1991年(底本1967年、改訂前初版1957年)刊。
著者は元京都大学人文科学研究所教授・所長、元立命館大学教授。
日本史の巨大な転換点の一は中世後期の始まりたる南北朝騒乱だが、本書は6人の人物(結城宗広・楠木正成・足利尊氏・後村上天皇・佐々木道誉・足利義満)に騒乱時のステークホルダーの地位や立場を代表させ、かつその前後50年ずつのスパンの目配せを利かせることで、南北朝期の時代変化を素描する。
兎も角、
① 想像以上に戦乱に明け暮れていた点。
政権内部・将軍家内部・守護大名内部での変わり身の速さ・顕著な掌返し。
② 南朝に鶏の鶏冠という捨て去れない機能があった点。
③ 足利将軍家の経済的基盤が一守護大名クラスでしかない弱さがあり、結局守護大名贔屓の政策に終始。
④ 義満若年期の補佐役・執事細川頼之の高い力量が南北朝統一へ導いた側面。
勿論、自身有力守護大名であるので守護の軍賦軽減・半済法の固定化など大名優遇策も随所に。
ただし足利将軍家も同様の経済基盤なので、幕府経済安定にも寄与している
というのが印象的である。
また、戦乱期の守護大名の力が「佐々木道誉」というバサラに現出。
その一方、後の網野善彦をフィーチャーさせる、天皇と無縁・公界民との関係。この立場の萌芽とも見うる事実を本書は開陳する。
さらに言えば、確かに天皇家の方が厳しい経済的基盤であったが、将軍家とて楽な経済基盤を有していなかった。
それは、
ⅰ) 守護大名の経済的基盤・実力の相対的上昇、
ⅱ) 国人層(≒著者は上層農民層も含むと解するよう)の実力と経済力の上昇により、直接的地域支配なしに土地からの上がりを獲得できなくなってきた
という時代背景による。
ならば、所謂無縁者・漂泊民(交通・流通の任を担う)からの上がりを獲得していたのは天皇家だけではないという想定もできそうだ。
確かに古い書だが、上記の如く、色々気付きもある。
しかも、最近の書では逆に語られない点にも言及される。例えば、
⑴ 荘園制度の解体過程、
⑵ 土地耕作民からの徴税の在り方、
⑶ 宋銭流入に代表される中世期の商業経済化の進展が土地耕作民に及ぼした影響などの言及、
⑷ 土地耕作民らの自立性の亢進とその成長が、対守護大名あるいは幕府権力への対抗を齎した(これは、究極的には戦国大名により超克される)。
こういう視座は、(それだけに止まらないという限定付きで)忘れてはならない観点のはずだ。