私に似た人

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022511713

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】引き裂かれた心は、取り戻すことができるのか? いま文庫で爆発的に売れている『乱反射』から5年──《小口テロ》が日常化する社会に生きる人々の出口なき感情を描く社会派エンターテインメントの傑作にして、著者の新たな達成が、いよいよ全貌を現す!

感想・レビュー・書評

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  • 主人公が10人の短編から構成されていて、それが少しずつ繋がっている。

    『小口テロ』が、頻発するようになった日本
    ひとつひとつのテロは単純な無差別殺人の様だが、実行犯は皆『レジスタント』と名乗っていた。
    犯人達に接点は無く、特定の組織が関与している形跡も無かった。
    ただ、彼らは皆いわゆる社会の底辺にいる所謂貧困層に属してした。
    警察に捜査により、事件の陰にSNSで犯人に接触していた
    『トベ』という人物が居る事か゜判明する。
    しかし、『トベ』は一人ではない……。

    たしかに、聞いていた。
    就職氷河期・非正規雇用・派遣切り・ブラック企業・働けど働けど生きるだけで精一杯・
    違法ハウス・他人に無関心・貧困層・引きこもり・いじめ・……。
    何処か、他人事のように感じていた。
    また、ニュースで言っててる…。
    だが、それは現在の日本の姿…。
    閉塞した日本の抱える暗部が、とてもリアルに描かれている。

    様々な登場人物がいた。
     『小口テロ』を起こした犯人達
     事故現場で被害者を介抱した女性・傍観者・写真に撮る人
     犯人の勤める会社の上司やその妻
     事件を担当する公安の刑事
     一流会社に勤めるも、社会に不満を持つ人
     社会に意見を持つ彼を飛び越して行動に移す彼女
     犯人を見下す人
     家族を亡くし生きる気力を失った人
     トベを憎み仇をうとうと決意している親
    捉え方は人それぞれだし、感じ方も人それぞれだろうけど
    その中に『私に似た人』が、きっといるはず
    それとも、他人に無関心なただ傍観しているだけの人々、他人の痛みが想像出来ない人々
    そんな『私に似た人』が大多数の日本を嘆いているのか?

    最後の終わり方は、少し残念な気持ちになりましたが、
    憎悪の一滴を垂らすだけで…誰かに少しでも背中を押されるだけで…
    誰しもが色々な意味での加害者にもなりうり、被害者にもなりうる怖さ…
    日本社会の現在の問題にに真摯に向き合った作品だと思いました。

  • 10話収録の連作短編集である。
    「小口テロ」という共通項が物語を貫いている。

    読み終わって感じたのは、短編が収録されている順序の見事さだった。
    ただ、最終話だけは少し唐突な感じがしてしまったことが残念だ。
    「私に似た人」というタイトルに込められた貫井さんの思い。
    メッセージをきちんと受け取ることが出来ただろうか。
    自分だけが被害者だという歪んだ考えを人は受け入れやすい。
    何故なら、原因は自分以外のところにあると思えば憎む相手が出来るから。
    憎むことで自分と向き合わなくてすむから。
    確かに完璧な社会なんてないとは思う。
    どんなに真面目に働いてもその日暮らしでいっぱいいっぱいのことだってあるだろう。
    その働き場所さえ与えられない状況では、どう足掻いても上を目指すなんて永遠に無理だと思ってしまう気持ちも何となくわかる。
    それでも、社会を憎む=だから誰かの命を奪ってもいいことではない。
    何の罪もない人を巻き込んだ先にあるのは、 甘ったれた自己満足と犯罪者の烙印だけだろう。
    闘うべき相手はもっと別にいる。
    そんな気がしてならない。
    事故や事件が起きたとき、被害者たちを目の前にしても積極的に何か行動できるかというと難しいかもしれない。
    でも、少なくとも動画を撮りまくったりすることだけはしたくない。
    すぐそこで苦しんでいる人がいる。
    何も出来ないかもしれないけれど、せめて自分にも出来る何かを見つけようとする意思だけは持ちたいと思う。

  • 最近読んだ本の中で一番面白かった
    今の時代を生きている私たちにも当てはまることは多いと思う

  • 優遇される富裕層と、搾取される貧困層。そんな冷淡な社会への抗議として、立て続けに起こる「小口テロ」。貧困にあえぎ、自分の居場所を見つけられず、ただ社会への怒りを募らせたレジスタントたち。しかしその背後に彼らを操る存在があった。
    タイトルの通り、どこかしら自分自身にも共通点を見出す登場人物がいるのかもしれません。テロに対する姿勢はさまざまだけれど、今の社会が完璧なものであるとはきっと誰もが思っていないはず。その不満をただ爆発させるのか、押し殺すのか、それとも変えようと動くのか。そしてその変え方は……決して賛同はできないけれど。考えは分からないでもない、かな。
    各話の扉に描かれた黒い模様がどんどん大きくなっていくのが、まるで広がる「絶望」を表しているようで印象的でした。

  • 読んでいる時にちょうど似たような事件があったのでいろいろ考えさせられました。

  • きっと、近々こんな世界になるんやろう。
    色んな視点でテロについて考えさせられる本やった。
    最後の展開には少しびっくりした。
    どうやっていったら、少しでもみんなが住みやすい世界になるのか。。
    考えること、知ることを放棄して、自分主義・身内主義で生きていくことはものっすごい怖いことなんやと改めて実感できた。

  • 小口テロが相次いで起こる日本の話です。きっかけは今の日本でも起こっている事です。今起こっている事件の犯人の動機が「むしゃくしゃして」というのも、この本のテロの理由と似ています。大黒幕の「トベ」が誰なのか、いろいろ考えるのが面白かったのですが、あっという間に分かり、「え、、、(ぽかーん)」でした。もっと焦らして、推理させて欲しかったです。最初はインクの一滴だったのが紙に染み込みジワジワ広がっていくような所がこの本の好きなところです

  • テロをテーマにした10篇からなる短編集。
    各話は独立した話ではなく、どこかで登場人物がつながった短編集になっている。
    それがこの本の主題に合っている。
    社会や人間はどこかでつながっている。
    そう読み手が自然に感じる事により、本全体に深みや厚みが感じられる。

    ここで描かれているテロは組織的な大がかりなものではなく、「小口テロ」と呼ばれる個人が起こしたもの。
    そして、その小口テロを起こすのはワーキングプアと呼ばれる、世間的に貧困層に属する人々。
    彼らの裏には「小口テロ」を扇動する「トベ」という人物の存在がある。
    「トベ」に触発され、テロに走る人々。
    そして、大切な人をテロにより殺された人。
    「トベ」を追う刑事。
    「トベ」殺害を企てる人。
    ワーキングプアの人たちを蔑み見下げる主婦。
    自分も「トベ」になろうとする人。
    この本には様々な人物がテロに対する自分なりの考えをもち、行動する。
    自分の今いる生活環境や立場から。

    この本のタイトルにもなっている「私に似た人」がその中にいるだろうか?と思ったけど、どうもどの人も違う・・・と思った。
    ただ、人を富裕層、中間層、貧困層と分けて、自分は貧困層の人とは違う、と区別する人には嫌な感じを受けた。
    そういう人を非難した人に似てると言えば似てるのかもしれない。

    でも、考えてみれば、その人たちもテロや閉塞感のある今の時代やこの国について自分なりの考えをもっている訳で、最も悪いのは何も考えない人ではないか、と思った。
    自分はそういうのとは全く無縁の所にいて、そんなことを問題としてとらえる事すらしない人、または自分がその中にいても目の前の手軽なもので思考を止めてしまった人。

    ・・・と、こんな風にいろいろと考えさせられる本でした。
    悪意は悪意を呼び、連鎖していく。
    自分は無縁だと思っても、どこでそんな悪意にぶつかるか分からない。
    最初に書いたようにそれは社会や人はどこかでつながっているから。
    それを考えずにいるという事こそが人として危ない事でないかな?とそんな自分なりの考えをもちました。

  • 私も目の前で展開する事件に身を投じることができなかったことが2度ほどある。とても危険だったし、周囲の連中もその判断は正しかったと評価してくれたけれど、今でも軽いトラウマになっている。都会に住んでいる人ならば、多くの人が経験したかもしれないテーマだと思う。ストーリーは問題を提起しつつ、エンターテイメントとしても楽しめる絶妙の仕上がり。締めも良かったです。

  • なかなか考えさせられる話でしたね。短編集のような形式をとっておりますが全体的には1つの長編といった小説です。ある首謀者が社会の弱者たちを使唆して小口テロを引き起こし、社会に一石を投じる事件を頻発させることで社会全体として弱者に対していたわれるようにいい方向に変えていこうという話ですが、格差社会に対する警鐘、特に日本人中流層のあかの他人に対する冷淡さ(自分さえよければ主義)、憎しみの連鎖からは何も生まないなど日本人としての深い難題にメスをいれた社会派小説で私的には非常に面白い内容の一冊でした!オチもなかなかの短編トリックであったと思います。

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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