ひとかどの父へ

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022512765

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】生き別れた憧れの父親は在日朝鮮人─その事実を突然知った朋美を襲う複雑な感情。自らのアイデンティティーと向き合い、父の足跡を追う。昭和史の狭間に秘められていた父と母の間のドラマとは。R-18文学賞作家が在日母娘それぞれの生き様を描いた力作。

感想・レビュー・書評

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  • 大学卒業後やりたい仕事もなくアルバイトをしてる朋美。
    家には父の写真が一枚もなく、記憶もおぼろげだ。
    父の事を思うと、身体の軸が緩んでしまうような心許ない気持ちになる。
    8歳の時に行方不明になって以来ずっと会っていないし、
    戸籍上は非嫡出子という事になっている。
    母親からは「立派な活動家で事情があって離れ離れになった」とだけ
    聞かされていて、きっと「ひとかど」の人物なのだと思い込んでた。
    しかし、ビジネスで成功した母・清子が衆議院議員に立候補した時、
    「未婚の母で、父が北朝鮮の工作員でないか…母は、出世の為に
    権力者の愛人になった…」という疑惑が報じられた…。


    朋美には在日韓国人の親友・孫由梨がいるが、
    優れた容姿を持ち、温かな家庭に恵まれた彼女への屈折した
    嫉妬心は、彼女が日本人じゃないし…と、密かに見下す事で
    何とか軽減されていた。
    それなのに、自分が朝鮮人の子供かとある日突然知った事実に
    朋美が感じた不安・怒り・拒絶・落胆・嫌悪…捻じれてこじれた
    感情が渦巻く様子、そんな自分を受け入れられない気持ちは、
    もしも自分だったら…と、思いを馳せました。

    父と母が出会った1960年代から1970年代・1990年代
    現在に至るまで、時代が行き来し、時代ごとに在日朝鮮人を
    取り巻く状況や時代の空気が変わっていく様子が良くわかる。

    身近に在日朝鮮人の方が居なかった。
    今迄、漠然としか考えた事が無かったし、知らない事も多かった。
    パスポートの色が違う・外国人扱い・通称名の使用…。
    就職・結婚…根強い差別…悲し過ぎる…。
    本当に色々な事を考えさせられました。

    重いテーマで、きっと深く深く描くととても暗く重くなるのだろけど、
    朋美という一人の女性が自らの出自を受け入れ、
    生まれてきて良かったって思える所までの変わって行く様子を
    丁寧にサラッと描いている。
    とっても、気持ちの良い読了感でした。

    著者の深沢さん自身が「在日」という属性に思い悩んできたそうだ。
    在日である事を受け入れられない自分と、そう思ってはいけないと
    いう気持ちに引き裂かれていた…そんな思いがギュッと詰まった
    とても素晴らしい一冊でした。

  • 在日韓国人の話。
    身近にいないから、実感がわかないけど、苦労の連続なんだろうなと思った。

  • 「在日」というものを、あまり考えたことがなかったので。

    プロローグにいる主人公の娘のように、今や韓国大好きな日本人がたくさんいる。
    けれど、多数の人に受け入れられ、ファンがたくさんいたとしても、それでもどこか一方で「これだから・・・」といった扱いを受ける。
    「~~だから見下す」って考えは、本当に嫌だな。
    そんな考え、子どもだけかと思っていた。

    掲載時は最後の章がなかったとか?
    なんだかとても良い終わり方をしていたけれど(ある意味ハッピーエンド)これが無かったら、ちょっと物悲しかったかも。

    在日に限らず、好きな人を好きなように愛せる時代がきたらいいのにね。

  •  テーマがタブー視されてきた在日のことだから、そこに挑戦したということで☆3個。内容は展開など多くのツッコミを入れたくなった。小説というより、ドキュメンタリーを書いてはどうなのかなあといらぬことを思ってしまいました。

  • しっかり読んだり、考えるのを少し避けていたな。
    日韓問題。
    自分のルーツ。
    人と比べて自分の位置を確認しなくてはならない、不安定さ。

    国民をまとまりにして考えず、他人を愛し、愛され、愛を持って人に接していく。

  • ゴーフル缶に詰め込んだ思い出は、反発だとかアイプチなんかじゃ消し去ることは出来やしない。出自だとか血縁だとか、地球とハグしちまえば小さな出来事。そう思っていたい。

  • メディアあり
    私は、理解力不足だと感じた。
    身近に韓国籍だった人がいるのに…

  • 自分が在日である事を知り苦悩や葛藤する女性を描いたお話。重いテーマながら母娘の家族の物語でもありいろいろ考えさせられる作品。在日の人と接点がなかった自分には興味深く読む事が出来た。ミヤネ、クレド、サランヘに全て集約されてる。

  • 妬み、嫉妬、劣等感、優越感、罪悪感、憧れ、嫌悪、絶望…。
    胸の奥がチクッと痛み、心が捻れた感覚に捉われる心情が淡々とえがかれている。表現が上手い。帯通り、感動の物語。

  • 前から気になっていて読みました。

    私の周りでも、差別をしている人はいる。
    私は鈍感なほうかもしれない。
    若い人もそういう人は結構いるのかな?
    私の場合、年配の人に多い気がする。

    だから、清子の両親の態度は
    そういう人はいるだろうな~と思う。
    清子が結婚する壮絶なくだりは
    知らない世界だけに圧倒される。

    しかし、もう一つ、
    美しい母と比べて、冴えない自分に自信を持てない朋美。
    母子の物語がありました。
    甘っちょろいところがある朋美だけど
    子育て中だったころの清子は好きになれなかった。

    読みやすい文章で、無理のない展開だった。
    果たして、自分が朋美の立場だったらどうするかなと考えた。
    そして、差別についても考えました。

    ミアネ クレド サラン
    心に残る、言葉ですね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。2012年「金江のおばさん」で第十一回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。著書に受賞作を含む『ハンサラン 愛する人びと』(文庫版『縁を結うひと』)『ひとかどの父へ』『緑と赤』『伴侶の偏差値』『ランチに行きましょう』『あいまい生活』『海を抱いて月に眠る』などがある。

「2022年 『わたしのアグアをさがして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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