海の底のピアノ

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.10
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本棚登録 : 116
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022511423

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  • この小説はヒーローものです。そしてヒーローは水雪です。

    ヒーローの条件とは何か。それは、不屈と孤独です。

    水雪は不幸ですが、決してそれに屈せず、むしろ一人で立派に生きてやると決意します。白馬の王子様なんて待ちません。多数の男とセックスして監禁時の性的虐待を無意味なものにしようとしたり、嫌いなピアノに自ら関わりを持とうとしたり、様々に試みます。自分が変化することへの恐れを一切感じません。しかしそんな彼女を理解する者は一人もいなかったし、彼女の本質的な部分は何も変わりませんでした。和憲に出会うまでは。


    和憲はヒロインです。

    彼は母親に呪われています。彼の行動原理は母・鈴子に支配されており、鈴子が望んでいるという理由だけでピアノを弾きます。呪縛の効果は絶大で、彼自身にやりたいことなど思いつかず、自らの意思で選択したものといえば、ピアノの挫折による自殺未遂ぐらいなもの。一度死ぬことで(殺すことで)多少の積極性を彼は手に入れますが、それでもピアノの音は変わりません。水雪に会うまでは。

    この二人は出会い、それは様々な化学反応を生みました(異常聴覚の喪失と味覚の獲得、恋愛感情など)。

    物語終盤、水雪はついに誰にも言ったことのない秘密を和憲に打ち明けます。自分はこんなにも進もうとしているのに、なぜあなたは逃げてばかりなのか、と。

    最終的に二人は“自分の音”を手に入れます。水雪はゴムマスクの男たちを殺し、和憲のピアノを通して。和憲は、、、


    和憲は?


    そう、ここだった。僕はこの小説で分からないところが2つあります。その1つがここです。

    和憲は水雪に会っても母性の呪縛から逃れられなかった(義指を吐き出す)し、キドニーパイを食べてもらってないし、自力でノラを捕まえられなかったし、彼女を殺す力も失った(異常聴覚と味覚のやつ)。なのに、どうやって自分の音を手に入れたのだろうか? それとも、彼は彼女に救われたおかげで自分の音を得て、そのせいで彼女を救えなくなった、という話なのか? 自分の音とは、普遍性のようなものなのか。和憲は凡人になった話なのか(だから水雪に音を与えられた、とも言えるが)。


    もう1つは、鈴子が水雪を誘拐していたという点。つまり黒幕は鈴子で、この物語全編は彼女の歪んだ母性が支配していたと言えます。

    最初このシーンを読んだときの違和感は半端無かったです。誘拐した事実自体はいい。僕は物語の展開を100%受け入れるタイプだからです。分からないのは、それが暗示するものです。

    なぜ鈴子が水雪を誘拐した張本人でなければならなかったのか?(おそらく)ただ読者をびっくりさせる仕掛けではない気がします。何かしらの必然があったのだろうという直感があります。だけどそれが分からない。母性のディストピアで起こった悲劇? とかそういう話? 違うよなぁ、、、


    この中途半端な状況で感想をまとめると、ヒーローがヒロインを救うけど、ヒロインにはヒーローほどの器がなかったんだな、というところに落ち着いてしまいます。

    読解力が欲しいです、、、泣

  • ラジオで「村上龍っぽい」とおすすめされていたので買ってみた。…たしかに。冒頭からおぞましく濃厚でソリッド。あらゆるものは音を発するというアイデアがおもしろい。いったいどこに向かうのだろうとドキドキしながら。でも一気には読めず、いっても40pほど。ちょっとずつ味わうように。…次回作も楽しみ。

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