EU消滅 ドイツが世界を滅ぼすか?

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022513380

作品紹介・あらすじ

【社会科学/経済財政統計】難民問題、高まる反ドイツ感情、南欧の経済危機などを抱え崩壊寸前にあるEU。「統合」を目指した欧州はなぜこれほど混迷しているのか? もしEUが解体したら、日本経済にどれほどの影響を及ぼすのか? 欧州経済の重鎮が徹底的にメスをいれていく。

感想・レビュー・書評

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  • 昨年末(2015.12)に、浜女史により書かれた本で、EUの将来について、EUの成り立ちを解説した上で述べています。EUの存続が危ぶまれる声もあるなかで、なぜEUが結成されたかという背景やEU成立に至るまでの経緯を知っておくことは、今後のEUの成り行きを考える上で大事な視点であると思いました。

    EUの構成国は今では28か国を超えて、当初は欧州の中で同じレベルの国々の共同体というイメージでしたが、今では異なってきています。EUを引っ張っていく国(ドイツやフランス)は国内の意見を纏めるのは大変だと思いますが、日本の中で、東京で得た税収を、地方自治体へ交付金として交付しても国内から反対意見が出てこない、というレベルまで意識改革する必要があるのでしょう。

    そのためには、経済だけではなく、政治や外交まで一本化する必要があります、長い道のりになるのか、思わぬ結果となるかは、これからの動向が注目されますね。

    以下は気になったポイントです。

    ・欧州統合の歩みは、「欧州の地を二度と戦争で焦土化しない」という平和への希求に端を発している(p17)

    ・欧州評議会とEUは名前は似ているが、両者は全くの別物。47か国(8億人の人口)の欧州評議会は、EU(26か国、5億人)よりも規模が大きい(p20)

    ・1950年に発表された「シューマンプラン」は、アルザス・ロレーヌ地方に広がる、石炭・鉄鋼産業(軍事力の基礎産業)を共同管理下に置くというもの(p22)

    ・本来の狙いは安全保障上の一体化であり政治統合であった、それが挫折したので、より容易に合意を得られそうな経済にテーマを切り替えた(p27)

    ・EMSに参加することになった各国(当初6+3)が守るべき中心相場として、欧州通貨単位(ECU)が創設された。各国通貨の価値を加重平均して作られた(p52)

    ・単一市場の形成とは、ヒト・モノ・カネ、そしてサービスについて、国境を超えた移動に関する制限を取り除くことを意味している、これを称して「4つの自由」という(p63)

    ・1991年12月には、通貨統合の段取りと政治統合に向かって進むという国々の意思を織り込んだ、マーストリヒト条約が成立、各国で批准されたのが、1993年(p73)

    ・ユーロ導入に同意した各国のECU相場が、1998年12月31日の時点で固定、1991年1月にユーロ圏がお目見えすることになった。11か国(p74)

    ・西ドイツと東ドイツのマルクは、1対1の交換比率で一本化されたが、実に無謀な通貨統合であった。東ドイツの労働生産性は、せいぜい西ドイツの3分の1であったので(p80)

    ・統一ドイツマルクの導入は、旧東ドイツの人による爆買いブームを引き起こしたが、そうそうに東側における失業増と所得の落ち込みに取って代わられた。3分の1の生産性の労働者に、同一の給料は支払えないので(p83)

    ・1980年代後半にぐっと細身になっていたERMのまとまり(鰯泳)は、東西ドイツ統一とともに太くなった。これにより群からはじき出されたのが、イタリア・リアと、イギリス・ポンド、であった(p86)

    ・イギリスの悲劇により、1993年8月にはついにERMそのものが事実上の崩壊に至った。統合欧州としての通貨的一体性を保持・強化するという機能が全く失われたという意味。ERM各国通貨の対中心レート許容変動幅を、上下5%から、30%へと広げてしまった(p87)

    ・EUが公表している購買力平価基準ベースで、EU全加盟国の一人当たりGDPを比較すると、1位:ルクセンブルク(263)、2位:アイルランド(132)、オランダ(130)に対して、最下位ブルガリアは、45である(p99)

    ・EUが東方に向かっての最大の拡大要因は、恐怖であった。ベルリンの壁の崩壊をきっかけとして、かつては鉄のカーテンの向こう側だった世界が、突如として陸続きとなった(p102)

    ・ギリシアの、パパンドレウ家はギリシア政界における名門中の名門、182代首相を務める父親も祖父も首相であった、父首相時代には、大臣経験あり、かつての二大政党の党首でもあった(p115)
    ・ギリシアのサービス化比率は高いが、ポイントは、観光と海運に特化している、これれは他力本願的(p117)

    ・ERMは1979-1998年まで存在したが、この間はギリシアはERMメンバーではなかった(p120)
    ・イギリスは自らが呼びかけたEFTAをいちはやく脱退し、1961年から当時のEEC入りに注力、イギリスが見捨てたEFTAはいまだに、4か国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス)で継続(p131)

    ・イギリスの海賊文化は、宮廷文化のフランス的心情と、相いれない(p139)
    ・ある地域が単一通貨圏として安定的に存続するには、1)経済実態の完全収斂、2)中央所得再配分装置の存在、のうち、どちらかが成り立っていれば良い(p149)

    ・EUから出ていく可能性があるのは、1)ギリシア、2)イギリス、3)新加盟国、4)ドイツ、がある(p179)

    ・現ドイツ首相のメルケル氏の力の源泉は、1)女性である、2)科学者である、3)東ドイツ育ちである(p201)

    ・VW社の取締役会や監査役会の面々は、排ガス検査の実態などについてあまり知らなくても不思議はない。取材に対して、「技術的な話は我々の管掌外である」とコメントしている(p207)

    2016年3月20日作成

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著者プロフィール

1952年生まれ。同志社大学大学院ビジネス研究科教授。
主著=『新・国富論――グローバル経済の教科書』(文春新書、2012年)、
『老楽国家論――反アベノミクス的生き方のススメ』(新潮社、2013年)。

「2014年 『徹底解剖国家戦略特区』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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