫唱婦随に見えるが決してそうではなく、
    主観を交えず、即物的に夫の病を観察する彼女は終止傍観者のようだ。

    カテーテル検査の直前、恐怖でどんどん血圧が上がっていく夫に、
    「臆病者。弱虫。意気地なし」と心の中で罵る妻。
    万が一の可能性もある手術を受ける覚悟が決められず
    最後まで民間療法へとあがく夫にひきかえ、
    「死なばもろとも」と、早々に一蓮托生の腹を括る妻の潔さよ!

    彼女はある日テレビでちあきなおみの歌を聴いてから、
    女郎屋で遊女になった夢を繰り返し見るようになる。
    女の情念を切々と歌い上げる「ちあきなおみ」の歌声と、
    官能的な夢の世界との見事なリンクに、思わず膝を打った。

    リアリティー感が半端ない文章に、数年前の自分自身の手術の経験が重なり、
    実在の人物の手記を読んでいるような錯覚に何度となく陥った。
    妻の淡々とした夫への視線が、時おり幼い我が子を見るような眼差しに変わったりして、
    長年連れ添った夫婦の機微もしっかり描かれている。

    村田さんは初読みだったが、破裂寸前の瘤をパンパンに張った水風船に喩えるなど、
    何かのシンボルとしての「モノ」の選び方と比喩表現に、
    卓越した独特のセンスを感じる作家さんである。

  • 1945年生まれ、1887年「鍋の中」で芥川賞の村田喜代子さんの「あなたと共に逝きましょう」(2009.2)を読みました。強烈なインパクトを受けた作品です。鹿丸義雄64歳と香澄62歳夫婦の物語。義雄に「動脈瘤」ができ、手術しかないという医者の言葉は聞くものの、温泉治療で、食養療法で「瘤」が縮んでくれないかと二人で頑張る姿。でも、結局手術を回避できなくなったときの本人の気持ち、寄り添ってきた妻の気持ち・・・。読了後、握り拳ほど(約300g)の心臓の動きを感じ、心臓への感謝の念が心から湧いてきました。

  • 長年連れ添った伴侶に動脈瘤が見つかった。本人はもちろん、妻である主人公も病気に引きずられるように生活や思考を変えていかざるを得ない。重いテーマなのに暗くならずに読めるのがこの作者の美点だと思う。治療法や手術についてもかなり詳しかった。民間療法も取り入れる。とても興味深かった。力まない文章には時々おかしみさえ感じた。この作者の文章を読むのが面白い。他の作品も読んでみようと思う。

    • 夢で逢えたら...さん
      tsuzraさん、はじめまして。
      このレビューを読んですごく興味を持ち、図書館で借りて来ました。
      私は数年前に病で手術の経験があり、自分...
      tsuzraさん、はじめまして。
      このレビューを読んですごく興味を持ち、図書館で借りて来ました。
      私は数年前に病で手術の経験があり、自分や伴侶と重なるものがあると思ったからです。
      素敵なレビュー有難うございました。
      今後ともよろしくお願い致します。
      2014/02/20
    • tsuzraさん
      夢で逢えたら…さん こんばんは。
      この本の、湿っぽくないところと読後感の良さがこころに残っています。
      細かいところを忘れているという、こ...
      夢で逢えたら…さん こんばんは。
      この本の、湿っぽくないところと読後感の良さがこころに残っています。
      細かいところを忘れているという、このこっ恥ずかしさ(^ ^); 恐縮です。
       この作者の「光線」という短編集では、東日本大震災の直後に、今度は妻の方が子宮がんとなり放射線治療を受けるという短編があります。こちらは少し重苦しい印象でした。
      新聞の書評を読み借りてみましたが、全部読み終わる前に返却期限となり最後まで読み切れなかったという情けなさです。
      こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します(^ ^)
      2014/02/22
  • 夫が大動脈瘤を患い、破裂の恐怖に怯えながら夫婦でその治療に奔走する話。
    同時期の短編集『鯉浄土』でも同じエピソードを扱った話があり、当時の作者を強く捉えた題材だったと思われる。或いはひょっとしたら身辺で同病を患った人がいたりしたのだろうか。
    手術しなければ百パーセント助からないと医者から告げられながら、それでも五パーセントの失敗の可能性や後遺症のリスクに、夫婦はなかなか決断できない。耳にした民間療法や岩盤浴の温熱療法に一縷の望みを託してみたりする。
    本書を読んでいて、生命というものが観念的、抽象的なものではなく、ドクドクと一時も休むことなく心臓が脈打ち、全身の隅々まで血液が送られて維持されているのだという、生々しく即物的なものなのだということを思った。

  • H29/11/24

  • 60を過ぎて夫に動脈瘤が見つかった。

    手術をしなければ助からないとまで言われたのに、何故か手術を嫌がり、民間療法に走る。

    食事療法、岩盤浴…色々やるが、結局現状維持にしかならず、最終的に手術を受けることに。

    手術は成功するが、妻は介護疲れからか生還した夫を受け入れられない。

    妻の気持ちは分かるようで分からない。もうちょっと経験を積めば分かるのかな。

  • 60代共働き夫婦を襲った夫の動脈瘤破裂の危機。「一個の石で電線に止まっていた二羽の鳥が一緒に落ちる」感覚を感じるところは、自分の身に置き換えても共感できる。今は夫婦共に元気で子育てに慌ただしい毎日を過ごしているが、いつかこんな時が来るかもしれない。互いを思いやり最良の夫婦関係を築いていきたい。

  • 連れ合いが病んだ経験のあるものなら、このカンジは手にとるようにわかるはず。

  • 60歳を過ぎた共稼ぎ夫婦。夫が心臓の動脈瘤と診断され、いつ破裂してもおかしくない状態とわかる。
    手術を受けなかったらそれは「死」を意味するのだ・・。
    突然の出来事に妻は「一個の石で電線に止まっていた二羽の鳥がいっしょに落ちる」ような衝撃を受ける。

    手術を受けるまでの間、夫婦が生き延びるために試した民間療法。
    そしてそのことで知り合った「死を逃れようとする人たち」

    手術が成功してリハビリに励む夫を見て、鬱に陥る妻。

    ・・・・読んでいて楽しい話ではなかったし、身につまされるという話でもなかった。
    ほぼ同年代の夫婦の話だけど、もしこれが自分たち夫婦だったらどうなんだろう?
    結局、人は一人で生まれて一人で死ぬしかないのだと思う。
    夫婦でも必ずどちらかが先に死ぬのだし、後を追って死にたいのは新婚のときくらいだと思う((+_+))

    ただ、一人になったらさみしいなあと思う。
    なんでもしゃべれるのは主人だけだし、価値観が同じだから安心して意見も言える。
    まあ、せいぜいいっしょにいられる時間を大切にしたいと思う。

  • 身につまされる思いで読み終えました。 手の届くとこにちかずいた「死」、カミサンを看取るか看取られるか? それよりも残された時間を夫婦で楽しく元気ですごしたいもんだ。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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